6話 冒険者ギルド
俺に嫁が出来て一週間。
というか、押しかけ女房(魔王)がやってきて一週間。
毎日が騒がしい。
ラリーズはとにかく喋る。
どうでもいい事もどうでもあることでも何でも喋る。
黙っている時が無い程に喋るので、俺は辟易している。
そして、俺たちはまだ冒険者登録をしていなかった。
ロクサーヌはラリーズの事を本気に気に入ったらしく、一緒に行動することが多い。
なんというか、他人との距離を縮めるのが本当に上手いという印象だが、本人にその自覚はない。
それから、魔族という種族の事を詳しく話してもらった。
魔族の大半はブラーム大陸に住んでいるという。
地方をフラフラするのはラリーズのような風来坊だけらしい。
大概はブラーム大陸で一生を終えることになるのだそうな。
魔族は、角が大きいと力が弱く、また、肌も青に近い。
角が小さく肌の色が人間に近ければ近いほど力も魔力も強く、その力の強い一部の魔族が魔王となるらしい。
魔王とは、一定の基準値を超えた魔族のことを言う。
その基準値とは、戦闘レベルというものらしい。戦闘レベルに上限はなく、経験を重ねるごとに強くなるのだそうだ。
ラリーズの話が正しければ、俺よりも強い生き物がいるとすれば、魔王だろうということだった。
最強の魔王になると角は無くなる。人間と見分けがつかなくなるらしい。
そして、魔族の平均寿命は千歳。
長生きをする魔族だと、一万年から一千万年を生きるという。
人間からすると、とてつもない長い長い時間だ。
そして、意外にもラリーズはこの世界では有名な魔王だった。悪い意味で。
この百年間、強い奴がいるというと、どんな所へでも向かい、闘いを挑むらしい。
殺しあう訳ではないので、命の取り合いとかそういうのではないが。
なので、名が売れた騎士や魔術師、冒険者などは魔王ラリーズの名を聞くと『めんどくせえ奴』や『しつこい奴』という感想をこぼすらしいのだ。
俺からすると微笑ましい事だが、つきまとわれた側からすれば、これ程面倒くさいものはない。
闘うまで、いつまでもつきまとうってさ、これ、単なるストーカーだからね。
「カズヤの嫁になる!」とかさ、こっちはその気がないのだから、俺に対してもストーカーだから。
◇
さて、今、俺たち四人はサンガリ亭のラウンジにて、お茶をしている。
本当は冒険者登録をしに行く前に、ここへ集まったのだが、ラリーズがロクサーヌと遊んでしまっているので、まだ出かけられないのであった。
「ロクサーヌはホント可愛いな! ワタシはロクサーヌを目に入れても痛くないぞ! ハッハッハッハ」
「ラリーズも綺麗だよ?」
「当たり前だ! ワタシはカズヤの嫁だからな! ハッハッハ!」
「パープルの瞳が素敵だよ? ラリーズ」
ロクサーヌを抱き上げて、頬をスリスリして可愛がっているラリーズ。
それを喜んでいるロクサーヌである。
もう、この何日かで見慣れた光景だった。
「まったく、うるさいわね。ラリーズは」
「確かにうるせえ。声がでけえ」
と、テンションがダダ下がりな俺とレイヤ。
「ハッハッハ! 元気がなければ何もできないだろ! 子供も産めん! そうだろ? カズヤ!」
「あら、カズヤの子供ができたのかしら?」
「俺は何もしてないから!」
「なんの話ですか?」
そう、押しかけ女房もといラリーズは、俺に俺の嫁宣言をした後、自分のいた宿からこのサンガリ亭へと宿を変えた。
そして、恐ろしいことに俺の部屋へとやってきたのだ。
持参金一千万ベリスをサンガリ亭に支払って。
頭おかしいんじゃないか?
おかしいよね?
