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四ノ原村かいだん日和  作者: 橿ひのき
1/1

都市伝説は四ノ原村にて 〜柿本屋敷のゆうちゃん〜

三神夏一は一学期の終業式後に同級生の松岡悠斗に誘われ、真夜中の柿本屋敷に肝試しに行くことになった。

柿本屋敷は村外ではとても有名な心霊スポットらしいが、調べてみると情報はあまりにも不確かだった。そこで気になった夏一は真相を確かめるべく、霊感少女の陽菜を連れて柿本屋敷に足を運ぶが...。

「えーあのね、熱中症、ほんとこれだけは気をつけてこまめに水分取ってくださいね。あと、沈下橋から川に飛び込む時は必ず水の深さを確認しましょうね。あと、川や海には一人で行かないように、では、素敵な夏休みを。九月一日に元気な皆さんの顔を見るのを楽しみにしていますよ。」

 一学期の終業式でこれ程暑くて辛い時はあっただろうか。

 体育館には、もちろん村の予算不足でクーラーはついていなかった。だから、息もできないような蒸し暑さが体育館中にこもっていて、体育館はもう蒸し釜状態だった。それなのに、皆、不思議な事にそこまでバテていないようだった。

 校長は能天気な事に、「勉強しろー」とは一言も言わずに終業式を終えてた。これも数学学テ全国ワースト1位にも輝いた事があるこの県の実力の内か。

 。

 。

 。

 。

 。

 僕、三神夏一(かいち)は今年四月に東京都からK県の四ノ原村に引越してきた。

 初めは、ゲーセンもない、○クドナルドもない、高速も未だに通っていない交通の便が悪いこの地域に戸惑ったが、慣れてくると案外悪くなくて、あまりお金もかからないし、虫はかなり出るけど夜はとても静かなこの村がとても気に入った。

 そして何より、この村には暖かい人が多い。別に性格が悪い人がいないという訳では無いが、大体の人は、優しくておおらかだ。遠い地方から越して来た私の家族をなんの隔てもなく優しく受け入れてくれた。


 だが、今はそれどころじゃない。この村はいい村だ、けどこの暑さは耐えられない!

 先程の体育館の暑さ同様、この地域の暑さは異常だった。照りつける太陽、道路に立ち込める陽炎、イヤでも川に飛び込みたくなるこの気温。ここ数日、体温を超える最高気温をこの村は連発して出している。今日も外では、摂氏体温越えの暑さだろう。エブリディ異常気象なのだろうかここの夏は?

 オマケにもっとこの猛暑をより過酷なものにしているのは、暑くて湿った空気を運ぶ太平洋からのこの海風だ。春や秋頃は、涼しくて程よい磯の香りがとても心地いいのだけど、今はこの太平洋からの湿った風が何よりも嫌いだ。この海風のせいで、ものすごく蒸し暑い。もう、息ができないくらいに。

 だけどこんな日々とも、今日でおサラバだ!

 明日から待ちに待った夏休みなのだ。

 夏休みと言ったって、外に出て水遊びを楽しむのは馬鹿のすることだ。(あくまで個人の意見です)川や海は怖いし、危ない。それに水に入ってても熱中症になるからな。だから、賢い僕は引きこもるのが正解だと思っている。(あくまで個人の意見です)

 僕は夏休み引きこもり生活を満喫すべく、計画を練りながら、帰りの準備を進めていた。

(まず、宿題を終わらせないとなぁ、今年は確かかなり少なかったはずだ)

 そんなことを考えていると、突然、隣の席の松岡悠斗が話しかけてきた。

「なぁ、夏一、柿本屋敷のゆうちゃんって知っちょう?」

「なにそれ、知らないけど…。」

 松岡は、四ノ原村に引っ越してから一番最初に仲良くなった同棲の友達だ。

 柿本屋敷のゆうちゃん?一回噂話で聞いたこともある気がするが、よく分からない。でもこの流れだと恐らく、怪談話だろう。

 僕が知らない話ができるのがよっぽど嬉しいのか、私が怖がる態度を見るのが楽しみなのか、松岡悠斗は垂れ目気味の大きな二重の目を少し細めて得意そうに笑った。

「そうか~それなら一緒に柿本屋敷に肝試しにいってみん?」

「はぁ…別にいいけど。」

 なるほど肝試しか、それは夏の思い出作りにいいかもしれないなぁ。それにここ最近、誰かさんのせいで全く恐怖を感じなくなってしまった。だから少し、涼に飢えていたのかもしれない。これは、是非ともご一緒させて頂きたい。出来るなら、あの人も一緒に。

