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久しぶりにアルに会う

私が休養していたのは丸15日間。アイシス様の治療魔法で、打ち身ももう目立たない色になるまで回復した。


なので久しぶりにアルに会いたくなったので、図書館に行くことにした。復職は一週間後との事なので、時間はいっぱいある。

それに今日は私がお膳立てした、ユーリス様とアイシス様のデートの日だ。

自分の部屋でいるとなんだかもやもやするので、今日は一日出かけて気分転換したほうがいいと思った。


アルは心配していないだろうか、怪我のこと連絡したくても伝心許可もらってないからなあ。こんど会ったら許可もらえるか聞いてみよう。


この世界にも電話のようなシステムがあって、魔力のある者は伝心魔法で用件を伝えることができるらしい。

魔力の無いものは魔石に頼らなければいけないのでお金はかかるが、伝心許可さえもらっておけば、いつでも連絡可能だ。


ちなみにユーリス様とは、出会って直ぐに伝心許可をとらされた。魔力が無いので私から連絡をとりたいときは、伝心加工された魔石のある場所に行かなければならないが、ユーリス様は魔力を使って連絡取り放題だ。

一時期ストーカーのように脳に話しかけてきていたのを、頼み込んで辞めさせた。あの時はノイローゼ寸前だった。


事件後はものすごく高価な、伝心加工された魔石を無理やり押し付けられた。そうしないと落ち着いて寝られないというので、しぶしぶ受け取った。


その時、傍にいたアイシス様の目線が痛かったのを覚えている。


碁盤の目のように整列された本棚の隙間をくぐりながら、目的の人を探す。

今ここで出会える確率はかなり低いが、それでも彼の影を探して縦横無尽に左右を確認しながらゆっくりと歩いていく。

するとあっけなく彼を見つけた。



声をかけようと近づく私に、彼も気配を感じたようでこっちを向く。

お互いの目があったと思った瞬間、無表情の彼が更に無表情になった。

その様子は溢れ出る感情を悟らせまいと、意識して感情のコントロールをしているように感じた。

そんな様子にも構わず、彼の元に駆け寄る。


「アル!久しぶり。ごめんね。僕、仕事中に怪我をして、いままで休養していたんだ。今日は、僕が考案した滑車の設計図を披露するよ。これがあれば魔力無しで重いものも、簡単に持ち上げられる優れものだよ」


「・・・怪我は大丈夫なのか?」


あいかわらずのそっけない短い言葉と低いトーンの声に、たった2週間程しか会ってないだけなのに、懐かしさを感じた。


「心配してくれてありがとう。打ち身と擦り傷だけだったからお風呂が地獄の痛みだっただけで、大したことなかったよ」


普段ならアルと一緒に読書に没頭したり、中庭でたわいもない話をするのが通常だったけど、今日は久しぶりということもあって、どうしても彼と先に話がしたかった。


なので少し強引にアルの腕を取り、中庭に誘導する。

図書館の中で会話するのは、好ましくない。それよりも早く自慢の発明を聞かせたかった。

・・とは言っても自分で考えたわけではなく、物理で習ったことだけどね。


アルは呆然と腕を絡ませた部分を見つめ、その後、私の頭の先からつま先まで目線を移動させてから、無表情のまま呟く。


「まだ怪我の跡が残っているじゃないか」


「うん。まだ全快とはいかないけど、これでもかなり良くなったほうだよ。最初は目も当てられないくらいひどかったらしいし、左あごの部分がパンパンに腫れて、このまま腫れが引かないならお化け屋敷にでも就職しようかと思ったほどだよ」


私は自虐的な冗談をいって場を盛り上げようとしたが、なんだか逆効果だったらしい。重苦しい空気に、押しつぶされそうだ。


「ええーっと。おかげで、すごくグラマーで美人な医療班のお姉さんの下僕にもなれたし、お風呂も入り放題だったんで、すっごくリフレッシュできてよかったです!」



いつもお風呂は女の子とばれると困るので、なんやかんや理由をつけて入らなかったが、事情を知るアイシス様が、ご褒美に彼女の部屋についているお風呂を自由に使わせてくれた。

彼女はああ見えてかなり上級の医療魔法使いらしく、お風呂付の個室を与えられているのだ。


あ。それまでもちゃんと体を拭いてたりはしていたから、そんなにひどい状態にはなってなかったはず。誰もいない時を見計らって、たまに川で泳いだりもしてたしね。


「グラマーで美人なお姉さんの、下僕・・・!?」


ああー。そこに引っかかるんだぁ。

やっぱり男の人って、グラマーで美人なお姉さん好きだよなあ。

剣道部の男子どもが、こぞって美人のお姉さんと連呼していたことを思い出した。


「ああ。アルだめだよ。アイシス様はもう売約済み。こんどデートにも行くんだから、人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて死んじゃうよ」

と釘を刺しておく。

アイシス様にはユーリス様がいらっしゃるんだから、私の秘密の保持のためにも、二人の邪魔はさせない。

アルは貴族じゃないらしいから、アイシス様の目指す玉の輿にはならないし・・・・。あれ?


でも、もしかしたらアルって私の理想のタイプかも。

真面目で浮気しない実直な人。これで子沢山カモンなら、この町を出るときに是非とも一緒に来てもらいたい!!

そんなやましいことを考えながら、そっとアルの顔をのぞき見ると、予想に反して彼は怒っているように見えた。

しまった。やっぱりアルもグラマーで美人なお姉さんのほうが好きなんだ。

高揚していた気持ちが、急に絶望に変わっていく。


「あの・・。アルもやっぱりグラマーなきれいなお姉さんが好きなの?」


「・・・・」


返事は無い。沈黙が流れる。

怖くて顔を上げることはできなかったが、絡ませた腕をとおして彼がますます怒っているのを感じた。


「あ・・・あの。グラマーで美人なお姉さんが好みなら、アイシス様はだめだけど、僕がアイシス様に頼んでみるから、誰か紹介してもらおうか・・・?」


小さな声で、下を向いたままいう。


「お前は・・・そんなにアイシス様とやらがいいのか?」


アルが地の底から響くような声でいいながら、私の腕を痛いほど握った。



なんか、これ怒ってる!

絶対、怒ってる。 ヤバイ!

ここは一旦退散しよう!!



「緊急の用事を思い出したから、今日は帰る!さよなら!!」

私はアルに捕まれていた腕を無理やりといて、脱兎のごとく逃げ出した。


返事は待たなかった。



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