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第9話 悠斗 < ふじこ

 他のギルド職員は巻き込まれては溜まったものではないと言わんばかりに一切悠斗達の方へ顔を向けず、自らの仕事に集中している。


 この男クルヴィスは元Sランク冒険であり、現在は引退して『王都アルヴェイム』のギルドマスターをしている。


 頭より先に手が出るのも有名で、この王都を拠点にしている冒険者は誰も知っている事だ。


 引退しているといっても強さは健在で、現役のSランク程の強さはさすがに無いが、Aランクに上がりたての冒険者やBランク冒険者であればタイマンをしても負けないだろう。


 この事実をもし悠斗が知っていたのなら他の冒険者と同じ様に逃げていたのだろうが、知りもしない彼は呆然と立ち止まる事しかできないのであった。


「ったく……あのバカ共ときたら……それで小僧、お前はどうするんだ?」


 内心ヤクザよりも絶対に怖いと思っている悠斗であったが、度胸があるのか無いのか、もしくはふじこが見てる手前カッコつけたかっただけなのかは分からないが、どもりながらも意志をハッキリ伝えた。


「ケっケンカはしないですけど……俺やっぱり冒険者になりたいです」


 悠斗の意志は固そうで、ここで引く事は無いだろうなとクレヴィスは察した。


 珍しい顔つきに黒い髪の男。 しかも体格はガッシリしてるどころかヒョロヒョロで、貴族のクソガキと同じく冒険者になっても早々に死ぬんじゃないかとクレヴィスは思っている。


 それでも意志の固い真っ直ぐした目を見て、この目は案外嫌いじゃないと内心思った。


「どうしても冒険者をやりたいか? 」


「はい!」


 一呼吸おいてクレヴィスは溜め息をつく。


「……はぁ~。 わぁ~ったよ……どうなっても知らねぇからな。 ギルドは中立、お前がそこの嬢ちゃんを連れていても特別扱いはしねぇ。 それでもいいか?」


「はい!」


「ならちょっと待ってろ」


 そう言うとクレヴィスはガサゴソと何かを探しだす。


 「おっあったあった」と独り言を言いながら丸い水晶みたいなのを取り出した。


「こいつに手を置け」


 悠斗はポカンとした顔をしてクレヴィスを見る。


「こいつの事も知らねぇのかよ。 どこの田舎から来たんだお前……。 これはお前のステータスを図る魔道具だ」


「魔道具?」


「詳しい事は俺に聞くな。 聞いたら殺す」


「あっはい」


「お前のステータスやLv、持ってるスキルをこれで表示して強さの度合いを図るんだ」


「強さでランクが変わるとかですか?」


「おう、そうだぞ。 ()()はあるが、ある程度の強さがあれば駆け出しスタートは無い。 強さに応じて初期ランクを決めさせてもらってる。 まぁ最初からぶっ飛んで強い奴なんてここ数十年きた覚えは無いけど一応な」


 『あっこれって俺のステータスとか見て驚くパターンか!?』と馬鹿な事を考えているのだが、自分のステータスをもう一度思い出して欲しいものだ。


 馬鹿な事を考えていた悠斗だが、自分のステータスが平凡と思われる事を思い出し、勝手に気落ちした。


 気落ちした悠斗は水晶に手を置くと、文字が水晶に現れる。


-----------------------------

■名前

 三嶋 悠斗


■職業

 無職


■種族

 ヒューマン


■ステータス

 LV.1

 HP : 50

 MP : 10


 STR :8

 DEX :6

 VIT :7

 AGI :5

 INT :1

 MND :3

 LUK :2


■スキル

 ・くぁwせdrftgyふじこlp(Lv.1)

 ・言語理解(Lv.∞)