「それにしても、こんな田舎にそんな心霊スポットなんて本当に存在するの?」

 僕は率直に気になった。

 普通、心霊スポットと呼ばれるのは、都市や人が多く住む所の近くで、交通のアクセスがいい所にある印象だ。こんな鄙びた交通アクセス激悪地にそんなホットスポットがあるなんて思いもよらなきった。

「それがなー、本当にあるんだよ。この四ノ原村の中に。しかも、結構有名らしい。」

 松岡は自慢げに語った。自分の住む四ノ原に有名な心霊スポットがあるという事実にかなり喜んでいるようだ。

 でも柿本屋敷のゆうちゃんってなんだろう、松岡に聞いたが、松岡自身も良く分からないようだった。自分から話題を出しといて無計画な野郎だ。

「柿本屋敷っちゅうのはな、大鐘山の旧大鐘トンネルの横にある、和洋折衷の大豪邸なんやけど…そこではな、死んだ子供の霊が出るんや。」

 彼の話は物凄く大雑把な上に情報があまり定かではなかったが、ネットで「柿本屋敷のゆうちゃん」と検索すると思ったよりすぐにそれらしき話がでてきた。どうやら、僕が知らないだけでオカルト界ではかなり有名な都市伝説だった。一応、心霊スポットという類に入るのだが、ある日突然ネットの世界から湧いてきた話で、場所の詳細は知名度の低い四ノ原村を知らない人には良く分からず、実際に訪れ人もほぼいないため、「伝説」として取り上げられていた。だが、話の冒頭には全て、「山合いのY原村の話です___。」や、「K見Y原村出身の友人の話です___」といった感じで、四ノ原村民なら誰でも分かるように書かれているため、四ノ原村民としては、何の知名度もないこの村が影で有名になっている現状に少し微笑ましい気持ちになった。

 インターネットの投稿では、どの投稿者も心霊体験の種類、たどり着いた理由、部屋の作りなどが若干違った。だが、柿本屋敷が心霊スポットになった経緯はどれも明瞭に書かれていてほぼ同じだった。

 柿本屋敷が心霊スポットになった経緯はこうだ。四ノ原村にはかつて柿本屋敷と呼ばれる柿本家の父母子の三人が仲睦まじく暮らしていた大豪邸があった。和洋折衷の10LDK、三階建ての屋敷で毎日楽しそうに暮らす柿本家だったが、子供のゆうちゃんが小学三年生になってしばらくしたある日、幸せな家庭に悲劇が起こる。子供のゆうちゃんがいじめを苦に自室から飛び降りて死んだのだ。両親は大事に愛情を注いできたたった一人の我が子の死におおいに悲しんだ…。

 それからしばらくして柿本家には恐ろしい出来事が立て続けに起こる。

 夜になるとゆうちゃんの家のグラウンドピアノが勝手に鳴り出したり、家の扉が勝手に開いたり閉じたり、初めはほんの些細な事だったが、怪奇現象は日に日に度を増していく…。

 そして、ある時から柿本家の人々は死んだはずのゆうちゃんを見るようになった。

 最初に見たのは母親だった。ゆうちゃんの母は、ゆうちゃんを失った悲しみからしばしばヒステリーを起こすようになっていた。ある日、寝室で母親が大声でずっとおらんだり、泣き(わめ)き続けてるもんだから、使用人達はまたか、と思いながら渋々母親の寝室へ足をはこんだ。すると母親は、大声で「ごめんなさい、ごめんなさい」と言いながら土下座して謝ってた。慌てて使用人達は母親を宥めると、しばらくして母親は落ち着いた。

