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「ほぉ、お客さんを連れて来おったか」



二重のハッチ内で検疫を受け、ヘルメットを脱ぐとドテ医師が待ち構えていた。



「まずは全員の検診じゃ!そのお客人は待っていてもらえ」



長椅子をハッチ内に残し、エクリプスに乗り込んだ全員をドテ医師は診察した。結果は異常無し。


続けて診察室へ白骨を運び込む。



「Dr.、これは霜のサンプル」


「うむ、ちゃんと密封しとるな」



しばらく白骨はドテ医師に任せよう。



「全員食堂で待機。場合によってはまた乗り込む事になるかもしれない」



ライザに後を任せ、ベータとデッキに向かう。



「ただいま戻りました」



船長へ声を掛ける。



「御苦労…向こうのデッキに死体があったって?」


「白骨ですが。そのせいで死因が見た目では特定出来ませんでした」


「白骨なぁ…ソイツが最後の一人だったのかな?普通外に棄てそうなものだが」


「宇宙葬というものですか?」


「葬式なんておごそかなもんじゃ無い。放っとくと腐るし冷凍したらエネルギーの無駄だから棄てるんだ、移民船なら尚更だよ」



惑星に到着までの間に死亡した場合、遺体の腐敗を防ぐ目的で冷凍カプセルに入れるとその分船のエネルギーを消費する。


移民船では乗客の数が数だ、馬鹿にならないだろうな。



「ところで、何故デッキに?ベータが作業してくれましたが」



私が疑問を口にするとアルファが向き直った。



「パール主任、連絡チューブからのアクセスではサブAIにしか繋がりませんでしたので、メインAIに直接干渉する為です」


「あぁ、『下っ端ではらちが明かない』という訳か」


「はい。ですがメインAIもかなり『強情者』でして、なかなか云う事を聞きません」



アルファの話に船長は鼻を鳴らした。



「どうもあの船に居た最上位者…多分船長辺りだろうが、かなり強く『口止め』をしたらしくてな」


「最後の手段としてはリセットをしなければならないでしょう」



アルファの台詞にベータが反応する。



「アルファ。エクリプスAIを殺す気ですか?」


「あくまで最後の手段です、ベータ。そうならない様に作業を進めています」



私は船長と顔を見合わせた。


アルファとベータの“性格”の違いをこのやり取りで感じさせられた。


アルファは航宙担当な為か、基本に忠実なのだ。エクリプスとの無駄な交渉を続けるより時間短縮を選ぶ。


それに対してベータは補修担当、手元にある物で間に合わせ、直す事が仕事だ。他の船であろうとAIをリセットする事に抵抗があるのだろう。



「ベータ、最後の手段だ。その前にエクリプスが云う事を聞いてくれればリセットはしない…アルファ、最大努力をしろ。リセットを掛けると知りたい情報までオシャカになる」


「了解しました船長」




────────



「ボニーは?」



食堂へ顔を出すとボニーが見当たらない。



「Dr.が助手を所望致しまして、発見者であるボニーを向かわせました」



ライザの報告に頷き、今居る面子に明日の予定を告げた。



「…そういう訳で取り合えず解散だ。あぁライザ、医務室に行ってくる。ボニーには私から伝えておく」


「了解しました…分隊長殿、行く前にコーヒーはいかがです?」



ライザからカップを受け取りブロック食を口に、そのまま医務室へ向かう。



「ボニー?明日1030時、ハッチ前に集合だ…Dr.?」



ボニーは丁度医務室から退出するところだった。


特段、ボニーが医療に詳しい訳では無く、ドテ医師は発見時の状況が知りたかったのだろう。



「……よぉ、嬢ちゃん。難儀なものを持って来おったの?」



長椅子ごと運ばれた白骨にパッチが当てられている。よく見れば長椅子そのものにもだった。



「Dr.?死因は判りましたか?」



ドテ医師は直ぐには答えず、腰掛けた椅子に深く座り直した。


鼻から大きく息を吐き出す。



「嬢ちゃん…困った話だ、この客人、骨が全て残っておる」


「見たところそれは解る」


「いんや、解っとらん。耳骨など細かいものまで揃っとる。そしてこの長椅子で死んどる」



ドテ医師は私を睨みながら続けた。



「と、云うのはな、長椅子に血の跡がある。骨の下、頭から爪先までな。しかし…量が少ない。着とった服も血を吸っとるが、それだけ濡らすほどなら長椅子のカバーの下、スポンジやスプリングまでずぶ濡れであるはずじゃ」



ドテ医師は長椅子の主に目を向ける。



「血の跡はカバー表面までじゃ……そして肉が無い」



肉?



「白骨に肉は無いだろう?」


「嬢ちゃん、たとえ骨だけになっても、少しは…細胞が残るもんじゃよ?この客人はキレイに骨だけ。脳も髄液も、長椅子に残るはずの内臓の跡さえ有りゃせん」


「つまり?腐蝕して白骨化した訳では無い、と?」



ドテ医師は私にまた目を向けて言った。



「外傷…骨に残る傷は全く見当たらん。まるで丁寧に洗われたみたいに骨しか無い。にもかかわらず骨の配置に崩れたところが無い。服まで着とる……解らん」




────────


私はドテ医師と共にデッキへ戻った。


デッキには船長、監督官、アルファとベータが揃っていた。



「……とまぁ、難儀しとるよ」


「こちらもだいぶ難儀だ。かなりデータの吸い上げが出来てきたが…」



船長とドテ医師が話をしているところへパーマー監督官が割り込んでくる。



「それよりも!サルベージ出来る資材についてはどうなっています?」


「…パーマー、エクリプス号に何があったのか調査しないと。海賊じゃ無いんだぞ?サルベージには報告義務があるんだ、船が無人になった理由を出来る限り明確にしなけりゃ所有権を主張出来ないだろうが」


「それは解っていますが、データ照会と平行してサルベージ作業は出来るでしょう?…パール主任、どうなんだね?」



パーマー監督官の物言いに、鼻を鳴らしそうになる。


きっとサルベージ終了と同時にエクリプスから離脱しろとでも云うつもりだろう。報告書類はでっち上げる気だ。



「……パーマー監督官、アルファのデータ照会が終わらないと何処に何があるか判明しません。大型船ですから、やみくもに探しても上手くいかないでしょう」


「う、確かにそうではあるけれど……おいアルファ!資材庫の位置は?まず先にそれを探せ!」


「おいパーマー!監督官に乗員への命令権は無いぞ!」



船長が怒鳴る。


頭越しに命令などされては堪らないだろう。



「船長、アルファは備品です、乗員じゃ無い。それに船の備品では無く本社の備品だ、私にも命令権はあります」


「船長?パーマー監督官の要望に沿いますか?この場合エクリプスAIは照会を拒否しないはずです。先に行えば時間短縮になると予測されます」



…余計な事を。


船長は今にもアルファを殴りつけそうな顔をしていた。



「船長、おいアーノルド、こらえぃ……坊主!お主もちっとはモノを考えて言わんか!」



老医師の言葉に二人共少しは冷静さを取り戻した様だ。一触即発、下手すれば殴り合いになっていたかもしれない。


そうなれば私が二人に割って入るところだった。



パーマー監督官は息を吐き出すと私に向かって言った。



「資材庫の位置が判り次第、私も探索チームに加わります。いいですね?パール主任」




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