第10話 天の方舟
ついにふじこちゃんのステータスが公開!
幼女に土下座をしている悠斗を受付から見下ろしながら、肘を机につけて頭をポリポリ掻いてるクレヴィス。
「はぁ~。 ……ったく嬢ちゃん、本気で冒険者になる気か?」
声に反応したふじこは振り返り、ふん!と鼻息を荒げて『当たり前じゃない!』と言わんばかりの決意をした表情を見せる。
今まで無表情だった彼女の姿を初めてみた悠斗は驚いた。
それと同時に、この決意を無駄にしたくないと思った悠斗はクレヴィスに頭を下げる。
「クレヴィスさん、お願いします! ふじこは絶対に俺が守りますから!」
ふじこもそんな悠斗の姿を見ると、彼の横に並びパンツの裾を掴む。
彼と一緒なら私は大丈夫だとクレヴィスに伝えるように。
そんな悠斗とふじこの姿を見てクレヴィスは折れたものの、内心『守るって言ってるが、さっきまでその保護対象に土下座を決めてたわけなんだが……』と思ったが空気を読んで口には出さなかった。
もちろんアルマ達3人も空気を読んでツッコミは控えた。
「ほらっ嬢ちゃんもこの水晶に手を置きな」
クレヴィスのその言葉に顔を笑顔に変える悠斗に、その顔を無表情で見るふじこ。 2人は案外いいコンビかもしれない。
悠斗に抱きかかえ上げられたふじこはクレヴィスの言う通り水晶に手を置いた。
その手に反応した水晶はいつも通り対象のステータスを表示させる。
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■名前
ふじこ
■職業
スキル
■種族
くぁwせdrftgy
■ステータス
LV.1
HP : -
MP : 999999999999(固定)
STR :2
DEX :3
VIT :1
AGI :4
INT :999999999999(固定)
MND :32544(固定)
LUK :-
■スキル
・創造魔法
・生命共有
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「ふじこ、お前……ツッコミどころ多すぎだろ」
余りにもツッコミどころが多すぎるふじこのステータスを見た一同は絶句していた。
「それに……『くぁwせdrftgy』って種族なのかよ!」
「ちょっと悠斗! 突っ込む所そこじゃないでしょ!」
アルマからすれば突っ込む所はもっと他の所にあるので、思わずツッコミを入れてしまった。
「……悠斗、この娘を絶対に目を離すな、片時も離れるなよ。 それが守れないのであれば冒険者資格を剥奪する」
気迫を込めたクルヴィスのその声に、悠斗はヘッドバンギングでもしているのか全力で頭を振っている。
そんな悠斗の態度に少し納得したのか、クルヴィスは視線をアルマ達に向けた。
「『戦場の戦乙女』であるお前達に指名依頼……いや、ギルドマスターである俺からの頼みになる」
クルヴィスがこれから何を言うのだろうか、何となく察していたのだろう。 アルマ達が神妙な面持ちになる。
「ずっと……とは言わねぇ。 お前達に可能な範囲でいい、悠斗とふじこの面倒をみてやってくれ。 できれば駆け出しから卒業するぐらいまでは」
「悠斗とふじこちゃんのステータスを見た時からそうなるんじゃないかなと思っていました。 ――わかりました、暫くこの2人の面倒は私達『戦場の戦乙女』がみます」
「すまねぇな……それと――」
クレヴィスが何かを伝えようとしたのだが、それを遮るようにアルマが声を出す。
「分かっています。 さすがにこれは……」
「そういう事だ。 頼んだぞ、お前達」
クレヴィスと『戦場の戦乙女』の3人はお互い頷いて何か納得しているのだが、当の本人である悠斗とふじこだけは一体何があったのか、何が問題があったのか理解していなかった。
「あ? え? 何が?」
「……?」
「分かってないならそれでいい、お前たちには関係ないことだ」
知らなければそれでいい、世の中には知らない方が幸せな事だってあるのだ。
無口なふじこはまだしも、悠斗は頭が悪いからどこでバレるか分からない。 言わないほうがいいだろうとクレヴィスもアルマ達も心が一つになった。
「さて、冒険者プレートだが……そこの嬢ちゃんの分となると、今日中に渡すのは難しい。 明日にはできるからまた朝にでも取りに来い。 今日はもう遅いから宿に返れ」
「はぁ~どうすっかなぁ~」と頭をポリポリ書きながら受付奥に消えていったクレヴィス。
立ち去っていくクレヴィスの背を見て、アルマが悠斗に声をかけた。
「それじゃあ行きましょうか」
「えっどこに?」
「宿に決まってるでしょ。 私達が利用してる宿だったら確か部屋が空いてたと思うし、紹介してあげる」
「おっサンキュー!」
「さんきゅー? まぁ良いわ、行きましょ」
冒険者ギルドを抜けて、アルマ達が利用している宿へ移動する悠斗達一向。
冒険者ギルドから西に移動した北区よりの所にある宿が、現在アルマ達が利用している宿だ。
「へぇ~ここか……」
悠斗とふじこは建物を見上げる。
周囲にある建物よりも造りがしっかりしている木造の宿の名前は『天の方舟』。
御大層な名前がついているが、その名前の通り安宿とは雲泥の差がある。