「どうしてそんなにおらんでいたのですか?」

 使用人の一人が母親に理由を聞いた、

「ゆうちゃんが寝室に現れて、私を許さないって…。」

 母親いわく、ゆうちゃんは「何故自分を助けなかったのか」、「なぜクラスメイトに復讐しようとしないのか」と、急に寝室に現れては、寝て起きたばかりの母親を罵倒し続けたのだという。その後、使用人が駆けつけ、気づいた頃には、目の前にゆうちゃんの姿はなかったらしい。

 母親の奇妙な証言に、柿本家の人々はより現実的に、恐怖を感じた。だがその時は、ゆうちゃんの死により精神不安定だった母親の幻覚と幻聴ということで片付けられた。

 だが、その後から母親を含め、その家に住む人々は、何度もゆうちゃんを目撃した。

 ゆうちゃんは恨むような目付きで睨んできたり、悲嘆の目をしていたりらしい。なかにはゆうちゃんと会話した使用人もいるそうだ、ゆうちゃんは女児とは思えないような声で低く唸るように喋り、怒りの琴線に触れてしまったのか、急に怒り狂い、奇声をあげながら飛びかかってきたらしい。

 そしてついに、ゆうちゃんの悪霊に耐えきれなくなった父親が一人家を出ていった。父親の家出から、堰を切ったように使用人は次々とやめていき、屋敷を離れていった。

 しばらくすると屋敷には誰も近づかなくなり、広い屋敷に精神を病んだ母親と女児の幽霊だけが残った。

 だが、周りの人が気づいた時には、その残された母親も死んだのか引越したのかどこかに消えてしまっていた。結果柿本屋敷は廃墟と化した…。

 この話はたちまち村中に広まった。という訳では無さそうだ。何故ならお喋り好きのこの村で、この話は一度耳にした事はあるが、それはこの伝説に導かれたという観光客の話だけで、このゆうちゃんが幽霊になった経緯は初耳だったからだ。それに、「産まれてから修学旅行以外でこの村から出たことがない」と以前語っていた松岡でさえもネットで知るまでこの話は聞いたことがなかったらしい。隠し事はあまりないこの村でこんな面白い話があれば、たちまち広がって行くだろう。だとすればこの話はこの村を知る誰かが書いた作り話なのか…?

 四ノ原村民が呑気に日向ぼっこをしている間に、柿本屋敷はどんどん有名になってきた。

 だが、四ノ原村の知名度の無さと交通の便の悪さから、柿本屋敷に訪れる人は全くと言っていいほどいなかった。それでも屋敷への脚色は止まらない。逆に誰も行ったことのないぶん、好き勝手書けちゃう柿本屋敷の怪談は、田舎の村の伝説幽霊屋敷として「座敷童子」「八尺様」のように脈々とインターネットで語り継がれ、どんどん奥が深い都市伝説となっていっている。全く、ゆうちゃんもこの被害には、うんざりしているだろう。

 そして何人かの村の若者達が柿本屋敷伝説をやっと知ったくらいのある日、インターネットによって話を盛りに盛られまくった柿本屋敷は、とある足相芸人の心霊番組、「山田秀兵の恐怖社会」によって取り上げられた。足相芸人だけでなく、実は天才怪談師である彼は、「強力な霊気を感じる!」だとか「さっきから来るなってゆうちゃんにすごい睨まれてる気がするんですぅ。」とかいかにもデタラメのようなことを言って帰ってった。山田秀兵はデタラメばっか言って帰っていったが、「村にテレビが来たぞー!」と村民はおおいに湧いた。


 でも、湧いていたのは村民だけではない、インターネットでも、この柿本屋敷の回は大きく湧いた。「今まで「伝説」と言われてきた、存在すら定かでない柿本屋敷が実在した!」

 この話はインターネットにおけるオカルト界で大きく賑わせた。それからは、五人くらい、オカルトマニアの人が柿本屋敷を見に行くためだけにに遥々、四ノ原村へ足を運んできてくれた。何故、あんなに有名になったのに五人しかこなかったのかというと、あまりにも交通の便が悪く、山奥だったため、場所を特定するのはかなり難しくて、ふだん心霊スポットをたまり場として利用するヤンキーや遊び半分で行く若者には少しレベルが高すぎたからだ。そして導かれし真のオカルトマニアの人達は、真のオカルトマニアってだけあって、爆音で音楽を鳴らしてどんちゃん騒ぎはせず、ひかいめに般若心経を流し、不法投棄は食塩と御札以外何もしなかった。特に危害を加えず屋敷を見学していったらしい。そして気遣いのいい、四ノ原村民の温かさに深く感謝して、お土産や旅館でしっかりと村に金を落としていき、帰っていったんだとか。おまけに、村民の温かさに感動し、都会に疲れたオカルトマニアの人が私が引越してくる少し前に四ノ原村に移住してきた。

