アルフリード混乱する
アルフリードは混乱していた。
いつもは冷静沈着な彼がこんなに動揺したのは、生まれてこのかた数えるほどしかない。
いや生まれて初めてなのかも。
「これはどういうことだ。誰かの謀略か・・・」
全神経を集中させて、考えを巡らす。
そう思えば昨日も、前兆はあった。
一瞬時が止まったように感じた。そのときは一人で執務室にこもって書類を片付けていたので、疲れからくる気のせいだと思っていたが、その時確かに周りの気配が途絶えた。
アルフリードはその魔力によって常に周りの気配を探知している。
たとえ自身が王宮の執務室にいたとしても、常に用心を怠らなかった。
それが突然、ほんの数分、無になったのだ。
今は、数分どころではない。現実にアルフリードのまわりの時は止まったままなのだ。
「これは魔法なのか?いや魔力は全然感じない。ということは魔石を使った何らかの術が発動したのか?
いや、時を止めることのできる術が存在すると仮定して、それを操れる優れた術者が万が一いたとしても、かなりの量の魔石が必要になるはずだ。魔石の管理は徹底している。現在そんな莫大な量の魔石を所有しているのは、王家のみだ。
だとしたら、第二王子派が、私の命を狙って動いたのか?!
アルフリードは次にくるだろう襲撃に備えて身を硬くしたが、何分経とうがその気配すらなかった。
頭の中で数百もの可能性を導き出しては、消していく。
けれどもアルフリードには、正解を見つけることはできなかった。
時を止めるなんて技が存在するということは、王国に昔から残る書物をすべて読破したことのある彼でさえも知りえなかった情報だ。というかこれはもはや神の領域だ。
アルフリードは、試しに自分の魔力を使ってみた。何も起こらない。
それもそのはずだ。
アルフリードにはこの時が止まった世界で、周りの物に干渉する力がないのだ。
花瓶を浮かそうと思っても花瓶の時は止まったままで、アルフリードの魔力はその時を動かすことはできない。
次にアルフリードは王宮中を見て回った。
誰一人として動いているものはいなかった。アルフリード自身を除いて・・・。
これは何かの呪いでこのまま一生、時が止まった世界に閉じ込められたままなのかと、焦りと恐怖がじわりとこみ上げてきたと思ったら、なんの合図もなしにまた突然、時が動き出した。
アルフリードは、生まれて初めて感じた恐怖にしばらく体を動かすことができなかった。
「一体・・・なんなんだ・・・!!」