大魔獣 2体現る
音楽は中止され、ダンスを踊っている人は誰もいなかった。人々は皆一様に動揺して不安そうな顔で、何かを話している。
アイシス様とキアヌス様が私達を探していたようで、目が会うとすぐに駆け寄ってきた。
「なにがあった、キアヌス」
ユーリス様が溺愛モード一転して、威厳のある隊長モードに戻っている。
「はい。ユリデア領イワノフ町の辺りに今夜5刻ごろ魔獣が5体出現し、2番隊隊長と7番隊副隊長、ならびに騎士20名が討伐隊を編成して事に当ったことはご存知でしょうが、その後大魔獣2体が現れ討伐隊は全滅したとの報告が入ってきました」
夜会に参加していた騎士様の家族にすぐさま訃報が入り、夜会は悲しみと恐怖に包まれたようだ。
大魔獣って・・・魔法関連の本を読み漁っていたときに、書いてあった。大魔獣の出現が確認されるのは10年に1度あるかないかで、出現すると災害レベルで町は荒れる。
2体同時の出現なんて、本を読んで得た知識の限りでは、初めてなのではないだろうか。
さあっと青ざめる。
アイシス様が私の様子に気がついたようで、そっと私の肩に手を添える。
しばらく沈黙していたユーリス様が、口を開いた。
「私にも今、緊急招集が入ってきた。大魔獣の討伐にでる。1番隊と12番隊との合同部隊だ。キアヌス、5番隊からはお前とヒューゴ、バルキリを連れて行く。急いで用意をして、転送門にむかうぞ」
「了解しました。隊長」
キアヌス様が騎士の敬礼をしながら、緊張の面持ちで返事をする。
一瞬、肩をつかんでいたアイシス様の手に、力がこもる。
ユーリス様が私を振り返り、緊張がいまだ残るが優しい笑みをうかべていった。
「セシリア。私の愛しい人。先ほどは君の気持ちも確かめずに失礼をしました。今から討伐にでます。必ず生きて帰ってきますので、そのときには君の気持ちを聞かせて下さい。私は君が誰であれ、愛しています」
なんだかこれ死亡フラグたったひとの台詞じゃない?死を覚悟しているって事なの?隊長レベルの人が二人も死んじゃったんだよ?
ユーリス様も、今までに見たことがないくらい緊張している。
声もでなくて黙り込んでいる私を、名残惜しそうに見つめた後、振り切るようにきびすを返して去っていこうとするユーリス様を、いてもたってもいられなくなって呼び止めた。
「お待ちください。ユーリス様!」
ユーリス様は、もう一度振り返って愛おしそうに私を見た後、何も言わずに行ってしまった。
後を追いかけようとしたのだけど、アイシス様に力ずくでとめられた。
「行かなきゃ・・・。私、一緒に行けば・・・助けられるかも」
時を止めるチート能力は、盗みと人殺しにかけては群を抜いて最強能力だ。
そう、大魔獣だろうが敵ではないだろう。魔獣といえども殺すのは少し怖い。だけど馴染みの騎士様達の命と、そしてなによりユーリス様の命がかかっている。
役に立たないと思っていたチート能力で、人の命が助けられるとするならば、私は何を失おうとも構わない。
思い立った私は、アイシス様に土下座する勢いで頼み込んだ。
「お願い。私をイワノフ町にいかせてください」