 ゆうちゃんには少し悪いが、貧しい村が少し賑わったため、村人は足相芸人こと天才怪談師に感謝して、村で一丸して天才怪談師にファンレターを送った。

「この度は四ノ原村に素敵な旅人さんを連れてきて頂きありがとうございました。この御恩は一生忘れません。これからも身の安全に気をつけて、頑張って下さい。村民一丸となって応援しています。四ノ原村村民一同より。」

 なんか、ちゃっかりいい話でまとまっちゃってるが、柿本屋敷のゆうちゃん伝説は、ネットで脚色されているとはいえ、起こると言われている事はかなりホラーだ。


[恐怖!柿本屋敷のゆうちゃん体験者の証言!

 ヒノキ太郎まとめ]

・屋敷の外で屋敷の写真ををとると、窓にはゆうちゃんと思われる子供が映る。

・屋敷の玄関からしばらく歩いたところにある洋画は絵面が日によって少しづつ変化している。

・玄関近くの洋画に子供の姿が描かれているように見えたら呪われます。

・階段では、登っていると、黒い気配とすれ違う。そこで、黒い気配に憑かれてしまったら呪われます。

「(ここらへんはよくありそうな話だなぁ、その時の心理や、明暗の加減なんかで簡単に科学的に説明がつきそうだ。)」

・三十路の女性はゆうちゃんに母親と間違われやすいので、要注意!コメ主はゆうちゃんと思われる少年に話しかけられました。

・帰る際にゆうちゃんと思われる少女が微笑んでいる影を見た(「山田秀兵の恐怖社会」にて山田秀兵談)

「(ゆうちゃん、性別がハッキリしないなぁ…。)」


・屋敷三階のゆうちゃんの部屋の押し入れを開けるとゆうちゃんと思わしき少年がはいって、急いで逃げたけど1キロ先の高速に乗るまで追っかけられました。

「(はい、これは絶対に嘘だな~。大体高速乗るまでどんだけ時間かかると思ってんだ!高速まで1kmってどんだけ都会なんだよ!一番高速に近い所でもこの村では少なくとも18kmはかかるわ四ノ原なめんな!)」


・この家で絶対に歌を歌っては行けない。ゆうちゃんが歌につられてやってくる気がするから。(「山田秀兵の恐怖社会」にて、怖すぎてめだかの学校を歌い出したアイドルの女性に言った山田秀兵の一言)

・「お兄ちゃん、遊ぼぅ、、、。」と弱々しい男児の声がした。


 ゆうちゃんに関しては様々な目撃例、出現情報があった。だが、どのゆうちゃん情報も好み、出現場所、性別までもがすべて違い、一致する情報と言えばゆうちゃんと柿本屋敷という名前だけだった。

 ここまで情報がバラバラだと、少し真相が気になってしまう。ネットの情報に流され、心踊らされている僕は少し馬鹿かもしれない。だけどこの好奇心を抑えることが出来ない。これは、僕の悪い癖なのかもしれない。昔から、どんなに悪くて恐ろしい事か分かっていても気になったら好奇心が勝ってしまい、よく周りに叱られた。でも、そのおかげで様々な発見をしたし、あの時々の発見のおかげで今が楽しい。だから後悔はしてない。そして今回、僕は柿本屋敷には本当はどんな事件があったのか、ゆうちゃんという幽霊は何者なのか、真相を確かめて見ることにした。

 でも、霊感も人脈もコミュ力もあまり持っていない普通の子供に心霊スポットの真相を確かめろなんて言われても手も足も出ずに終わるだろう。だが、今回は違う。僕には霊感はないが、確実に霊が見える人間を僕は一人知っていた。同じクラスの岸田陽菜だ。彼女は僕と同じ2年Aクラスの生徒だ、といってもこの学級にはひとクラスしかないが…。

