サクラ 騎士団訓練場で働く
「僕!クラマといいます!!体力なら誰にも負けません。騎士さまに誠心誠意お尽くしいたします。現在天涯孤独で戻るところもありません。どうか採用していただけないでしょうか!!」
私、ことクラマは面接官の前で、頭が床に着くかと思うほどに腰を曲げ、全身全霊で面接官に言い募った。
クラマという名前は、倉島という自分の苗字からとった。
適当な名前では突然名を呼ばれたときに咄嗟に反応ができないかもしれない。
でも呼ばれ慣れている自分の名前 クラシマ・・・クラマ・・なら、いける!!
後は自分の信用度合いだろうと、実は先ほど事務員が桜の身元調査の書類を持ってきた瞬間、時を止めて事務員の筆跡を真似てその上に書き足した。
マイデン村からやってきた、平凡な農民の3男であったということにしておいた。
先の魔獣の襲撃の際、家族全員と家も失ったと・・・。これは他の応募者の調査書を見た上で、天涯孤独を主張しつつ無難な路線でまとめてみた。
我ながら、惚れ惚れするできに仕上がったので、かなり満足している。
こんなことに能力を使うのは少し躊躇したが、そもそもそこには身元非確認、といった簡素な文しか書いていなかったのだから、そこにいろいろ修飾をつけるくらいは許される範囲内だろう。
何かを盗んだわけでもないし、誰にも迷惑はかけていない。
なによりこの住み込みの仕事を逃すと、もう後はない。よしこれでいこう。
私は必死だった。
まだ幼さが残る少年の白い肌をほの赤く上気させながら騎士への情熱を一所懸命に語るその熱意にほだされ、面接官はクラマの採用を認めた。
「ありがとうございます!わた・・僕、精一杯頑張ります!!」
「早速今から働いてもらうけど、いいかな?この間の世話係達が辞めてしまってから仕事が回らなくて困っているんだ」
「もちろんです!望むところです!」
ん・・世話係達?複数形?なんでそんなにいっせいに辞めたんだろう。
まあいいや、そのおかげで職にありつけたんだから、感謝、感謝。私って運がいいなあ。
ほくほく。
元来のポジティブマインドで、浮かんだ疑問を打ち消した。
私の今の持ち札。 チート能力。 少年の容姿。 住む家と仕事。