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────────



『船長。船長。デッキまでお越し下さい』



アルファからのアナウンスが流れてきた。



「……今度はなんだ?」



いらただしげに席を立つ船長が、私について来るように手招きした。



「…今は独りでいたくなくてなぁ、臆病だな俺は」


「いえ、的確な判断です」



パーマー監督官はスーツに着替える為に一度ビックマムへ戻っている。


つまり『生き物』が残っているかもしれないのだ。単独行動は控えるべきだろう。



「どうしたアルファ、何かあったか?」



アルファは私達を見るとモニターの一つを指差した。



「ご覧下さい船長、エクリプス号からの映像です」



ベース区画として機材を置いた一角が映し出されている。私達が設営した時に仕掛けておいたカメラだった。


映像には粘り気のある液体の様なものが、こんもりと盛り上がっている。



「ちょっとズームしろ」



船長の命令に、それが画面一杯になった。



「……パーマー?」



透明感のある液体の中に、頭蓋骨があった。


頭蓋骨を液体がくるみ、人の顔に似せている。



確かにパーマー監督官の顔だった。



頭蓋骨の顎の骨が動き、口に似せた穴が閉じたり開いたりしているのが見える。



「アルファ?音声を出して」



『……聞こえる…か?…話…話を…しししたい。……だ、だだだだ代表しゃ…を…こち…こちちち…こちらへ…よ寄越して…もらいもらい…もらいたたい。…ききき危害はく……くわえ…ない……』



「……喋りやがった」



モニターの向こう側で無理矢理声を出している『生き物』。



「おい!話とは何だ!?」



船長がマイクに向かって怒鳴った。



『……こ交渉?…交渉…だ』



私と船長は顔を見合わせた。



……交渉だと?




────────



「行く事は無いぞパール!」


「船長はモニターで見張っていて下さい…ライザ?間違っても入らせるな。それからお前達も入るな」


「了解です分隊長殿」



私は与圧スーツを着るとヘルメットを被った。



「単細胞の群体が交渉とはのう…嬢ちゃん気を付けるんじゃぞ?アヤツ、パーマーの脳みそを使っとるんじゃろうからな」



監督官の脳を使っている。という事はこちらの事を把握しているという事だ。


交渉をするには不利な材料ではある。



ハッチを閉め、マイクチェックをする。



『聞こえるか?』


『良好です分隊長殿』


『分隊長殿!一発かましてやって下さい!』

『そうだ!あの頭蹴っ飛ばしてやって下さい!』

『貴様らうるせぇ!黙らんか!…済みません分隊長殿』


『お前達、間違っても中に入るなよ』



思わず苦笑しながら連絡チューブを渡った。



エクリプス側のハッチを抜けると、据え付けた卓の上に頭蓋骨が浮かんでいる。


頭蓋骨を包み込んだ液体──『生き物』──がライトの光を照り返して、ふるふると揺れていた。



「…よよよよ」


『……何だ?』


「よよようこそ…パ?パール?しゅ主任?…」



こちらの名前まで監督官の脳で判っているらしい。


もっとも、口振りから個人名とか役職名とかを理解しているかは怪しいが。



『交渉だそうだな』


「…そ、そそ、そう交渉…」


『どんな?』


「わ私は君達を『食べない』……かか代わりに…船?船を動かかして…欲しい」


『お前の仲間はピンクを襲ったぞ?』



頭蓋骨は首をかしげた。



「仲間?……仲間ではな無い、アレも『私』」


『なに?』


「ささ細胞全て『私』。ああの時は、しし思考…しすてむ?しすてむが出来て…いないなかったたた」


『つまり?考える頭が無かったから獣の様に襲った、という事か?』



「………………そう」



獣と呼ばれて気に入らなかったのか、ヤツは答えに詰まった。


多少は監督官の性格を反映しているのか?



『で?何故私達を食べない?お前なら簡単だろう?』


「……少ない。き君達…少ない。『私』の数?数には足りない」



数?


……そうか、200年前に1万人も食べたせいで細胞が増え過ぎたのか。


確かに10人足らずの私達を捕まえても腹の足しにもならないだろう。


では、船を動かせというのは……



『それで?何処へ行きたいんだ?』


「行く?」


『船を動かしたいんだろう?行き先は?』


「…行き先?行き先……行き先は『えずら』という星」



えずら?エズラか…


エクリプス号が本来目指していたのがエズラ第四惑星だったはずだ。



「『えずら』には…この船と同じ移民船?…移民船が既に…着いている……充分に増えている」



先に入植した移民達が子孫を増やして…『生き物』を養うのに『充分』いるはずだと、そういう理屈か。



『ずいぶん流暢に喋れる様になってきたな?』


「そう…そう」


『だがな?エズラにいるのも私達の仲間だ』


「違う。君達の仲間違う……関係が無い…君達知らない…人」


『といっても同族だ。裏切り行為だぞ?お前の細胞は裏切るのか?』



ふるふる揺れる液状の顔は、しばしぼぉっとした様に黙る。


私の言葉を吟味している様だった。



やがて小首をかしげる様に頭蓋骨を揺らし、口を開いた。



「こ…交渉……」


『…どんな?』


「君達が運ぶ…運ぼうとしていた物資?物資を渡す。君達を食べない。代わりに…船を動かす。『えずら』に」



なるほどパーマー監督官の脳みそだ。


先の条件だけでなくサルベージを許すから船を動かせ…か。


監督官以外の…ピンクの脳ならそんな話は出てこない。


手榴弾のお陰でピンクの脳は向こうに渡らなかった。



『…いいだろう。私達が物資を運ぶ間、それから私達がこの船から離れた後も、お前は私達を襲わない。その代わりにこの船を動かす…それでいいな?』


「そう!そう!…いい取り引き」


『裏切るなよ?』


「裏切る、しない。『私』損をする」



本当に流暢に喋る様になったな…



『確認するぞ?行き先はエズラでいいんだな?』


「そう!えずら。いい取り引き」



透明なパーマー監督官の顔が厭らしく笑った。





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