 霊感少女、と聞いて、「不思議ちゃん」、「友達いなさそう」「とにかくヤバ人」とか変なイメージを感じる人が多いと思う。私も今まで同じようなイメージを持っいた。「不思議ちゃん」というのはあながち外れてはない気がするが、陽菜は一般的な霊感持ち人間とは少し違う。

 まず、陽菜は霊感持ちらしからず、霊に憑依されるということがほとんどない。オマケに霊に対してもかなり友好的に接している。陽菜には霊に対する恐怖心があまりないらしく、その彼女曰く

「霊に恐れて近づかない方がむしろ失礼だ!気づいているのに、声をかけないのはシカトと同じだよ、そんな態度をとってるからあっちも呪うんだって」

 なるほどなるほど。

 陽菜は四ノ原村の暖かい気候と温かい人達によって育てられたせいか陽気で誰にでも分け隔てなく接する人間だ。それは、霊や妖怪にだって変わらない。

 それにはこんなエピソードがある。僕が、四ノ原中学校に転校してきた日から、陽菜は僕と一緒に登校することになった。たまたま家の方向が近所だったのだ。初めて一緒に登校した日、それは驚きの連続だった。二人で待ち合わせしている地点から200mほど歩いた田んぼのの畦道を抜けた道路脇でひなが何も無いようなところで挨拶をした。

「おはよう、昇さん」

 もちろん辺りには、昇さんらしき人はいなかった、居るとしたらさっき挨拶した婆ちゃんだ。だけど、婆ちゃんの名前は()さんだった筈だ。

「おお、今日も昇るは成仏され取らんかい、それは良かった。いつも見守りありがとうねぇ、」

 そう言ったのはさっき挨拶を交わした、亀さんだった。

 私がこの会話を不審におもっていると、また、亀さんは言った。

「夏一ちゃんはまだ聞いとらんがか~!陽菜ちゃんはねぇ、不思議なモノが見えるがよ~、別に悪いものが見えようわけじゃないがやけん、仲良くしちょって!」


 どうやら、この子のには霊感があるらしい。そしてこの子の霊感は村公認。霊感の存在を疑うこと無く、嫌がったり、おそれたりしないのは、この村民の寛大な心と、彼女の明るい性格のおかげだろう。それから僕もすっかり見えない昇るさんの存在を信じるようになった。毎朝田んぼの横の道路にに向かって陽菜と一緒に挨拶をするようになった。陽菜と関わって行くうちに、昇さんの気配がだいたい分かるようになってきた。昇さんは自縛霊らしく、最初にあった田んぼ横の道路から今も一歩も動いていないようだった。

 そんなある日、珍しく陽菜が学校を風邪で休んだ。その日はちょうど目の前も見えないような大雨だった。僕は周りに充分に警戒して帰っているつもりだったが、昇さんが横にいる道路でで躓いてコケてしまった。急いで起き上がろうとしたが、足を捻ってうまく立ち上がれなかった。何度も立とうとしたが起き上がるまでが精一杯でオマケにこんな大雨の中、外を出歩く人もおらず救助を求めることすら出来なかった。

 僕が諦めようとしたその時、僕を車のライトが照らした。やっと救助が来た!と思ったが、その希望は一瞬で消えてしまった。今日は大雨で、前が全く見えないのだ。「(このままじゃ、車にしゃがれてしまう。)」車は猛スピードで前に近づいてきた、だが、僕のほんの30cmくらい前で、突然、音もなく急停止した。見ると不審に思った運転手さんが必死にエンジンをかけようとしていた。僕は助かったのだ。でも何故だろう。ふと辺りを見渡すと、僕のすぐ横に、腹に大きな傷を負った痛々しい青年の姿があった。顔はハンサムで身長も1,8m以上はあるだろう。歳は20代前半くらいだろう。僕には当たり前のように彼の姿がみえているが、彼が生きている人間では無いことは誰にでも分かるだろう。僕はこの人の正体が自然とわかった。彼は昇さんだった。

