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3話 ロクサーヌ捜索-そして罪と罰

 

 ロクサーヌは脳内地図でいうと、城塞都市カンテールの東側、ウルリッヒ帝国という隣の国と繋がっている街道沿いの小さな町、モラスという所にいた。


 さっきは近いと言ったが、俺の感覚で近いと言っただけで、実際は二十キロ以上あった。


 しかし、俺は瞬間移動ができるので、距離は無いようなものなのだ。結局、何処であろうが近いのだ。


「おい、着いたぞ」


 俺は脳内地図を見ながら、人がいないような場所にレイヤを連れて瞬間移動をした。

 ちなみに、俺の体のどこか一部に触れていないと一緒に転移できないので、その旨をレイヤに伝えたのに、気持ち悪いと駄々をこねたので、俺の着ているスウェットのどこでもいいから触れる事だけを頼み込んで、許しを得た。


「ここはどこなの?」

「多分、小さな町だと思う。地図にはモラスって書いてあったけど」

「なに、地図って? どこに地図があるの? バカなの?」

「俺の頭の中にだよ! 超能力で視えるんだから仕方ないだろ!」

「…………」

「なんだよ」

「いえ別に」


 こいつバカなんじゃねーの、ヤベーんじゃねーの、みたいな目で俺を見るレイヤ。


 つーかさ、女神見習いと連絡がつかない時点で、レイヤの方に問題があるんじゃねーか、と思う俺は捻くれているのだろうか。


「意外と賑わっているわね」


 町の中に入ると、本当に賑わっている。

 たくさんの旅人たちが、あーでもないこーでもないとうるさく話している。


 賑わっているというだけあって、乗合馬車の待合所などがあり、そこにも大勢の人が群がっていた。


 町と町とを繋げる宿場町という感じだろうか。


 レイヤの視線の先を見ると、たくさんの露店が立ち並び、そこにも人が大勢群がっていた。


 その場所は、なんというか、露店街というのだろうか。


 俺たちは大勢の人が群がるその露店街を突っ切り、家が立ち並ぶ場所に出た。

 そして、石で建てられたそれらの家々が並ぶ一角を抜けると、また店が立ち並ぶ場所に出る。

 ここは、さっきの露店街とは違う雰囲気だ。


 ここら辺に住んでいる住人が買い物をするような、食べ物などが店先に置いてある。


 さっきの露店街は、旅人たちが何かを買うような店々だったのだろう。


 ふと、果物らしきものが置いてある店をみると、その店の横で、モフモフの毛と耳が頭の上に付いている、レイヤ曰く多分獣人四、五人が、何かを蹴飛ばしていた。


 その何かがロクサーヌだった。まさかなー、なんて思っていたら、そのまさかだったのである。


「おい、あそこで蹴られている、青い髪の毛の小さい子がロクサーヌで合ってるか?」

「ロクサーヌね」

「なんでモフモフのケモ耳に蹴られてんだよ」

「知らないわよ」


 と、軽く流すレイヤ。


 俺とレイヤは急ぎ獣人たちのところへ近づいていった。


 そして、その中で一番強そうで偉そうな白い毛がモフモフの犬っぽい獣人に声をかけた。


「あの、すいません」

「あん? 誰だよテメーわ」


 おお、獣人にも言葉が通じる! なんて感動していたら、やたら乱暴な口調でその獣人が答えた。


「初めまして。ワタクシはカトウカズヤといいます。あなたの蹴られているそこの青い髪の毛の人は、なにかしたのですか?」

「ああん? こいつか? こいつはよぉ、うちのモンにぶつかってきやがって怪我させたんだよ」


「あぁ、なるほど」

 所謂当たり屋的なやつか。


 俺はレイヤを見る。レイヤは腕を組んで獣人たちを睨みつけていた。


「あの、それでですね、その青い髪の毛の人を許すなんてことはできますかね?」


「ああ? あんたも金を払うのか? なら許してやってもいいぞ」


「すいませんが、少しだけその青い髪の毛の人と話をさせて頂くわけにはいかないでしょうか? あ、逃げたりはしませんので」


 そう言うと、獣人のお兄さんは『少しならいいぞ』と言って、俺をロクサーヌの前に出してくれた。


 ゆっくりと腰を落として、体育座りをしているロクサーヌに話しかける。

 小学生高学年程の小さな身体が、あちこち傷だらけで、なんと言えばいいか……


「えっと、君はロクサーヌであってるかな?」


 俺をチラッと見て、それからその先にいるレイヤを見てからロクサーヌは口を開いた。


「……レイヤ様のお供の方ですか?」

「そう。俺はカズヤ。カトウカズヤ。体は大丈夫か? ロクサーヌ。君を探してたんだ。何があったの?」


 すると、ロクサーヌは(まなじり)に涙をためて首を横に振りながら話し出した。


「……すいません。歩いていたら、この人達にぶつかってしまい、怪我をしたから治療費を出せと言われて、持っていたお金を全て取られてしまって……わたし怖くて何もできなくて……レイヤ様に顔向けができません」


