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航宙日誌:221


1330時遭難船エクリプス号とのドッキング完了。アルファによる解析開始。


エクリプスAIはドッキング後もハッチを開こうとしない。そればかりかアルファからの交信にも応えない。


考えられるのはやはり疫病の類いか?しかし既存の病原菌であれば医療AIが治療薬を作成するはずだが。



────船長アーノルド・F



────────



「始めにこれをお聴き下さい。エクリプス号が発信していたものを復元しました」


『…こちらは移民船エクリプス号です。本船は現在都合により他船の接触・乗船を禁じています』


「……都合って何だい?」


「それを答えようとしません、パーマー監督官」


「それじゃあ話にならんぞアルファ、他に何か向こうから引き出せる情報は無いのか?」



船長がげんなりとする。


航宙予定を大幅に遅らせて何も判らないでは無駄足もいいところだ。



「アルファ?あの船は何処を目指していた?」


「パール主任、エクリプス号はエズラ第四惑星への開拓団の一隻でした。他の移民船は無事に到着後、入植を果たしています」



200年前。エクリプス号は船団から離脱、行方不明となり遭難判定とされたそうだ。


遭難判定となった船が捜索される事はまず無い。


見付け様が無いのだ。


例えば、ある恒星系で遭難したとして、その船が同じ恒星系内にいたとしても救難信号を誰かが受信出来るかはかなり難しい。



「二百年前の船か…おいアルファ、乗員乗客の安否情報は?“凍ってる”のか?」



冷凍睡眠機構にマシントラブルが無ければ約1万人は無事だ。


しかしモノが200年前の機構…経年劣化は避けられないだろう。



「データ、来ました…残念ながら生存者0です」



やはり劣化したのだろう。


少なくともあの船の資材所有権は存在しないという事だ。



「…続いて船内環境データ。船内大気0。船内外の気温差0」


「空気漏れ!?…いやしかし、外からスキャンした限り大穴なんぞ空いとらんが」


「エクリプスAIによる環境調節の様です」


「ちょっと待ってくれ…」



パーマー監督官が眉を寄せる。



「…アルファ?まさかAIが空気を抜いたせいで乗員乗客が?」


「違いますパーマー監督官、AIは全員の死後その調節を行っています」



船長とドテ医師がパーマーを見た。呆れた顔をしている。


多分私も同じ顔をしていただろう。



「あ…いや、念の為、念の為に訊いたんですよ?」


「坊主、儂でも思い付かん疑問じゃのう」



船に限らずAIが人命──オリジナルの命──を危険にさらす訳が無い。


ましてや命を奪う真似などするはずが無いのだ。監督官としてあまりに不見識な発言だろう。



「…まぁいい。アルファ、全員の死亡理由は?」


「情報開示を拒否しています」


「冷凍睡眠機構が故障したのか?」



普通に考えれば約1万人が全滅するなど疫病以外では冷凍睡眠のトラブルだろう。



「データ、来ました。冷凍睡眠機構に問題無し」


「なんだそれは!?」


「…ですが船長、冷凍カプセルは全てハッチオープン状態です」


「ちょっと待て!?……するとなにか?1万人全員“寝てなかった”だと?」


「馬鹿な!?長旅だぞい?そんな人数、定期検診でも一度に全員は起こさん。起きとったら船が寿司詰めじゃ」



船長とドテ医師が口々に声をあげる。


私はアルファに訊いた。



「あの船の船内チェック、損傷箇所はあるか?」


「損傷はありません」



おかしい。


損傷があれば、そしてその度合いが酷ければ緊急避難の為に全員が起きていた可能性もあり得たのだが。



「どういう事かサッパリ解らん。肝心のところを解答拒否では……」




────────


その後のデータ取りによって疫病の類いは発生していない事が判明した。


私達分隊…いや作業班はベータと共に与圧スーツを身にまとった。



「済まんな、面倒を掛けて」



ビックマムとエクリプス号を繋ぐ連絡チューブ、そのハッチの前で船長が私達を見送る。



「いえ、船長。これが仕事ですから」


「無理はしないでくれ…あの小僧の為に怪我なんぞされてはかなわん」



船長はよほどパーマー監督官の事が気に入らなくなっているらしい。


ドテ医師が毎回代わる監督官を『坊主』呼ばわりするのはいつもの事だが、少なくとも船長はいつも名前で呼ぶ。


面と向かってでは無いにしろ『小僧』呼ばわりは今まで聞いた事が無い。



『分隊長殿、全員装具点検良し』



スピーカー越しにライザが声を掛けてきた。


私もヘルメットを被り、気密を確かめる。連絡チューブの向こうは空気が存在しない。



『アルファ?通話テスト。モニターはどうだ?』


『通話・モニター共に良好です、パール主任』



デッキに居るアルファとやり取りを行った後、船長に敬礼する。



『では船長、状況を開始します』


「パール、軍隊じゃないんだ、敬礼はいらんよ」



おっと。



『なかなか抜けません、私も皆も』


「少しづつ慣れるさ…じゃあ俺はデッキに戻る。気をつけろよ」



船長の後ろ姿を見送り、私達はハッチを開いて連絡チューブを渡る。



『アルファ?やはりこのハッチは開かないのか?』


『エクリプスAIに拒否されています』


『まずチューブの空気を抜いてくれ。バーナーで焼き切る』



エクリプス号が真空状態である為、連絡チューブも同様にしないと空けた穴に吸い込まれる恐れがある。


小さな穴でも全身を吸い込まれてしまうのだ。そうなればミンチ肉の出来上がりである。


チューブ内の圧が変わるのを感じた時、アルファから滅気完了の連絡が入った。



船外作業用のバーナーは酸素ボンベを内蔵している。


バーナートーチから小さく蒼いジェットの炎が噴き出す。


ヂリヂリと音を立てて炎がハッチを切っていく。



『切れました』


『よし、突入態形取れ…突入』


『よぉし行け!モタモタするな!』



ライザが喝を入れると同時に、分隊がお互いをカヴァーしながら船内へ入る。



『ぅお!?滑る!』


『足許注意!』



ヘルメットライトが船内を暗闇から浮かび上がらせる。


焼き切ったハッチの向こうには色が無かった。



『霜が張っとります分隊長殿』


『ずいぶん厚そうだな』





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