 僕が昇さんの存在に気づくと、車の運転手さんを指さして、悪戯をじみた可愛らしい笑みを浮かべた。

「良かったよ、二人目の地縛霊にならなくて」

 昇さんは言った。地縛霊とは思えない程の優しくて、明るい声で、まるで生身の人間のようだった。生前はモテたんだろうな、昇さん…。「夏一くんだっけ?改めてはじめまして、君も分かって貰えるなんて光栄だよ。僕の姿を見て驚いた?少し無惨な姿だけど僕は別にこの世界に恨みはないんだ、もう少し生きたかった…なんて事はたまには思うけど、実際はこの世界が好きすぎて、言い尽くせないようなありがとうの気持ちが強く残って僕は地縛霊になっちゃったんだ。だから嫌がることはしないし、これからも挨拶してくれよ」

 その時幽霊は、怨念だけでこの世に残るのではないことを知った。

 僕は昇さんしかまだ見えないが、幽霊を信じるようになった。また、幽霊にあまり敵愾心(てきがいしん)を抱かなくなった。

 さあ、思い出話はここまでにしといて、早速柿本屋敷屋敷の肝試しに陽菜を誘おう。

 陽菜の事だから、きっと暇だろう。予定は明日の深夜零時、つまり今夜である。こんな時間に女子と遊ぶなんて初めてだが、別に陽菜は友人以上の何者でもないし、ためらう必要もないだろう。

 早速、陽菜に電話すると「眠いから嫌」と最初は断られたが二つ返事で、OKが出た。「その代わり明日ジュース奢れよ」と。

 松岡には現地で報告するのでいいだろう。松岡は正直言って、少しビビリだ。「陽菜もつれていく」と言ったらきっと「お化けが居るの分かっちゃうから嫌」とか言いそうだ。

 部屋の時計を見るともう午後五時だった。せっかく今日は午前に終わったのに柿本屋敷のゆうちゃんについて調べていたらあっという間に時間が経っていた。深夜零時はいつもなら寝ている時間だ。探索する時に眠くなったら困るし、今のうちに少し仮眠を取ることにした。


 再び目が覚めると時刻は午後十一時半を指していた。たぶん四十秒くらいで支度を済ませ、急いで家を出た。待合場所は、学校だ。

 いつもの場所で昇さんにあった、昇さんは深夜徘徊している僕に

「大丈夫?なんか家であった?」

と心配してくれた。優しい気遣い、相変わらずイケメンだなぁ。

「柿本屋敷に行くんです。肝試しに」

と僕が言うと、一瞬少し複雑そうな表情をしたがすぐにいつものハンサムな笑顔に戻り、「何も無くて良かった。柿本屋敷は山奥だから鹿、猿、猪には気を付けてね。」

といい、柿本屋敷については特に咎めることはなく見送ってくれた。

 昇さんの所から離れて、昇さんがゆうちゃんと知り合いだったかも知れないということに気がついた。聞いてみればよかった、僕は少し後悔はした。

 学校には待ち合わせの五分前に着いた。辺りに松岡や陽菜の姿は無い、恐らく一番乗りだろう。

 だが、暗闇というのは何故かものすごく恐怖をそそる。さっきから暗くて周りはよく見えないが、僕は、後ろの暗闇から、何かしらの視線を感じている。僕の後ろには何が居る。

 闇の中でそれはよく分からないが、それは間違いなく僕を見ている。昼間にはこんな視線と気配は間違いなくなかった。夜になると何処からか湧いてくる者だろうか。僕は最近陽菜と関わるようになり霊の存在に敏感に感じるようになった。昇さんも自然に見れるようになったし、僕にももしかしたら、陽菜のような強い霊感が身についてしまったのだろうか。僕はゾッとした。自分が感じとった気配が動いている気がする。風が吹いていないのに草が揺れた。それはまるで、今までそこに止まっていた鳥が飛び立つように。

 気配がパタパタと足音を立てて近づいてきた、やばい!殺させる。 背中にズーンと思い衝撃が走った。膝から倒れ、地面に手をついて馬になるのがやっとだ。

 いつか霊感少女の陽菜は言っていた。

「この世に残る幽霊は悪い事をしない限り、危害は加えない」と。僕は知らず知らずのうちに何らかの悪事を行ってしまった。恐らくこの気配の主はお怒りだ?これから僕はどうなってしまうのだろう。

