第一話
思えばその日は朝からついていなかった。
朝の占いでは最下位だったし、登校中に見つけた猫を撫でようとして引っ掻かれるし、弁当は落とすし。
そんな日に、スキップなんかしてたのが悪かった。
道を確認しなかったのが悪かった。
その時俺は、ケータイアプリの超レアキャラがガチャで出て、とにかくはしゃいでいた。
今日一日の運の悪さはこのためだったんだ!とかなんとか思っていた。
嬉しくて嬉しくて、川の土手の真ん中でスキップなんかして。
はしゃぎすぎて気づかなかった。
道にででんと寝転がる、すべての元凶となる黄色の悪魔に。
まあ簡単に言うと、バナナの皮で滑って転んで川に落ちたわけなんだけど。
普段ならすぐに這い上がれるその川は、前日の大雨のせいで氾濫していた。
力には自信があった高校生の俺は、相当頑張って流れに逆らったけど、あっけなく流され死んでしまったんだ。
この物語はそんなところから始まる。
※ ※ ※ ※ ※
「あれ、ここどこだ?」
目を覚ます。背中が痛いな。床に寝てたのか?
目の前には、すごくすごく高い、真っ白な天井。どこだろう?
と、横から何か聞こえる。
「ふーんふーんふーんふーん」
顔を横向きにする。
視界がかすんでまだよく見えないが、鼻歌を歌いつつ何かを探している人が目の前にいるのはわかる。
こちらに背を向け、だだっ広い部屋に散らかった紙を床に膝をつけて漁っているのは女の子だろうか。
「おい、なぁあんた」
その子の背中がビクッと動き、こちらを振り向く。
「あぁあなた、起きたわね!」
すごくうれしそうにこちらを見る少女は、なかなかの美少女だった。
少なくとも俺は見たことがないレベルの。
腰まで届くつややかな髪の毛は透き通る銀髪で、大きな瞳はガラス玉の水色。長い睫毛に、何かの制服だろうか、紺を基調とした正装に身を包んでいる。
「おはよう。わたしは天使。天使シリウスよ。あなたの魂を導くために、あなたをここへ呼んだの!」
おっと、残念系か。
「わたしの仕事は、あなたの魂に死後の世界を案内すること。具体的な場所は、これから連れていくところで説明するわ!」
何言ってんだろうこの子。なんだろ、俺の幻覚かな。さっき川で流されたとき頭打ったのかな。
川?あれ、そういえば!
「あれ、俺川でおぼれたんじゃなかったっけ!?ここどこ!?」
俺は立ち上がり、彼女を見下ろす。
「あぁ、今頃気づいたの。ここは死者が一番初めに来るところ、『死者総合案内所』のVIPルームよ!」
彼女も立ち上がり、ババーンと言った効果音が付きそうに堂々と言い放った。
「は?」
素っ頓狂な声を上げてしまった。
「残念だけど、あなたは死んでしまったわ。でも安心して、私がきちんと導いてあげるから!」
本当に何言ってんだ。俺が死んだ?確かに川には流されたけど、まさか死んではないだろ。
「信じられないって顔ね」
「そりゃ、まあ。いきなりあなたは死にましたって言われて、はいそうですかってすぐに納得できるやついんのか?第一、あんたのことまだ信用してないしな。なんか胡散臭いし」
「うさ...っ?」
シリウスが驚愕といった顔で少し後ずさる。
「そりゃそうだろ。天使なんてのが実在するとか死者を導くとか死後の世界とか。普通に聞いたらめちゃくちゃイタい子だよ」
思っていることを口に出しただけだが何故かシリウスは眉をぴくぴくさせていた。
「そ、そう。じゃあちゃんとした証拠をみせるから、ついてきて」
「おう」
(今まで導いて来た人たち、みんな最初はそんな風に思ってたのかな...ブツブツ...)
とかなんとかボソボソ呟いているのも聞こえたが、スルーしておこう。
案内されたのは、よく見る役所の待合所だった。が、待っている人たちは現実世界とは少し違っていた。
もう先程のダメージから回復したのか、何故か得意げに腕を組むシリウスに話しかける。
ふむ。
「なあ、あそこで床走ってたゴキブリ食ったのって、リザードマンって名前だったりする?」
「正解」
「じゃああそこでスカート履いた女の子の下に首転がしてその首蹴飛ばされてるのって、デュラハンって名前だったりする?」
「正解」
「じゃああそこで子供に角掴まれて半泣きになってるマッチョ男は、鬼か?」
「正解よ」
そう。そこに居たのは、フロアを埋め尽くすほどの亜人、亜人、亜人。
人間もいるが数は明らかに少なく、彼等もこの光景に戸惑っているようだ。
「ちなみに鬼を半泣きにさせてるあの子供は、ドワーフの子ね。あんな小さな子だけど、世界中どこ探しても人間であの子に勝てる人なんて絶対いないんだから」
これまでずっと得意げだったシリウスの顔が、これでもかと言うほどのドヤ顔に変わる。
「どう?まずは信じられたんじゃない?ここが人間の世界じゃないってことが」
驚きの光景に目をそらすことが出来ず、夢を見ているようでくらくらする。
俺が何も言えないでいると、シリウスは満足したように一度頷き、今までで一番のドヤ顔&キメ顔で言う。
「ここは死者総合案内所。名誉あるこの場所の役割は、死者をほかの世に導く、もしくは天国、地獄に送ること。あなたにはVIPとして、ここに勤めてもらうわ!」
「は!?」
俺の驚きは全く無視で、少女はさらに続ける。
「明日から研修に入ってもらうから、そのつもりで!」
「はぁああぁぁあぁあぁぁぁぁああぁあ!?!?!?」
今まで出たこともないような音量で声が出たことに自分でもびっくりしました。
こんにちは、米倉ブッシュです。まず、わたくしの拙い文章をここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
さて、この作品ですが、初めて投稿する作品ですので、どう転ぶかわかりません。
なので皆様、どうか温かい目で見守っていただきますよう。
あまり長いあとがきは好きではないので、ここらへんで。ではでは。