サクラの願い
「うううううっーーー」
私は時を止めてから風呂場に篭っていた。
何故時を止めたかと言うと、暫く邪魔されずに独りになりたかったからだ。
もちろん服を着てから、その贅沢な重い扉の前に座り込んで膝を抱えていじけていた。
よりによってあの二人に裸を見られてしまった。ユーリス様なんかもう2回目だ!!
私が風呂に入っているのを知っていたくせに、躊躇せずに扉を開けた!!
篭城している扉の向こうで、アルフリードとユーリス様が焦っているのが分かる。どれだけ謝られても暫くは、乙女の純情を踏みにじった行為に対して反省してもらわなくては割に合わない。
「サクラ!!すみません。でも私は君の元気な姿を見るまでは、安心できなかったのです。最後に見た君は、血だらけで息をするのも辛そうだったから・・・」
その光景をまた思い出したのだろう、声が詰まって言葉にならなくなったらしい。
確かにあの時は黄泉の国に一番近かったような気がする。あんなに血を吐いたのも初めてだったし・・・。
いまさら思い出して身震いをした。
「サクラ。ここを開けろ。オレは見てないから。心配するな」
アルのものすごく嘘臭い棒読みの台詞が、ことさらに私を追い詰める。
みなかった事にしたいくらい、私の裸が気持ち悪かったんだ。
「お二人とも黙ってください。時間はいくらでもありますから暫くほうって置いてください」
いじけすぎて小さくなった声で呟く。
どのくらいそんな問答を続けていたのか分からなくなった頃、お二人が突然何も話さなくなった。
あれ?どうしたんだろう?
アイシス様の美容魔法で、夜会の時のままの長い黒髪を指でくるくるもて遊びながら考える。
もしかして、もう私のことなんかどうでも良くなっちゃって、二人して何処かに行ってしまったのだろうか?
そういえばあの戦闘の時、鏡を見る暇なんて無かったから知らなかっただけで、ものすごい姿を二人に見せてしまったんじゃないだろうか?
そんな訳の分からない考えに、突然頭の中が一杯に支配される。
きっとセイアレスの血と、私自身の血で口元は真っ赤だったろうし、突き飛ばされて頭も打っていたから頭だって血だらけであったとしてもおかしくない。右頬はぶたれたから腫れ上がっていただろうし・・・・
うわっ!!こりゃトラウマもんだよ。私の裸より強烈に記憶に残っちゃうよね。夜中突然思い出して、トイレに行けなくなるレベルだわ・・・これ・・・。
私はゆっくり立ち上がると、背後にあった扉にのノブにそうっと手をかけた。扉がゆっくりと開かれる。
あれ?誰もいない!!やっぱり何処かに行っちゃたんだ!!
私はパニックになって叫んだ。
「わぁーん!!アル!ユーリス様ごめんなさい!まさか私あの時あんな強烈なお化けみたいな顔をしていたなんて、思っても見なかったの!!あの血にまみれて腫れあがった顔は忘れてください!!この世界には忘却魔法はないんですか?!!」
叫びながら扉を全開にすると、その扉の陰に唖然とした顔のお二人の姿を見つけた。
良かったと安堵した途端に、ユーリス様の怒ったような声が聞こえた。
「馬鹿ですか?!君は!あの時の君を見て心配して胸が潰れそうな思いをしたことはあっても、お化けだなんて思ったことはありませんよ!!」
アルもむすっとした表情で言う。
「お前の顔を見た時は、すまないという気持ちと守らなければと言う気持ちしかなかった」
うん。ありがとう。
「でも・・・裸は見ちゃったよね・・・?」
「「・・・・・・・!!!!」」
肯定と言う名の沈黙が流れる。
アルフリードが重い口を開いた。
「忘却魔法は・・・すまないができない・・・」
そんなことだろうと思ってました・・・。
やさぐれた気持ちになっていると、ユーリス様が血相を変えて言い出した。
「良かったら私の裸を見てくださっても結構ですよ!それでおあいこにしましょう!!2回見てしまいましたから、2回見てくださって結構です」
良い事いったなぁって顔をして嬉々とした笑顔でおっしゃいました。
アルがものすごい表情になっている。無表情が張りついて超無表情になっている。
「・・・・2回・・・見たのか?」
そっちですかぁーーー!
もう私はこの話題を続けるのは精神的にも体力的にも無理だと悟って、話題を変える事にした。
「あ・・・、そういえば。私たちが無事だってことは、エルドレッド王子もセイアレスさんも、それにおそらく王城でいて時が止まったまま、戦闘の爆発に巻き込まれてお亡くなりになったであろう方々もぴんぴんしているって事ですよね」
エルドレッド王子の死に顔を思い出して少し背筋がひやっとした。でも、突然あることを思い出して焦った。
「そういえば、あの聖女の書物。今どこにあるのでしょうか?」
そうだ時間が戻ったということは、まだセイアレスが持っているということではないか!
焦った様子の私を見ながら、ユーリス様がいつもの溺愛マックススマイルでこうおっしゃった。
「大丈夫です。サクラが指輪を外す前にちゃんと私がこの手に持っていましたから、ほらここにありますよ」と懐から出して見せてくれた。
懐かしの日本語だぁーー。
私は反射的に本を取ろうとした手を、突然引っ込めた。その不自然な動きにアルとユーリス様が不思議そうに私を見つめる。
「わたし・・・あまり聖女の能力のこと知りたくないんです。私が聖女だって事もまだ信じられないくらいなのに・・・この能力はあまりに人知を超えているといいますか・・・もし知ってしまったら何かあった時に、私この能力を使ってしまうと思うんです。それが神の領域の力であっても・・・」
過去に戻れる能力なんて、時を止める能力を上回るチート能力だ。この書物にはもっとたくさんの項目があった。私の力は余りにも大きすぎる。この世界の常識を覆すほどに・・・。
アルとユーリス様が真剣な顔で、私の言うことを聞いてくれている。
これは私のわがままかもしれないけど、聖女の能力を阻止できる宝飾を持っている二人にだから聞いて欲しい。
私は決意を元に顔を上げて、宣言した。
「私、クラマとしてこの世界で生きていきたい」