「あ、あぁ…なんでっ…」

 僕は声にならない声を出した。

 その気配は、馬になっているボクの背中に片足を乗せて、低いトーン女の子の声で言った。

「かいちくん…みぃつけたぁ♡」

「んぎゃああああああああああああぁぁぁあああぁぁぁ!!!」

 僕は背中に乗った足を振り払い猛ダッシュでその場を離れた。

 ゆうちゃんだ。心霊に疎い僕でも気づいた。僕は行く前からもう呪われていたのだ。柿本屋敷のゆうちゃんに、さっきの低い女児の声は間違いなくゆうちゃんだ、僕が柿本屋敷を探り当てた時点で、すでにゆうちゃんは僕の存在に気づいてたんだ。

 幽霊は動画を見ただけでも縁のはるばる、その人のもとまで訪れてくる。埼玉から東京まで来てくれるから、村内なら、ますます容易い事だろう。

 僕は全速力で走ったが、やつも全速力で追いかけてきた。

 その時、どんっと人影にぶつかった。助かった~、そう思ってうえを見上げると今、集合場所にきた松岡であった。松岡は僕を不思議そうに見たが、僕の後ろのほうをもっと不思議そうに見ている。まぁ、無理はない。

 僕の後ろにはゆうちゃんがもう既に訪れているからだ。

「よぉ、陽菜!こんな時間にどうしてそこにいるんだ。お前も柿本屋敷にいくのか?」

「はぁ…、陽菜?お前、見間違えてるぞ!」

「うん、夏一が柿本屋敷の真相を確かめるとか言って」

 振り返ると、ゆうちゃんではなく、陽菜が立っていた。

「も~やだなぁ、夏一ビビりすぎ~」

「本当だよなぁ、夏一みたいなビビりなやつが勘違いするから心霊スポットとかいうのができるんだろうな~」

「ほんとそれなー」

二人とも、僕を馬鹿にしやがって!でも松岡は陽菜を連れていく事には文句がないようだ。

 僕らは早速、松岡自作の柿本屋敷への地図を見せてくれた。松岡は柿本屋敷の場所をよく知らなかったが、父に聞いたら教えてくれたらしい。なぜ松岡父が柿本屋敷の場所を知ってるのかはよく分からないが。

 柿本屋敷は、大鐘山の旧道沿いにある。僕はここの地形に疎い訳では無いが、柿本屋敷屋敷の存在を知るまで大鐘山の存在を知らなかった。それは地元民である陽菜も松岡同じようで柿本屋敷のゆうちゃんが村民以外の誰かによって書かれたものだという説をより濃厚にした。

 大鐘山の道は険しかった。道路には一応、草は茂っていなかったがアスファルトで固められていないためでこぼこだった。

 オマケに街灯がなく真っ暗なためいかにも人以外のものが()りそうだ。だが、陽菜が恐れず、何にも気にする様子なく歩いているから、ここには何もいないのだろう。

 しばらく歩くと、辺り一帯に生えていた杉が竹に変わり、目の前に立派な屋敷がすがたを現した。

「ここが柿本屋敷か…。」

 僕が感心していると、陽菜と松岡も感心しているようだった。こんなの初めて見た、というように。

 少しカビた水色の壁が特徴的な木造建築だ。

 庭が狭いためか、敷地面積はそこまでひろくなかったが、屋敷と言うには充分な広さであり、異様に窓が多い印象だ。

 外装はもう既に自然と一体化を図ろうとしているようで、水色の塗料で塗られた壁は上から下までびっしりと蔦に占領され、雑草は庭にはいってこらもボーボーに生え放題だ。

 ジャンケンで先導になってしまった松岡が、軽く肩を震わせながら玄関のドアノブを捻ると、「キュイイイイン」という甲高いおとを出してドアが開いた。

「もっ、もぅこわないか…俺、ここざま怖いんやけど…。」

 言い出しっぺの松岡が泣き言を言ってくる。未だ、心霊現象と言えるものは何一つ起きていないが、流石心霊スポット、怪しげな雰囲気が漂っているような気がしないわけでもない。ここは陽菜の霊感に頼ってみようと思ったが、陽菜はなんだか珍しく悩んでいるようで、松岡なんぞ見る気もしない。

