第101話 お客様
今にも地面に埋まりそうな程、顔を真っ赤にさせた悠斗はイジられていた。
「ほれほれっ。もっとわしらに甘えてもよいのじゃぞ?」
ニヤニヤしながら悠斗の顔を覗き込むリーエル。
「僕は悠斗のお嫁さんだから、膝枕してあげるのだ!」
正座をして自身の太腿をポンポンと叩いてアピールしているミラ。
「んっ……」
ず~~~~~~~っと悠斗の頭をナデナデし続けているふじこ。
悠斗に甘えられたのが嬉しいかったのだろう。
「だあぁぁぁぁ! もういい加減に飽きてくれ!」
悠斗がふじこに抱きついて涙を流したあの日、リーエルとミラも当然見ていたのだ。
リーエルとミラ曰く。
「そりゃ当然空気ぐらいは読むじゃろ」
「僕はお嫁さんだから、い~~~っぱい甘えさせてあげるのだ!」
……っとこの様にあれから数日飽きることなく幼女達は繰り返している。
悠斗自身も、なぜあんな行動をとったのかわからなかった。
考えるよりも先に行動に移っていたのだ。これでは犯罪者の思考と同じである……と深く深く反省している。
今では何か嫌な夢を見たな……程度で、具体的に『何』をみたのかは覚えていない。
ただ、忘れてはいけないことだとは心の奥底で理解はしていた。
とはいえ恥ずかしいものは恥ずかしいもので……。
「あ~分かった分かった。思う存分甘えさせてくれ!」
そう言ってふじこ達をまとめて抱きしめる悠斗は吹っ切れた。
ふじこはいつも通りの表情で、ミラは嬉しそうにわは~っと謎の奇声を上げている。
リーエルだけは恥ずかしそうにしており、攻めるのは得意だが攻められるのは駄目だったようだ。
「それにしても、フーゴ爺さん遅いよな……どこいったんだろ」
悠斗が呟きだした所、タイミングよく誰かが訪ねてきた。
「ユートおじさん!」
「おじさんじゃねぇって言ってんだろクソガキ!」
悠斗をおじさんおじさんと連呼する集落の男の子?である彼はウーラ。
男の子っぽく見えるだけで、性別は確認していない。
よく悠斗に懐いており、簡単に言ってしまえばいたずら少年だ。
ふじこ達とは違って少し雑な対応だが、これがいい関係を築けている理由かもしれない。
「またクソガキって言ったな!? このザァ~コ♡ザァ~コ♡」
「それは辞めろっていってんだろ! 年上のお姉さんにわからせられるぞ!?」
「だからわからせって何だよ!? 年上って言ってもここにはババアしかいねぇよ!」
「おまっ! ババアって言ったらまたげんこつ喰らうぞ!?」
慌てて周囲を見回すが、ここはフーゴの家なので関係者以外はいない。
本来なら『ババア』を聞きつけた集落のお年寄りが、ウーラと悠斗の頭へ拳骨を喰らわすまでがここ最近の流れであったのだが、今日はそうじゃなかった。
「そんなことよりもフーゴ爺さんが帰ってきたんだけどさ……あ~もう! いいから早く来て!」
「あっちょっと待てって!」
急いでウーラを追いかける悠斗とふじこ達。
フーゴの家を出て集落の広場まで走っていくと人だかりができていた。
「ユートおじさんを連れて来たよ!」
このクソガキは……とツッコミを入れようと思った悠斗であったが、周囲の状況を見てそれを辞めた。
広場に集まった集落の人々はユートの姿を見つけると、人の波が割れたように道ができる。
何やら不安そうな顔をしている人もいて、状況がよく飲み込めていない悠斗は疑問に思いつつもフーゴの元へ向かった。
悠斗の姿を見つけたフーゴは「こっちじゃ!」と手招きをしている。
「フーゴ爺さん、どこに行ってたんだよ……ってこの方達は?」
「ほほっこの方達はの……」
フーゴが紹介を始めようとした所、フーゴの後ろで待機していた人物の一人が前に出てきた。
「貴方があの噂のユート殿でしょうか?」
煌びやか宝石類を身にまとっているが、嫌らしくは見えない白を基調とした民族衣装を纏っている人物がそう尋ねるきた。
「噂? えっっと……はい、自分が三嶋 悠斗です」
この人は誰だろう、それに後ろにいる人達も……と気になることが沢山ある悠斗であったが、何よりも『あの噂の』の内容が気になって仕方がない。
そんな悠斗の表情を知ってか知らずか、男は丁寧な挨拶をして。
「私の名は『フサイン = ジル = ラドゥール』。気軽にジルと呼んでください」
「あっはい……」
状況が飲み込めてない悠斗を品定めするかの様な視線で見つめるジルは、悠斗の左指にある指輪を見て。
「確かに、これはアルヴェイム王国の左腕であるアーヴァイン家の指輪……噂は本当のようですね……ということは……!?」
ジルは視線をふじこ達に向けるのだが、ミラの姿を見て驚いた。
ミラもジルを見ては、久しぶりの人物に会ったかのように軽い感じで声をかける。
「おお!? 久しぶりなのだラドゥール!」
「これはこれは精霊様、ご無事で何よりでございます」
ミラの姿見ると、膝をついて首を垂れるジル。
ジルの姿を見て、珍しくもツーンっとそっぽを向いたミラは。
「相変わらず堅苦しくてつまらないのだ!」
「こればかりはご了承いただきたく……」
「え~っと……それでフーゴ爺さん?」
一体どういうことなのか、状況を説明してほしいのニュアンスを込めてフーゴに顔を向ける悠斗。
それを受け取ったフーゴは。
「ほほっ。ここにいるラドゥール殿は昔お世話になった方での。今回アブラの奴からナルシャを取り戻すために協力をお願いしたのじゃ」
「はい。私も昔はサウガダナンに仕えていた貴族でして……今ではしがない商人ですがね」
ジルは苦笑しながらフーゴと笑いあう。
「今日ここへ来たのはサウガダナンの元貴族として、精霊様がお戻りになられたのであれば、この私ラドゥールをお使いいただければと駆けつけました」
「この集落の人間とユート殿だけじゃ手が足りないからの……協力者に声をかけに行ったのじゃ」
「そんなことなら早く言ってくれよ……」
「善は急げと言うじゃろ?」
不敵な笑みを浮かべてフーゴはニヤリと笑った。
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