表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/14

10


連絡チューブを抜け、ベース化した区画に足を踏み入れる。



辺りは一変していた。



凍り付いた霜があらかた溶けて手摺や壁があらわとなっている。


天井から水滴が、あちらではぽつりぽつりと、こちらではバタバタと音を立て落ちてくる。


床には溶け切れていない霜の残骸がところどころ重なり、水浸しになっていた。


与圧スーツを着ていて良かった。ずぶ濡れになるところだ。


実際、パーマー監督官は濡れ鼠になっている。



「糞ッ、なんて水量だ!」


『着替えて来たらどうです?お待ちしますよ』


「そうさせてもらうよ…」



パーマー監督官の姿が見えなくなると皆ゲラゲラと笑った。



『風邪引くんじゃねぇの?アイツ』


『いいとこ見せようって考えてるからさ、自業自得だありゃ』



さて、船長からの頼まれ事を今のうちに済ませておこう。



『ベータ、ついて来てくれ。ライザ、船長の用事でデッキまで行ってくる』


『護衛は要りませんか?』


『隔壁閉鎖されているからな、まず大丈夫だ』



ベータを連れデッキまでの通路を進む。昨日と同様光源はヘルメットライトだけだ。



『船内照明が使えると助かるんだが』



『無理でしょう、パール主任。200年近く氷漬けではライトが破損していると思います』


『だろうな…あぁここだ』



昨日焼き切ったドアを踏みつけデッキに入る。



『ベータ、お前なら何処に航宙日誌やら航宙記録があるか判らないか?私にはよく判らなくてね』



ビックマム号でもミーティングの時以外ではデッキに近寄る機会が無い。ここしばらくは往復しているが。


それにここは別の船だ。見当がつかない。



『航宙日誌ですか…このキャビネットの辺りなら可能性が有ります』



二人でしばらくキャビネットを探ってみたが見当たらない。



『参ったな、有るとおもうんだが』



霜が取れた椅子につい座り込む。



『パール主任』


『あ、済まん』


『いえ、その席にあるファイルは何でしょうか?』



霜が溶け落ちたコンソールに薄いファイルが置かれていた。


パラりとめくる。



『何だこんな所にあったのか、間が抜けているな私も』


『航宙日誌ですか?……普通仕舞っておくものですが、何故出しっぱなしにしていたのでしょう?』



航宙日誌などは船長以外が見るものでは無い。事故でも起こらない限り他人の目に触れない様、保管するものだ。


ファイルには記録カードが挟まれていた。



『…もしかすると航宙記録か?』


『日誌と記録は別々に保管するものです。ファイルに挟むというのは手順として問題です』


『ベータ、これはメッセージだ…エクリプス船長からの』


『と言いますと?』


『「入るな」と発信していたにもかかわらずエクリプスに入った私達に提供する為にわざと置いていたんだ…まさか霜で埋まるとは思わなかったんだろう』



よし、と椅子から立ち上がり、デッキを後にする。



暗闇の中、私達二人の足音がザバザバと通路に響く。



『凄い水ですねパール主任。湿気だけではこうなりません』


『それだ。水漏れでも無いと思うんだが、何処から湧いた水なんだか』


『惑星では無いのですから湧き水はありません、パール主任』


『それくらいは解ってるよ、言い回しと云うヤツだ……ん?』



今……何か動いた様な…?



床に溜まった水の中、私達の足から出る波紋とは別の…



『……見たか?』


『何をですか?』


『今そこを何か動いた気がしたんだが』



ライトで辺りを照らしたが、それらしいものは見当たらなかった。




『済みません、私は見ていません。見ていれば記録したのですが』


『………いや…見間違いだろう。戻ろうか』




────────


航宙日誌をベータに預け、船長へ渡してくるように頼む。



『ずいぶんかかったね、パール主任』


『申し訳ありません、お待たせしました』



今度は与圧スーツを着て来たパーマー監督官に挨拶し、私達は資材格納庫へ向かった。


なかなか水は引いてくれない。排水溝がまだ凍っているらしい。天井から落ちる水滴はほぼおさまっていた。


台車をいくつか用意して押して行く。



『あぁ、ここだ』



電源がカットされている扉を押し広げ、中へ入る。



『結構な広さですな』


『あぁ……監督官、何を運びますか?』


『ちょっと待っててくれ…』



監督官は私達を待たせると、格納庫の中をあちこち歩き回ってはそこにある資材を確かめていく。



『…何かお目当てでもあるんでしょうか?』


『さて、どうだろうな。品定めをしてるのかもしれない』



やがて私達を呼ぶ声がヘルメットのスピーカー越しに響いてきた。



『これだ!これを運んでくれ…重いぞ?』



暗がりでよく判らないが、何やら金属の塊が積み重ねられている一角がある。


私はその四角い塊を一つ手に取った。


ズシリと重い。鉄鋼より重量がある。


ライトの加減でオレンジ色に映る四角い金属を台車に積んでいく。



『あまり無理するな、台車が動かなくなる』



タイヤが潰れてしまえば台車の意味が無い、さほど多くは積めなかった。


台車一台につき二人がかりで押して戻る。何度か往復しなくてはならないだろう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