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「おいパール!どういうつもりだ!?」
「嬢ちゃん?まさか本気で取り引きするんじゃなかろうな?」
ハッチから戻った私に船長とドテ医師が詰め寄る。
私はヘルメットを脱ぎ、ライザに指示を出した。
「ライザ、分隊行動。目標、エクリプス号物資、物資名『金塊』…積めるだけ積め」
「了解です分隊長殿。よし!貴様ら、行動を達せられた。ただちに与圧スーツ着用の上、ハッチに集合!」
「もしヤツが約束を反古にしたら船を吹き飛ばせ。貨物部にあったな?」
「密…いや使途不明物資ですな?爆薬がたんまりあります」
ライザはにんまりと笑って部下と共に貨物部へ向かった。
「おいパール?説明してくれ、どうするつもりなんだ?」
「取り合えず船長、Dr.もデッキに行きましょう。話はその時に」
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デッキのモニターで隊員達の作業を見守る。
今のところ順調だ。
「…それで?パール、説明してもらおうか」
「船長、私とヤツの会話は全くの合法です。エズラ第四惑星に入植した移民、そしてその子孫には危険は及びません」
「……なんだと?」
ポカンとした表情で船長は私を見た。ドテ医師もだ。
「まぁ、危ない橋渡りでしたが…パーマー監督官が宇宙の素人で助かりました」
脳を取られたのが船長であったなら、無理な話だったろう。
『分隊長殿!物資はさらい終わりました、帰還します』
「ご苦労、曹長。検疫は密に。しっかり細胞を落とせ。戻ったらデッキに来い」
ライザとの交信を終えると、私は船長に言った。
「詳しい説明はライザが来てからでも?二度手間を省きたいので」
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名探偵 皆を集めて さてと謂い…か。
そんな大昔の言葉が、培養羊水の中での睡眠学習に含まれていたのに、少し驚く。
「私がヤツと交わした約束は、我々を襲わない事・物資のサルベージを邪魔しない事と引き替えに、エクリプス号の航路を『エズラ』に設定する事です」
デッキには船長を始め全員、隊員達も集まっている。
ライザめ、聞いた事を伝達するのが面倒だと思ったらしい。
「アルファ、そこで質問だ」
「何でしょうパール主任」
「『エズラ』と言った場合、どう説明する?」
アルファは一拍置いた後、話し始めた。
「『エズラ』…エズラ恒星系の主星である恒星エズラを指します」
「……あ!?」
船長は気付いたらしい。
「そう、移民が入植したのはエズラ第四惑星……恒星は『太陽』です」
「嬢ちゃん、つまり…エクリプス号は」
「パーマー監督官が宇宙について素人で良かった。あの人は『エズラ』としか覚えていなかった…」
1万人も食い散らかした『生き物』を乗せて。
「…お陰で『いい取り引き』が出来た。仮死状態で何百年も生きられる様だが、宇宙船も融かす恒星の熱にも耐えられるのか、試してやろう」
エクリプス号は真っ直ぐに恒星エズラの真ん中へ。
「ピンクの仇が討てますな分隊長殿」
「そして金塊で大儲けだ、パーマー監督官さまさまだな曹長」
やがて。
エクリプスAIを『説得』したアルファが、座標を入力しエクリプス号に繋がる連絡チューブを切り離した。
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航宙日誌:001
新しい船。
そしていつもの仲間。
パーマーさまさまとはよく云ったものだ、あの金塊のお陰で新造船一隻、パール主任以下四名のクローン乗員、アルファとベータをまとめて引き取る事が出来た。
もちろんDr.ドテも船医としてついて来た。
しばらくは今までと同じ航路で仕事を請け負う。違いは新品の船に監督官を乗せずに済む事だ。
─────船長アーノルド・F
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「それで船長、船の名前は決まったのですか?」
浮きドッグに停泊した私達の船、そのデッキでアルファが船長に聞いた。
「決めないと出航出来ません」
「いや決めたとも。もう申請も受理されとるんだ」
船長は頭を掻きながら私をチラリと見て言った。
「『ピンク』…ピンク号だ、この船は」
「……ありがとうございます。皆も喜びます」
「あぁ…いや」
滑らかにドアが開いてベータが入ってくる。
「点検終了しました船長」
ベータは顔を直したのだが、いまだに目出し帽を被っていた。アルファと見分けがつく様に。
私はデッキに新調された自分のコンソールでニュースコンテンツを開いていた。
『恒星エズラに所属不明船突入。融解沈没』
…たとえ恒星の熱に耐えられたとしても、重力には逆らえまい。
恒星の中心まで沈め。
「さてと。船長、荷揚げの進捗を見て来ます」
「あぁ、新人達がうまくやってるか様子を見てやってくれ」
船も大きくなり、船長は私達の次世代だった分隊を一つ買い足した。
「ライザ、どうだ?」
「完了です分隊長殿…いえ小隊長殿!」
仕事が一段落したからだろう、売店でライザ達は新しい仲間と一緒に買い食いをしていた。
「どうです小隊長殿も?美味いですよ」
そう言ってライザが私に手渡したのは…
…冷たいソフトクリームだった。
─────完




