第106話 幼女達、衣装チェンジをする
幼女達三人が天高く手を掲げた日から後日、ラドゥール達は多くの人々を連れてウィクタムまでやってきた。
「すっごい人数……この集落より多いんじゃ?」
「どれぐらい人数がいようと問題ないのじゃ! 苦手なものなんてないからの!」
不安がってきた悠斗の背中をパンパンと叩いて軽快に笑う水の大精霊リーエル。
「ピーマン……」
そんなリーエルに向かってボソリと呟いた悠斗であったが、聞こえないフリをしてだんまりを決め込んだ。
「わはは! そう心配しなくても大丈夫なのだ! 人数なんて関係ないのだ!」
今日も元気な火の大精霊であるミラはそう答える。
彼女の言う通り準備万端であり、リーエルもミラもふじこから魔力をふんだんに供給されている。
「んっ!」
魔力を提供しただけなのふじこだが、自分がやるわけではないのに何故か自信満々であった。
「それにしても、なんだよその衣装」
悠斗がそう言うのも無理はなく、小学生アイドルの様に決めポーズをする三人の姿は普段着ている服装ではない。
三人ともフリルやリボンがふんだんにあしらわれた可愛い衣装だった。
今にも幼女のお遊戯会でも始まるのかな? と思わんばかりに場違いな衣装を纏っている。
「ぬふっ。可愛いじゃろ?」
そう言ってクルリと一回転してスカートをふわっとさせたリーエルの衣装は、白を基調とした服に、『青』をベースとしたリボンなどの装飾を施している。
空々しい綺麗な空色の髪をしたリーエルにピッタリな衣装であった。
リーエルは悠斗の顔を見ると、ニヒルに笑うと。
「なんじゃ。欲情でもしたのかの?」
と言いスカートの裾を持ち、太ももまで上げてチラチラさせている。
悠斗は苦虫を噛み締めた様な顔をして、おでこにデコピンをお見舞いする。
「んなわけあるか」
「ぬあ!? 痛いのじゃ~」
そう言ってふじこに抱きつくと嘘泣きを決めるリーエル。
今日の彼女は絶好調だった。
「ボクはどう? どう?」
そう言って勢いよく悠斗のお腹へ飛び込んでダイレクトアタックをするミラの衣装も、リーエルと同じく白を基調としているのだが、彼女と違い装飾の色は『赤』ベース。
元気で明るいミラの紅く輝く髪にピッタリだ。
「似合ってる似合ってる」
悠斗は軽い感じで言いながらも頭を撫でてやると、頬をほんのりと朱く染めながら笑う。
「ニヘヘ。ダーリンありがとうなのだ!」
褒められて嬉しいのか、クネクネと奇妙な踊りをしているミラ。
そんな彼女を押しのけて、リーエルはずずいとふじこを前に出した。
「ほれっ。わしらばっかり相手しとらんとふじこも見てやらぬか」
ずずいと押し出されたふじこは、恥ずかしそうに俯きながらスカートの裾をギュッと握っている。
それを見た悠斗はふじこの態度に気づくと、顎に手をやっては。
「ははーん。ふじこさん、照れておられますな?」
謎の喋り方に変わった悠斗はニヤリとそう指摘してやると、頭をあげたふじこは顔を真っ赤にさせて無言で悠斗をじーっと見つめる。
慣れたパターンであり、このままいつも通りみずてっぽうをくらうのだろうなと思って身構えていたのだが。
「――あれ?」
いつまで経ってもみずてっぽうがやってこない。
不思議に思っていると、ふじこはミラと同じように悠斗のお腹へ頭からダイレクトアタック。
「グヘっ!」
勢いよく突っ込んできたふじこの頭突きにより、悠斗の体がくの字に曲がる。
そのまま抱きついてきたふじこを受け止めた悠斗は。
「ぐっ……どうした?」
いつもと違う行動に出たふじこの様子を伺う。
顔が真っ赤なのは変わりないし、表情も無表情っぽく見えるのだが、目をうるうるさせていた。
気づいた悠斗は目線をふじこに合わせるようにしゃがみ込むと。
「悪い悪い、余りにもふじこが可愛くてちょっとイタズラしたくなったんだ」
悠斗はふじこの頭を撫でながら申し訳ない顔になる。
それぐらいふじこは可愛くて似合っていた。
普段から黒を基調とした服をきていたのだが、今回の衣装はアイドル衣装。
白を基調としたピンクのリボンがまた可愛い。
銀髪のツインテールが輝いており、さながらどこかにアイドルの様だった。
「本当に悪かった。今度甘い物でも食べに行こう……な?」
「んっ」
悠斗は最後にそう約束をすることでなんとか許しをもらえた。
そんな悠斗とふじこの会話を聞いていた二人の大精霊は。
「ほほ~。甘い物か……楽しみじゃの~」
「楽しみなのだ!」
飛び跳ねながらグルグル回って喜んでいるリーエルとミラに向かって、悠斗は真顔で疑問をぶつける。
「えっお前らも来るのか?」
「え?」
「え?」
「え?」
当たり前の様に連れて行ってもらえるとおもっていたリーエルとミラは、突如はしごを降ろされたかのように反応できないでいた。
悠斗もふじこだけを連れて行くつもりだったので、素朴な疑問が出てしまったのだ。
改めて悠斗の言葉を咀嚼したリーエルとミラは声を揃えてこう叫んだ。
「――大精霊差別じゃ!「なのだ!」」
あまりにも勢いが強く迫る二人の大精霊に、悠斗は慌てて。
「じょっ……冗談だって。もちろんお前達も連れて行くに決まってるだろ?」
「そうじゃろそうじゃろ。まったく悠斗は冗談が上手いの~」
「ダーリンは冗談が上手いのだ~」
そう言った後、リーエル・ミラ・ふじこの三人は「なにを奢ってもらおうかの~」と話し合っていた。
そんな中、四人の会話を外から聴いていた者が恐る恐る声をかける。
「あの…………もうよろしいですか?」
すっかりラドゥールの存在を失念していた悠斗達であった。
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