 項垂(うなだ)れ、か細い声で、そう答えるロクサーヌの頭をポンポンと撫でて、いっきに記憶を視る。


 確かにこの獣人たちに金を盗られていた。殴られ、蹴られ、ぶん投げられて……。

 なんて酷いことをしやがるんだ。


 俺は怒りに震えた。


「すいません、お金を返してもらえないでょうか? 返してくれるなら全てを赦します」

「ああ? なんでオレ様が返さなきゃならねえんだよ? ああん? 怪我したのはこっちだぜ?」

「このロクサーヌからお前らが金を取ったんだろ?」


「おい、コラ、舐めてんのか? てめえみたいに魔力のねえ奴がいきがってんじゃねえぞ? ああん?」

「魔力? なにそれおいしいの?」


 俺がそう言うと、獣人がいきなり殴りかかってきた。


「て、テ――」


 と、獣人が言い出す瞬間に時間を止めた。


 そして、ロクサーヌの頭を触り、時間停止を解いて動けるようにする。レイヤは超能力が効かないので平気で動いている。

 動き出したロクサーヌは、少しだけビックリした表情を見せた後、レイヤの顔を見て安心したのか、目に涙を溜めた。


「ロクサーヌ、大丈夫?」


 とても優しく、聖母のような表情で語りかけるレイヤ。

 こんなレイヤを見たのは会ってから初めてだった。


「レイヤ様……ごめんなさい」


 涙を零しながらレイヤの胸に顔を埋めるロクサーヌ。

 さながら、長年会っていなかった親子の対面みたいな感じを覚える。


「いいのよ、ロクサーヌ。あなたは何も悪くない。このケモ耳どもが全て悪いの。だから何も気にしなくていいのよ? とにかく、無事でなにより」


 そう言いロクサーヌの頭を撫でるレイヤだった。

 顔を見ると、まるで女神のようだった。


 慈悲に溢れたその微笑は、どんなに荒んだ心も優しく包み込んでくれるに違いない、愛に満ちていた。


 そして、そんな表情を見ていた俺まで愛に満ちてきた。

 と、いったところで二人に声をかける。


「レイヤ、ロクサーヌ、こいつらを捨ててくるからちょっと待ってて」


 二人の承諾を得て、俺は獣人ら五人を空中に浮かせた。


「それで、カズヤ、このゴミムシたちをどうするの?」


 レイヤが聞いてきたので、とりあえずこう答えた。


「ちょっと痛い目に合わせてやろうかなと思ってさ」

「それは、いいアイデアだわ。じゃ、じゃあ、拷問は私にまかせてね」


 拷問がしたいのか? この人。


 それから、俺はケモ兄さん達五人を街道沿いの雑木林の中へ、超能力を使って浮かせて連れて行き、蔦で手足を動かなくし、念のためグルグルの簀巻きにしてから、殴りかかってきたケモ兄さんだけ動けるように時間の流れを戻す。