「なっ、なぁどうだ陽菜、なんかいるんだろ、言ってみろよ!」

さっきから、おどおどしている松岡である。一方、陽菜はあまり恐怖を感じていないらしいが、相変わらず、どこかつまるところがあるようだ。少しイライラしているのがこちらからも伺える。

「うるさい、そんなに怖いんやったら、お歌でも歌っとけ!」

陽菜の言葉に影響させられるくらいだ。松岡はとてもビビっており、少し弱々しい声で「タイムトラベルは楽しい、メトロポリタミュージアむ___」

と僕が知らない時代のお歌を歌いだした。

 この家はとことん洋風で、この地方にしてはというより日本にしては珍しく、玄関で靴を脱がないスタイルのお屋敷だ。

 玄関から真っ直ぐ廊下が通っていた。ひのき板が敷かれた廊下は歩くたびにキィキィ鳴り響く鶯張り使用になっていて、それがまた恐怖をそそる。松岡は鶯がキィキィ鳴くたびに「ひやぁ!」と可愛い声を上げている。お前は女子か。でも、そのおかげで全然怖くない、松岡ありがとう。

 そして松岡は時に「ひやぁ!」と言いながらも、歌を歌い続けている。もうそろっと一曲目が終わりそうだ。そういえばもうすぐ廊下の突き当たりに着く。そこにはたしか、絵画があるはずだ。

「大好きーな絵の中に閉じ込めーられーたっ!」

音痴な松岡が歌いあげると、そこには待ってました〜と言わんばかりに、赤い服を着た女が映る絵画があった。

『ぎゃあああああああああああああああ!』

 僕と松岡は酷い偶然に思わずその場で叫んでしまった。

「松岡、なんでよりによってそれを歌ったんだよ!」

「うるせぇなぁ!この曲は俺の十八番なの!」

「この曲嫌いじゃないけど怖いんだって!」

 この歌は作者曰く「トラウマの曲」。PVでは歌同様赤いワンピースを着た女の子が最後大好きな絵の中に閉じ込められてしまう。

 偶然、この風景に閉じ込められている、女の子も赤いワンピースだった。少し後ろでも珍しく冷静が陽菜少し驚いていたようだった。

「うるさいよ二人とも、今何時だと思う思ってんの…そんなんじゃこの家の主に馬鹿にされちゃうよ!」

「この家の主…?この家にはゆ、ゆう、幽霊がいるのか」

「いや、まだそこまでは分からん。気配ならするんやけど、姿を見とらんけんなぁ…。」

 陽菜はかなり考え込んでいるようだ。さっきからずっと斜め下を向いて歩いている。

 携帯のライトで一歩先を照らして歩いて行く…。ライトで照らした床がところどころ腐って朽ちているのがわかる。歩いて行くと、ギシギシ、ビキビキと激しく木が鳴り響いている。二階に上がると、木の強度がますます低くなったのか、床が他よりしなるところがあったり、抜け落ちているところもあった。

 先程から心霊現象は何も起きていない。

 松岡は相変わらずビビっているが、今は幽霊より、床の強度の低さに怯えているようだ。陽菜は、気配の正体を確かめるのに没頭して、床の強度に意識が回っていない。

 その時、なにか気づいたらしい陽菜が、「はっ」と声を上げ、上を向いた。その時、自分がものすごい危ない所にいたことに気づいたらしく、慌てふためき、僕と松岡がある方へ飛び乗ってきた。だが、彼女の選択は大きく間違えていた…。

 ただえさえ、朽ちかけた床に3人目の陽菜が飛びのると、床は「バキッ」という音を鳴らし、僕らは一階に急降下していった。




















これどこの方言だ?こんな方言ないぞ!と思った方も多いと思います。実際筆者も書いていてよく分からなくなりました。

あくまでパラレルワールドの話です。この世界とはなんの関係もございません。

ここまで読んでいただきありがとうございます。次回もよろしくお願いします。

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