国王陛下との面談
贅を尽くして豪勢に飾られた部屋の真ん中に、その遠くない未来にその命を尽きそうな肉体を横たえて、ウェースプ王国の国王がいる。
その脇の部屋に何人かの魔術医師が控えている。アルフリードは人除けをし、かつ魔法結界をはってから国王を見舞った。
国王陛下は5年前に正体不明の病気を患い、高名な魔術医師の治療もかいなく、日を負うごとに目に見えて衰えていった。
「父上。このたびのイワノフの奇跡はお聞きになりましたか?」
国王はアルフリードの声を聞いて、重そうな瞼をゆっくりと開いてから、力なく頷いた。
「それではこの腕輪の意味も、知っているのですね」
もう一度同じように頷く。
「私は私の聖女を見つけました。とても聡明で慈悲深い女性です。聖女と王家に伝わるこの3つの物に何か意味はあるのでしょうか?何でもいいのです。教えてください」
エルドレッドのいう聖女とは違う、といった意味を暗にこめていった。父上なら理解してくれるだろう。今なら分かる。
エルドレッドが聖女を手に入れたと聞いて、父上はとても心配していた。このままではエルドレッドが王になってしまうことへの懸念だったに違いない。
父上がネックレスをしているということは、時が止まったときに父上も違和感を感じていたに違いない。
たとえ一日の殆どをベットの上で過ごしていたとしても、きっと分かったのだろう。
「わたしも良くは知らないのだ・・・。最後の聖女召喚は150年前のことだ。その頃からこの3種の宝飾は代々王家に受け継がれてきた。直系の王族のみに渡せとわたしも父からいただいた。だからお前達にへと渡した・・・。聖女が召喚されてから時々、時が止まることに気がついた。お前もだろう、アルフリード」
「はい」
「・・・これが聖女の能力なのだな。生きているうちに体験できるなどとは思わなかった。
アルフリードわたしが父から伝え聞いたのは、この3種の宝飾が聖女の能力そのものだということと、どこかにそれを記した書物があるということだ。父もわたしも探しては見たが、それらしいものは見つからなかった」
「そうですか」
「すまない。役に立てそうもない」
弱々しく小さな声で話す、かつての精悍な姿の片鱗も見出せない、大国の国王とはいえ今はただの老人に、アルフリードは悲しみに眉根を寄せ、その手の甲に口付けながら言った。
「お話いただきありがとうございます。父上。私の結婚式までは決して死なないでください」
ふっと緩やかな笑みをもらして、国王がいう。
「女嫌いのお前が・・か・・・。聖女はよほどいい女なのだな・・・」
その質問にはアルフリードは答えず、そのかわりにこやかに微笑んだ。




