表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/14

12

────────



「……つまり?私が霜を溶かしたから」


「ああ!眠ってたヤツが起きちまったんだ」



パーマー監督官の顔色が悪い。


知らなかったとはいえ、1万人を食い殺した微生物を目覚めさせたのだ。


隊員達の目が監督官を睨んでいる。



「もうあの船には入らない方がいい、切り離し作業を始めるからな?いいな、パーマー」


「待って下さい船長!後少し!台車に乗せた分だけでも」


「ふざけんなよ!それでピンクが」


「よせボニー!……パーマー監督官?私達は本社の備品ですので、これ以上の私用は勘弁して頂きたい」



私の言葉に監督官は首をうなだれた。


頭をガリガリと掻いて、何かを考えているのだろうか?



「分隊長殿、ベース区画の備品はどうします?」


「ライザ副主任、そんなものいらん。もう誰もあの船に入るな」



船長がライザに言い渡す。


しばし誰も声をあげなかった。監督官がガリガリと頭を掻く耳障りな音だけが聴こえる。



「…ところでお主ら何をサルベージしとったんじゃ?」



気分を変える為だろう、ドテ医師がライザに訊いた。


ヘルメットライトの許で見た金属の塊か……先程も台車に積んでいたな。



「はあ、パーマー監督官の話によれば金だそうで…私らは初見ですから判別出来ませんが」


「金?金じゃと?」



「……そういやアイツ何があるか解ってたっぽいよな?」

「ああ、有るって解ってたみたいだった」



隊員達のひそひそ話を聴いた船長が、監督官を見る。



「おいパーマー?知ってたのか?」



監督官は頭を掻くのを止めずに、うつむいたまま答えた。



「そりゃあね…移民達だって入植先で経済活動はするでしょ?…金が無けりゃクレジットが作れないじゃ無いですか」



監督官が云うには入植惑星に金鉱脈があるかは解らない。


だから他の星と交易をする為にも一定量の金を移民船には積むのだそうだ。



「…ビックマムのライブラリにエクリプス号の失踪時のデータがありましたからね…資材格納庫に金があるのは解ってましたよ」


「一言くらいはあってしかるべきじゃないかな、パーマー」



船長が憮然ぶぜんとして言う。


監督官はガリガリと頭を掻いていた手を下ろし、溜め息をつきながらその手を見詰めた。



「……………え?」



監督官の動きが固まった。


じっと手を見ている。



「……これ…これ、変じゃないですか?」



うつむいた顔を上げ、私達に向かって手を見せた。



パーマー監督官の手が…



…透き通っている。



薄い皮一枚向こうが透き通って指の骨が白く見えた。



そして…顔も。



「パ、パーマー!?」


「う!うわ!?」



次々に起こる皆の声。


私達の驚愕きょうがくした表情を見て、自分に何が起きているのか察したのだろう。パーマーは椅子を蹴飛ばして走り出した。



「お、おい!パーマー何処へ!?」



「ぅわああああああぁぁぁぁぁぁ……!」



監督官の悲鳴を追いかけると、エクリプス号に繋がるハッチが閉まるところだった。


ハッチの窓から覗く。


ベース区画に置いてあるライトスタンドが倒れ、揺れる光に映った影が遠退いていった…




────────



「……どうしたもんかな」



船長はつぶやいた。


いや、船長も解っている。監督官は戻らない。


今頃はもう…



「Dr.ドテ、よろしいですか?」


「…なんじゃ?ベータよ」


「エクリプス号の航宙日誌には段階的に『生物』が行動様式を変えていった事が示唆されています」



ベータが指摘したのは、初めの犠牲者はドロドロに溶けてしまったのに対し、後の方では脳を乗っ取って冷凍カプセルを開け、まだ覚醒しきらない相手を餌食にしている…という部分だろう。



「…パーマー監督官を襲ったものは最初の段階と同じと思われます。何故『脳』を乗っ取る方法をとらなかったのでしょうか?」


「…さてのう。アヤツらの都合は解らんよ。霜から解放されたばかりで思いつかんかったのかもしれんし……だいたいが単細胞の群体じゃ、何を考えよるか見当がつかんわい」



それよりも、とドテ医師は続ける。



「何処で感染したんじゃパーマーの坊主は?与圧スーツを着とったんじゃろうが?」



何処で感染したかは判っている。


私はドテ医師に言った。



「最初パーマー監督官は与圧スーツを着ていなかった。私達は船長の指示があったので…それでエクリプス号の天井から水滴が雨の様に」



私の言葉にドテ医師も船長も頭を抱えた。



「全身ずぶ濡れになった訳か」


「…知らんかったとはいえ、迂闊うかつ過ぎじゃわい」



全く、船長があの時指示をしてくれなければ今頃全員が…



「それで?作業員が一人足りないのは?……確かピンク、だったか?」


「えぇ。ピンクは…その単細胞の塊に絡みつかれて、押し潰される様に襲われました」


「食われたのか?」


「いえ、最後にピンクはこの手榴弾を使って」



私は首から下げた小型手榴弾を見せる。



「まさかコイツが役に立つなんてなぁ」

「戦場から足を洗ったってのに、運が無ぇ」

「一矢報いたってヤツさ、化け物ヤロウ吹っ飛んだからな」



隊員達が軽口を叩く。



彼女達なりの悼み方だ。



船長とドテ医師は眉をしかめたが、私達はこうやって戦場を生き延びてきたのだから、文句を云われても困る。



「そのやり方を考えると、『生き物』は以前の乗っ取り方を忘れているのかもしれませんね」


「200年氷漬けじゃからの」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