第102話 黒なのか白なのか、三連星的なアレ。
ふらりとどこかえ消えたと思えば、知らない者を連れてフーゴ。
ラドゥールなる人物へ各々自己紹介を済ませた悠斗はさっそく要件を聞くことにした。
「今日ここへ来たのはサウガダナンの元貴族として、精霊様がお戻りになられたのであれば、この私ラドゥールをお使いいただければと駆けつけました」
「この集落の人間とユート殿だけじゃ手が足りないからの……協力者に声をかけに行ったのじゃ」
「そんなことなら早く言ってくれよ……」
「善は急げと言うじゃろ?」
不敵な笑みを浮かべてフーゴはニヤリと笑った。
「まあそうだけどさ……確かにナルシャを奪還するにしても戦力が足らなさすぎるし」
実際問題戦えるのは悠斗達だけであり、この集落の人達を計上したとしても一国の軍隊と戦うには余りにも驕り過ぎだと悠斗は思っていた。
正面切って戦うのが無理なら、潜入など別の方法を考えないといけないと考えていた所にウーゴが助っ人を呼んできてくれたのだ。
「それで、実際問題え~っとラドゥールさんはどれぐらい協力してくれますか?」
悠斗の問いかけにラドゥールは考えるような素振りを見せる。
「『どれぐらい』と申されましても……そうですね。サウガダナンの元貴族としてお役に立ちたい気持ちはありますが、それでも今はしがない商人」
ラドゥールは後方へ合図を出すと、屈強な男達が前へ出てきた。
「利のない戦いに手を出す程愚かではありません……そこで、ユート殿。貴殿とミラ様方がどれ程のお力があるのか試させていただければと」
悠斗達を試す発言を聞いてフーゴは怒りだす。
「ラドゥール殿! 精霊様方を試されるなぞ不敬ですぞ!」
そんな怒るフーゴが困惑するかのように、突如笑い出すミラ。
「わはははは! 相変わらず堅苦しくてつまらない奴だと思ってたけど撤回するのだ!」
ひとしきり笑ったミラは好戦的な笑みに変えてラドゥールを見つめる。
「ボクと遊ぶのだ!」
ミラの魔力が一気に膨れ上がる。
膨れ上がった魔力は体から漏れだし、周囲に重圧がかかった。
ある者は腰を抜かして地面に座り込み、あまりの重圧に声も出せない。
屈強な男達も冷や汗をかいている。
しかしそれも束の間、徐々に魔力が小さくなっていき、魔力が切れたのかコテンと倒れてしまう。
「ありゃりゃ、力が出ないのだ?」
悠斗が倒れたミラを起こしてやると、リーエルはミラにデコピンをお見舞いした。
「痛いのだ~! 何するのだ!?」
おでこを痛そうに擦ってリーエルを睨みつけるミラであったが。
「何をするのだ……ではないわい! ここ数日前まで封印されておったのを忘れたのか?」
「あれ~? そうだったっけ?」
自身が封印されていたのをすっかり忘れた様子のミラに呆れたリーエルは。
「しかも、お主は力を吸い取られていたようじゃから、急に魔力放出なぞしたらスッカラカンとなるに決まっておるじゃろ」
「う~……でも遊びたいのだ……」
両頬を膨らませて不満そうに地面を見つめるミラ。
そんな彼女を見て溜息をついたリーエルを見て。
「溜息ばかりつくと、こじわが増えるのだ?」
「生意気な口はこれか!? この! この!」
見た目が幼女な二人がポカポカとやりだして、戦う空気がなくなってしまう。
「お前ら、こんな所で喧嘩をするな」
仲裁に入った悠斗を壁にして、いがみ合いが止まらない。
「はあ……こういう感じですので、後日でもいいですか?」
後日に持ち越そうと思った悠斗であったが、ミラは駄々をこねて。
「やだやだ! 僕とダーリンの愛の力を見せつけたいのだ!」
ミラの『ダーリン』発言で、悠斗見る周囲の目が怪訝な表情に変わる。
「精霊様にダーリンと呼ばせているとは……しかもこの様な幼いお姿で……」
「いや、違……」
悠斗は言い訳をしようとしたものの、それをラドゥールは押し止めて。
「精霊様はまだご復活なされたばかりで本調子ではない様子……しかし、契約者である貴方様は問題ないみたいですね」
表情は笑顔のはずだが笑っている様には思えないラドゥールは、自身の私兵に命令を下す。
「ユート殿が真に契約者として相応しいのか、試させていただきましょう……行きなさい、カイア・オルサガ・ドッシュ」
カイア・オルサガ・ドッシュと呼ばれた屈強な男達は、それぞれ練習用の武器を構えて悠斗の前に立つ。
悠斗も練習用の武器を構えて臨戦態勢に入るが、相手は自身より巨体な相手なので動けずにいた。
筋肉隆々で、しかも悠斗を見下ろす程の身長もあるため、より巨体に見えるのだ。
「先手を譲ってくれるとは契約者様とやらは余裕みたいだな……オルサガ・ドッシュ、いくぞ!」
リーダー格なのか、カイアは左右にいるオルサガとドッシュに声をかける。
「「おう!」」
先頭に立つカイアが悠斗目掛けて襲い掛かる。
正面からの攻撃に悠斗は後ろに飛んで距離を開ける。
筋肉隆々の腕から振り下ろされる攻撃に、地面が砕けた。
「うお!?」
カイアの攻撃に驚いている隙に、ドッシュは追撃をしかけた。
ドッシュが放つ鋭い突きを、なんとかギリギリ右に避けることに成功する悠斗。
「これで終わりじゃねぇぞ!」
いつの間に後方へと回ったのか、オルサガは悠斗の背後から叩きつけようとする。
しかし、悠斗も背後からの気配に気づいていたのか、身体を半回転させてオルサガの攻撃を受け流す。
「まさかこれが避けられるとはな……」
カイアの驚く声を他所に、悠斗は別のことを考えていた。
「ジェットストリームアタックかよ!」
と突っ込むものの、それを知る者はこの世界にいなかった。
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