第99話 気づかない者
今回はちょっとだけ短いです。
イグニスケーラ遺跡を脱出した悠斗達は、集落ウィクタムへと戻ってきた。
戻って一直線にフーゴの家へ行くと。
「フーゴ爺さん」
「おお、ユート殿! ナルシャを……ナルシャを見ませんでしたか!?」
ナルシャはフーゴに行く先を言うこともなく黙ってついていったから慌てるのも無理はない。
フーゴが姿を見かけないナルシャを心配するのも当然だった。
悠斗はナルシャが隠れてついてきていたこと、イグニスケーラ遺跡でのことを話す。
「そうか、ナルシャが……」
歯噛みしているフーゴを見た悠斗は、地面に両膝をついて土下座をする。
「本当に申し訳ありません! 誤って済む問題じゃないって分かっているのですが……俺、俺はナルシャを――」
守れなかった。そう言おうとしていた悠斗を止めてフーゴは悠斗の肩に触れる。
「ユート殿。わしがお主に怒る権利はない。それどころか守れなかったのはわしも同じじゃ。――それも二度もじゃ」
悠斗が顔を上げてフーゴの顔を見る。
そこには『何か』を決意した目をするフーゴの顔があった。
「二度も過ちを犯してようやく目が覚めたわい。――失ったモノを取り戻す。その手伝いをユート殿にはしていただきたいのじゃ」
フーゴは熱い目をして悠斗の手を握る。
その熱意に応えるように、悠斗もフーゴの手を強く握り返す。
「ああ、必ずナルシャを取り戻そう!」
「よし、じゃあわしは早速行動に移るとしようかの」
悠斗の返答を聞いたフーゴは即行動に移ろうと思ったのか立ち上がる。
そのまま黙ってどこかへ行こうとするフーゴを悠斗は引き止める。
「フーゴ爺さん、一体どこへ?」
「ほほっ。こう見えて実は顔見知りが多くての。悠斗殿はしばらくゆっくりしていってくだされ」
「え? ちょっと!」
悠斗の声も虚しく、フーゴはふらりとどこかへ出ていった。
そのフーゴの後を追いかけようと立ち上がろうとする悠斗であったが、なぜか立ち上がれない。
「あ……え?」
自分の足を自分の意思で動かすという当たり前の行動ができない悠斗。
立ち上がろうとするのだが、力が入らないどころか逆に力が抜けていく。
それでも動こうとする悠斗をリーエルが止めた。
「これ、動くでない」
「リーエル?」
「お主……理解しておるのか?」
「なにが……?」
リーエルの言った事が理解できない悠斗は、それでも立ち上がろうとする。
しかし、そんな彼の姿を見てリーエルはくしゃりと顔を歪めた。
「ナルシャが連れ去られてからここまで、お主は心と体を休めたか? お主の今の顔……ヒドイ顔をしておるぞ」
そういってリーエルは魔法で水鏡を出すと、悠斗の顔を写してやる。
水鏡に写った自身の顔を見て動きがピタリと止まる。
「あっ……」
「こうまでハッキリ言わんと分からぬとは………………すまぬ」
悠斗は顔を隠すように地面に蹲る。
今にも死んでしまいそうな蒼白な顔をしている中、表情はかなり険しい。
泣き崩れそうな男の顔を見た悠斗は、ようやくそこで気づいた。
自身の心と体の不調を気づかない振りをしていたと。
リーエルに『すまぬ』と謝らせてしまったことが余計に腹ただしく感じ、握り拳は強く握りすぎたのか血が少しだけ流れていく。
「悠斗!?」
「ダーリン!?」
「……!」
リーエルもミラも、そしてふじこもそれに気が付いた。
急いで治療をするリーエルに、心配そうな表情で悠斗を見つめるミラとふじこ。
そんな彼女たちの想いが、今の悠斗の心には刃として突き刺さっていた。
ナルシャを守ることもできずふじこ達に守られ、そして今にも泣きそうな顔で見ている彼女たち。
自身の中に何故かあった『妹を守る』という強い意志がある故に、ふじこ達の優しさが悠斗の心の傷にできた隙間へと水の様に入り込む。
「俺……俺は…………っ!」
何かを強く叫ぼうとするもその口をふじこが手で塞ぐ。
悠斗の口を塞いだふじこは、頭を膝に無理やり乗せると優しく頭を撫でた。
何も語りかけることもなく、どこかいつもより優しそうに感じるふじこの無表情で無口な所が、今の悠斗の心を優しく癒していた。
「今日はもう眠るとよい……」
優しく我が子の様に語りかけるリーエル。
「こうするとあったかいのだ!」
悠斗の背中にピタリとくっつくミラ。
彼女たちの優しさに触れながら、悠斗は一滴の涙を流しながら眠りについた。
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