「おかしくはないぞ! 夫婦は一緒に居るべきだと母上が言っていたからな! ハッハッハ!」
「このストーカー悪魔め」
「ストーカーとはなんだ? それで、これから冒険者ギルドへ行くのだろう?」
お前が言うか? と言いたいのを我慢して俺は四人に話す。
「そろそろ冒険者登録をしておきたいんだよ。レイヤもそう言ってるし」
「とりあえず、身分を証明できるものが欲しいのよ。色々やることもあるし」
「それでは、グズグズしてないで行こうではないか!」
「そうです。急いで行きましょう、レイヤ様、カズヤ様」
「お前らが言うな!」
つい、突っ込んでしまった。
「ロクサーヌはとても明るくなったわよね」
「バカにならないようにラリーズから離した方がいいと思うぞ?」
「いいのよ。ロクサーヌは内気で引っ込み思案な子だから、これで少しはアクティブになるでしょう」
と言う訳で、皆で一週間ぶりに冒険者ギルドへ向かった。
◇
俺の左腕に体を巻きつけ、柔らかく大きな胸を押し付けて、自分の左腕にロクサーヌを抱っこしつつ、ラリーズはモデルのように歩く。
その後ろを偉そうなレイヤが歩く。
冒険者ギルドに入った途端に奇異の目が俺たちに注がれる。
俺は居た堪れないのだが、他の三人はどこ吹く風である。
頭おかしいんじゃないか? やっぱり。
もっと普通にできないのか?
やっぱりラリーズのせいで何かが変わってしまったようだ。
それから、俺の地味な存在感。そしてグレーのスウェットというものが、逆に三人を際立たせているのかもしれない。
そうだ、服を買おう。
俺は、冒険者登録後に服を買いに行くことにした。
受付をした後、やはり待つことになり、四人で長椅子に座る。
ロクサーヌはラリーズに抱っこされたままだけど。
どんだけ愛し愛されてんだよ。
そして、待つことに三十分。
まず呼ばれたのはレイヤと俺。
カウンターに行くと、これまたもの凄い美人のエルフの人が、説明をしてくれる。
「それでは、こちらの球体に右手のひらを乗せて下さい」
そう言われて、まず、俺が直径五十センチはあろうかという水晶みたいな球に手のひらを置いた。
すると、その球の脇にある魔法陣の上で、自動書記システムが作動し始め、金属のカードに文字を刻みつけて行く。
・氏名 カトウカズヤ
・年齢 十九歳
・種族 人間種
・Lv. F
・パーティ名
・魔力 F
この六つがカードに刻まれて行く。
種族までは解るのだけど、パーティ名はこれから決めるからどうするのかと、受付のお姉さんに聞いたら、分かった時点で自動更新されるので、ここに持ってきて下さいと言われた。
そして、Lv.だが、単純に冒険者のレベルということらしい。
SSからFまでの八段階でレベルを見るとのことだ。
レベルアップの条件は、試験をクリアすることと、経験を加味して、ギルドの試験管が、アップをさせるかどうか決めるという。
魔力は、その個人が持っている魔力の総量らしい。そんなのも分かるんだと少しびっくりした。
そして、俺はもちろん最低のFからだった。魔力も最低のF。
レイヤといえば、冒険者レベルはFなのだが、魔力はSS。
なに、この違い。
そして、ラリーズとロクサーヌだが、レイヤとまったく同じだった。
結果として、俺だけFF。
あとは、カードを紛失した時のこのだけど、一度登録してあればいつでも再発行してくれるらしい。
錆びたり傷がつかないよう、魔力が付与されているので、一枚五万ベリスという高額で再発行してくれるとのこと。
そして、このSSの魔力総量が三人いるということが、後々、俺たちの名声を押し上げることになろうとは、この時は思ってもいなかった。
そのせいで少しだけ嫌な目に遭おうとは。
◇
「さて、これで堂々と冒険者と名乗れるわね」
「堂々とって……レイヤの身元がギルド所属になったからって、俺たちは元々が身元不明だろ?」
「何言ってるのよ。元々が何だって関係ないのよ。私だって、言っちゃえば元々女神だし」
「え? 女神辞めたの?」
「違うわよ。バカなの、あなた? 元々が何だろうと、今、何なのかが大切なんじゃない、と言ってるのよ」
「いや、全然わからねえ。悪い」
「まぁいいわ」
サンガリ亭への帰り、俺とレイヤは俺の服を買いに露店街へと向かっていた。
ロクサーヌとラリーズは仲良く何処かに遊びに行った。本当に仲がいい、というかアレはアレだな、何となく。
「というか、どんな服がいいの? この世界にはスウェットなんて売ってないわよ?」
「スウェットはあっても買わねえよ」
「あら、そう」
「そうだよ」
「ねえ、少し空を見てよ。あなたのいた東京と比べたら物凄く青くない?」
「え? なにロマンチックなこと言ってんだよ、レイヤのくせに」
「そういうところよね。カズヤが日本でボッチだった理由って。決して超能力のせいじゃないとおもうわよ?」
「なんで知ってんだよ!」
「だって私、東京にいたんだもの」
「は?」
俺はその時、レイヤの過去を少しだけ知った。