 レイヤ達も一緒に行きたいと言うので二人も連れてきた。


「メー、って、あ? ――どこだここは?」

「やあ、ケモ兄さん。元気?」


 雑木林の中で雑に転がされているケモ兄さんは、俺をキョトンとした目で見上げている。


「あまり見つめられると、気持ち悪いんだけど」


 その言葉で、ようやく我に返ったケモ兄さんは、荒い口調で大声を出す。


「テメー、なにしやがった、ああん? オラァー! テメーよぉおー!!」


 そう大声で叫びながら、手足が使えないので体全体で暴れる。

 獣人だから力が強いだろうと、念のために強めの簀巻きにしておいてよかった。


 なんて思っていたら、いきなりレイヤがケモ兄さんの顔面を、履いているブーツの底で思い切り踏み潰した。


 メキッ。

 ベキッ。

 ガリガリ。

 ガッガッガッ。

 ジッ。


 そんな音がする。したらいけない音もする。

 そして、ケモ兄さんの声が小さくなってきた。


「ぐっ……やめて……くれ」


 ベキッ。


「が……ごぶ」


 ガスッ。


「はふひへ……」


 ガッガッガッ。

 ジッ。


「おい、レイヤ、怒りは解るけど、その辺でいいだろ? あと、毛は燃やすなよ。全身に火が回って焼け死ぬぞ?」

「ふん、ロクサーヌに暴力を振るったくせに。もっと酷い目にあわせてあげるわ」


 鼻息も荒くレイヤが言う。

 いやー、これこそまさしく激おこだな、という感じだ。


 そして、ケモ兄さんが持っていた、革の袋を開いて、そこに入ったお金を手のひらで掴み取って確かめてから、顔面がボロボロのケモ兄さんへ告げる。


「相手が悪かったね、ケモ兄さん」


 涙と血と涎の混じった、そのボロボロな顔の表情は分かりにくい。

 しかし、目だけはギラついていたので、やっぱり教育が必要だと俺は判断した。


「やっぱり崖から捨てよう、レイヤ」

「だから、初めからそう言ってるじゃないの」


 当たり前のように言うレイヤ。


 結局、許そうかなと思った俺が甘かった。

 こういう世界なんだと、自分に言い聞かせて、獣人ら五人を二回に分けて、近くの二十メートルほどあるそそり立つ崖の上に瞬間移動させた。

 そして着いてすぐに、俺は時間の停止を解除した。


 ケモ兄さん達は何が何だか分からないといった放心状態である。


「ロクサーヌは平気そう?」

「ええ。まだ疲れが抜けきらないだけ。アレでも一応、女神見習いだから大丈夫よ【治癒】の魔法もかけたし」

「そっか。ならいいんだけど。てか、魔法使えるんだな?」

「使えるわよ? 何言ってるの?」

「いや、ほら、女神の【魅了】だっけ? 使えなかったじゃん?」

「あれは女神の力。これは魔法。間違えないでちょうだい」

「はいはい」


 そんな話をしていると、レイヤの隣で静かにしているロクサーヌが話しかけてきた。

 しかし、よく見れば見る程、小学生位にしか見えない。


「あ、あの……カズヤ様、助けて頂きありがとうございました」

 碧い瞳と整った顔で、あどけない表情をしながらショートボブの青い髪を弄り、ロクサーヌが礼を言う。


「え? あ、うん。礼なんていいよ、別に」

「いえ、ちゃんとお礼をしたかったので……」

「そっか、わかった。そういえば、ロクサーヌは女神見習いなんだよね?」

「はい。レイヤ様の元で日々研鑽しています」

「レイヤは優しくしてくれてる?」

「はい。とてもお優しい方です」


 そこにレイヤが割り込んでくる。


「私はとても優しい女神で有名なのよ? カズヤも私を見習ったらいいわ」

「いや、俺にはただのサディストにしか見えないから」

「だ、誰がサディストよ!?」

「いや、だから、お前」


 すると、ロクサーヌがクスクスと笑っている。


「仲がよろしいのですね、レイヤ様とカズヤ様は。ふふふ」


「よくねえよ」

「よくないわよ」

 同時に答えてしまう俺とレイヤだった。


 そして、レイヤは獣人のケモ兄さんを見ながらロクサーヌの頭を撫でて言った。


「この獣人風情が……」


 歯ぎしりの音が聞こえてきそうな程に力んで睨みつけているレイヤ。


 そして、レイヤに睨まれたケモ兄さんは、なぜか知らないが、めちゃくちゃ怯えた目になった。

 あのギラついた瞳ではない。


「ねえ、ケモ兄さん、ちょっと聞くけど、レイヤのことが怖いの?」


「あ、あんたよりずっと怖え……魔力が桁違いだぜ……震えが止まらねえよ、チクショウが」


 んー……なるほど。

 強さって魔力で判断するんだ。そうすると、俺には魔力がないってことになるな。

 魔力の測り方も分からないし。



「ねえ、レイヤ、俺には魔力が無いの?」

「無いわね」

「なるほど。レイヤは魔力の総量が分かるの?」

「分かるわよ」


 俺は、魔力とか感じないし理解できない。

 しかし、レイヤは魔力が凄いとケモ兄さんは言ってビビっている。


 どういうこと? コレは。

 なんて事を考えていると、レイヤが声をかけてきた。


「ねえ、もうそろそろカンテールへ行かない? 人と約束があるのよ」

「え? ああ、カンテールね。了解。じゃあ、崖から落とそうか」


「楽しそう。私にやらせて。ロクサーヌの仇よ」


 自ら落とすなんて。

 なんというサディスト女神。まあ相手が悪かったよね。


 なんて思っていると、レイヤはケモ兄さん達五人を崖から順番に落としていった。

 さようなら、獣人たち。

 俺は落ちた獣人たちのうめき声が聞こえることで生存を確認し、レイヤに伝える。


「ふん、死ねばいいのに」

 などと言ってはいるが、顔がそうは言っていなかった。


 まぁ、どちらにせよロクサーヌを虐めた罰だ。

 自己責任というやつだな。


 そして初めの予定通り、レイヤとロクサーヌと三人で、ようやく城塞都市カンテールへと向かったのだった。


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