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元の世界に帰りたい

異世界に召喚されてからの1週間は怒涛のように過ぎた。

そこで学んだことは、この国はウェースプ王国という大国で、魔物や魔法が普通にある世界らしい。

かといって王国民全員が魔法を使えるわけでもなく、ごく一部のまれに魔力を持って生まれてくるものたちか、貴族の血を引くものだけが魔力を有しているらしい。

しかもその貴族階級のものたちでさえ、昨今では魔力を失いつつあるらしく、今回の聖女召喚が成功したのはまさに150年ぶりなのだ。


それも今世紀稀に見る、巨大な魔力を持って生まれた、大神官長のセイアレス抜きでは、召喚は成功しなかったであろう。



ゆいかと桜は現在、王城からかなり離れた神殿の豪華な一室で丁重にもてなされていた。


「うう~ぐす。ぐすぅ」


泣きじゃくっている私の目の前で、ゆいかは、そのか弱くいじらしい外見とは裏腹に、機嫌よさそうにソファーに座りながら微笑んでいた。

私はその傍に立ったまま、先程聞かされたショックな事実に頭の中がついていけない状態になっていた。

それというのも、つい先程セイアレスから、異世界に連れてこられて元の世界に戻れたものは誰一人としていないと聞かされたからだ。


「もう。泣き止みなさいよ。せっかくこの世界では、聖女っていわれてみんなに敬われてイケメンと一緒にいられるんだから、もっと喜ぶべきよ」


「だあーってぇぇーー、ううう」


「知ってた?聖女って国王と結婚するのが、慣わしらしいわよ。今の国王は病気でふせってるらしいから、その息子の王子様と結婚するのかな? あ~はやくお会いしたいわあ。第一王子ってすっごくイケメンで、優秀なひとなんだって。第二王子もいるらしいし、選べなかったらどうしようーーー 」


私はそんな能天気なことをいうゆいかちゃんを、信じられないものを見るような目で見ながら言った。

「イケメンなんてどうでもいい。そんなのおなかの足しにもならないじゃない。

私は元の世界に帰りたいの。うう~。お父さん、お母さん~~。イケメン100人つまれようが、元の世界に帰りたいよ・・・」


ゆいかちゃんが、あきれたように言い放つ。


「だ・か・ら・もう元の世界には帰れないって聞いたでしょ?それにイケメン100人って・・・、まあどれだけイケメンがいても全部あたしがもらうけどね。くすくす」



あ・・・。ゆいかちゃんて結構、肉食女子なのね。そうじゃなくても同じ聖女なのに、大神官長のセイアレスは、どう考えてもゆいかちゃんのほうを贔屓してる気がする。

まあ見かけでいえばゆいかちゃんが、聖女にぴったりの美少女だものね。


はあぁ・・・。


私は自分の姿が映った鏡を見て、大きく溜息をついた。

鏡の中には長くてストレートの黒髪に、陶磁器のような透ける白い肌、切れ長の眼には黒曜石のような黒くて落ち着いた瞳が輝いている。



桜はけっして美しくないわけではない。ただ西洋人形のような聖女にぴったりの外見でないだけで、それこそこれぞ日本美人といったしとやかな外見なのだ。

内面が残念なことに剣豪少女なだけで・・・。


「あ~早くセイアレス来ないかしら。今日は魔力の検査をするんですってよ。でも魔力があっても魔獣なんか倒したくないわ。わたし獣とか森とか、きらいなのよねえ。ぞっとするわ」


ゆいかちゃんは豪華なふかふかのソファーに身を投げて、右手にこの世界のお菓子を持ち、食べながらいう。

その台詞に希望の光を見た私は突然叫んだ。


「あっ!!そうか。魔力で魔獣討伐とかするんだ。それなら私にぴったりかも。よし。どうせ帰れないなら聖女としてこの世界で、チート魔法を駆使して世界一の聖剣士になるのもいいかもしれない!!」


意外と私は立ち直りが早かった。それも常々、倉島流剣道師範代の祖父が、私に言っていたことが体に染み付いているからに違いない。


「桜。わが流派の真髄は、世己真贋。つまり世は己のためにあるわけではない。自分で世で生きる意味を見つけることこそが目的なのだ。自分に配られた手札を使って、己が何になれるかを考えろ。そうすればおのずと正解は見えてくる」


・・・・・おじいちゃん。私もう皆に会えないかもしれないけど、この世界で頑張るからね。倉島流剣術と魔術を使って、この世界の人々を守る。これが私がこの世界ですべきことなのよね。



そのいじましい決意は、一時間後、あっさりと覆されることになる。


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