部屋は全て個室になっており、もちろん鍵がしっかりついてある。
安宿みたいに薄っぺらい壁の様な何かではなく、しっかりとした厚みがあり小声で話せば音漏れはしないだろう。
宿の見た目も少し高級感があり、相場は高いだろうなという事は想像がつく。
「ここが私達が利用してる『天の方舟』よ」
「『天の方舟』ね~。 ちょっと高そうなんだが、俺達そんなに金は持ってないぞ?」
「紹介してあげるって言ったでしょ? ついてきなさい」
悠斗を一瞥して宿に入っていくアルマ達。
「おっおう」
言われるがままアルマ達についていく悠斗とふじこ。
悠斗達が宿の中へ入ると、給仕服を着た綺麗な女性が声をかけてきた。
「お帰りなさいませ、アルマ様・レイ様・ニーナ様」
「ただいま、シル。 こっちは悠斗とふじこちゃん。 暫くここで厄介になってもらうわ」
「承知しました。 悠斗様にふじこ様、私はここ『天の方舟』を運営していますシルベスタと申します。 以後宜しくお願いいたします」
丁寧に挨拶する育ちの良さそうな女性はシルベスタ。 この『天の方舟』を1人で運営している女性。
普段から丁寧に手入れをしているであろう輝くような金の長髪をシニヨンにまとめてスッキリさせ、髪留めに使っているバレッタが特徴的だ。
そんな彼女を見て、鼻の下を少し伸ばしている男が挨拶をする。
「あっ俺は三島 悠斗と言います。 それでこっちの小さいのがふじこです」
「ほらっ挨拶しろ」とふじこの背中を押して前に出そうとするのだが、ふじこは悠斗の足に隠れてしまう。
「あ~すみません、こいつ恥ずかしがり屋で無口な奴でして、すみません」
「いえいえ、とんでもございません」
優しく柔らかい声に益々悠斗は鼻の下を伸ばしていく。 そんな悠斗の顔に腹が立ったのか、ふじこは悠斗の太ももをつねる。
「イテテテテ! ふじこ、何するんだよ!」
「……」
あいも変わらず無表情なのだが、何だかふじこが怒っているように感じる悠斗。
「何怒ってるんだよ……」
「ふふふ、仲が宜しいんですね。 悠斗様もふじこ様もお疲れだと思いますし、部屋へご案内致しますね」
「あっその前に宿代を……」
「大丈夫でございます。 アルマ様のご紹介ですから」
そう言ってシルベスタは「こちらです」と階段を上がっていく。
スタスタと歩いていくシルベスタは奥の部屋の前で止まる。
その扉を開いて悠斗へ一瞥する。
「悠斗様・ふじこ様、こちらのお部屋をお使いください」
「おぉ~」
部屋の中は綺麗に掃除されており、シーツも真っ白だ。 ベッド以外にも机や棚などの調度品も揃っており、現代日本育ちの悠斗も満足のいく出来栄え。
ふじこも何だか無表情ながら目がキラキラしている様に感じる。
「内側から鍵もかけられるようになっておりますのでご安心ください。 それでは私は仕事がありますので失礼します」
「それでは」と言って立ち去っていくシルベスタ。
「アルマにレイにニーナも、本当にありがとうな!」
「あんたの為じゃないわよ。 ふじこちゃんの為よ」
「……勘違いするな」
「えへへよかったね~ふじこちゃん♪」
「それじゃあ疲れたし、俺達はもう寝るわ。 またな!」
ふじこを連れて部屋に入っていこうとする悠斗をレイは呼び止めた。
「まて、悠斗……お前……ふっ……ふじこちゃんと一緒に寝るわけじゃないだろうな」
「は? 何当たり前の事言ってるんだ。 ベッドが1つしかないんだから当たり前だろ?」
「ふっふじこちゃんと一緒に寝るだと……うっうらや……けしからん! その首今すぐ叩き落としてやる!」
「まてまてまてまて、何言ってるんだお前!」
「こっこんな小さな幼女にあんな事やこんな事……この変態め!」
「変態はお前だ! 一体どんな想像をしてるんだ!」
普段ボケの割合が多い悠斗であったが、珍しくも今回はツッコミに回った。
「はぁ~こうなるんじゃないかなと思ったわ……」
手を額に当てて「また始まったか……」と言わんばかりの困った表情をするアルマ。
ニーナは苦笑しながらもしゃがみ込んでふじこに声をかける。
「ふじこちゃん、お姉ちゃん達と一緒に寝る?」
「そっそうだ、ふじこちゃん。 それがいい!」
鼻息が少し荒いレイの顔を見たふじこは、珍しくも顔をしかめさせて首を横に振った。
「そっそんなぁ~」
レイの両手がふじこに伸びていくが、それから避けるように部屋の中へ入っていく。
「行くわよレイ。 それじゃあ明日ね悠斗」
レイを引きずりながら自分達の部屋に入っていくアルマ。
「それじゃあおやすみなさい♪」
ペコリと行儀よくお辞儀をしてアルマとレイを追いかけるニーナ。
「はぁ~。 頼もしくもあるけど、なんだかキャラが濃い奴らだな~」
部屋の方を見るとふじこは我先にとベッドへダイブして大の字に寝ている。
「さて、俺も疲れたし寝るか」
「寝るぞ~ふじこ~」と言いながら悠斗は部屋に入り、内鍵を閉める。
悠斗とふじこの旅はまだ始まったばかり、こうして異世界生活1日目が終わるのだった。
キャラが濃くなってくるレイの性格……いや、性癖。
※嫌いじゃない
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