-----------------------------


「……Lv1? 小僧、お前旅人だっけか?」


「はっはい、そうです」


 旅人ではないのだが『もう旅人ってことでいいだろ』とそう思う事にした悠斗。


「お前……よく今まで無事に生きてたな」


「え? どうゆうことです?」


「普通に生きてたらLv1なんてありえないんだよ」


「え!?」


「スラムに住むガキ共ですらLv5はあるぞ。 Lv1なんて赤ん坊だけだ」


「なっ何だってーー!」


 まさか自分が子供以下の存在どころか赤ちゃんと同じという事に驚愕する悠斗。


「おい、アルマにレイにニーナも俺のステータス見たことあるだろ? 言ってくれよ!」


「ちょっと……私達に振らないでよ」


「……ふん」


「……えへへ?♪」


 アルマは急に巻き込まれた事に対して困惑しており、レイに至っていた無視を決め込んでおり、ニーナはおどけて魅せた。


「なぁ、ふじこからも言ってやってくれよ」


「……」


 予想通りふじこはくまのぬいぐるみを抱いたまま無反応である。


「うん。 相変わらず反応が無いのは分かってたけどさ」


 よく分かってないのか、ふじこは頭をコテンと倒して悠斗を見つめる。


「お前はよくこのLvであのバカ共(冒険者)にケンカを売ったな」


「いやいや、俺が赤ちゃんと同Lvだなんて思わないじゃないですか!」


「はぁ~……本当に大丈夫かこいつ……」


 クレヴィスが溜め息をつくのも仕方がない。 もうこいつ(悠斗)は手遅れかもしれない。


「もうLvの事はいい。 いや、良くはないのだが……後はお前が頑張っていけばいいだけだ。 問題は……」


「問題は?」


「……お前本当に分かってないのか?」


「えっなにがです?」


 悠斗は『Lv以外に一体何があるというのだろう?』と考えても一向に出てこなかった。


「スキルのことだ」


「あ~なるほど! やっぱこの文字化けしてるスキルが問題あるってことですね?」


「……まぁそれもそうなんだが……」


「?」


「いや、お前が分かってないならそれでいい。 いいか?」


「はい」


「お前は自分のステータスを俺とアルマ達以外に見せた事はあるか?」


「いや、ないですね」


「小僧……いや、悠斗。 お前はこれ以上自分のステータスをあまり他人に見せるな。 どうしても見せるなら、自分が本当に信頼してる者だけにしろ」


「あぁ! 馬車の中でアルマ達から教えてくれた事ですね! 自分の弱点が広まるとマズイですもんね」


「おっおう……そうだな」


 本当に言いたいことはそうじゃなかった。 Lv1なので弱点もクソもないのだが、クレヴィスが本当に言いたいことは悠斗が持っているスキル。


 文字化けしている『くぁwせdrftgyふじこlp』というスキルではない。


 これはクレヴィス自身も読めないので、最悪知られても広まっても問題は無い。 どうせ他の冒険者達も読めないと思うので、知られても効果が分からない。


 問題があるのは『言語理解』の方だ。


 しかもLvが∞という前代未聞で、これがただの変哲もないスキルとは到底思えなかった。


 現在この世界で確認できているのは、特定の種族しか使わない言語を理解し扱う事ができる『魔族語理解』や、古代呪文を扱うのに必須と呼ばれている『古代語理解』というスキル。


 しかもスキルLvを上げるのに理解を深めていかなければいけないのだが、肝心のスタートLvは1なので難しい。


 学習する為の文献を探し出すのも一苦労だし、『古代語理解』に至っては文献が国の重要資産として宝物庫や国が認めた人物じゃないと入れない図書館に保管されており、一般冒険者にとっては意味のないスキル。


 しかし、悠斗が持っているのは『言語理解』。 特定の何かを指している訳ではなく『言語理解』としか表記されていない。 更にLvに至っては∞となっており、もしこれが文字化けしているのではなく表記通りであるならば……。


 どう考えても争いの種にしか成り得ず、火種にあえて火をつけるような真似はしなくていい。 持っている本人が知らないのであれば、本人でさえも知らなくていいとクレヴィスは考えた。


 クレヴィスにそんな心配事を増やした事なぞ知らない悠斗は『分かってますよ俺は!』と言わんばかりのドヤ顔を決めている。


 そんなドヤ顔を見て若干イラついたクレヴィスだが、なんとか溜飲を下げてボロが出ないように取り繕う。


「お前が分かってるならいい。 それじゃあちょっと待ってろ、今冒険者プレートを持ってくる」


 クレヴィスはさっさと話を切り上げようと席を立とうとするのだが、受付机を叩く音が下の方からする。


 ふじこが両手を上にあげて何か主張していた。


「どうしたふじこ?」


 悠斗は抱っこの合図か? とふじこの脇に手を入れて持ち上げる。


 悠斗に抱え上げられたふじこは、そのまま水晶に手を伸ばそうとジタバタ暴れている。


「おっふじこも冒険者になりたいのか? ちんちくりんなお前じゃまだまだ無理だな!」


 笑いながら自らをおちょくって笑っている悠斗を見て、ふじこは……。


「おっ? 人を指さしちゃいけないんだぞ」


 悠斗はふじこに注意をしようと口を大きく空けた時……。


 ふじこの指した指先から突如()()()()()()()()()、悠斗の口に勢いよく入っていく。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 喉が辛い! っていうか痛い痛い!」


 喉を抑えてゴロゴロと勢いよく転がる悠斗。


「みっ水……水を……」


 再度ふじこは悠斗に指先を向けると、今度は水を顔面に勢いよく吹きかける。


「わっ……うぷ……ちょ……ちょっと待っ……もっもういい、もういいぞ」


 「はぁ……はぁ……」と息を整える悠斗。 なんとか無事に生還を果たしたようだ。


 ふじこは仁王立ちして悠斗を見下ろしている。 いつもとは違う立ち位置が完全に変わった図式である。


「悪い、悪かったふじこ。 いや、ふじこ様……調子に乗りました」


 息も絶え絶えで頭を床につけるその姿はあまりにも情けなく、悠斗とふじこの力関係が決まった瞬間だった。

タグ通りの内容を書けたような気がする。


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