クラマ 下僕になる
ユーリス様のふかふかの上質なベットで、久しぶりに心地のよい長時間の眠りを堪能した私は、起きてびっくりした。
もうお昼刻だった。
ひゃー。寝すぎちゃった。
傍のテーブルを見ると、朝ごはんらしきものが冷たくなっていた。
盛大な溜息をつき、早速自分の体をチェックする。青あざが昨晩よりもその色を濃くして、体中に散らばっている。
怪我の痛みに少し声が出たが、なんとかベットから抜け出すことに成功した。
そのとたん、扉がノックされたかと思うと返事も待たずに勢いよく開かれた。
そこにいたのは、腰まで伸びる柔らかなカーブをえがいた金髪をなびかせ、その豊満な肉体を強調する、体にぴったりなワンピースをまとい、その上に、申し訳程度に彼女が騎士団直属医療班であることを証明するボレロを羽織っているものすごく壮絶な美人だった。
「起きたんでしょう?具合はどうかしら?」
高飛車にまくしたてる。
「は・・・はい。まだ体中が痛みますが、なんとか動けそうです。あなたが僕の手当てをしてくれた医療班の方ですか?御礼が遅くなり申し訳ありませんが、ありがとうございました」
こういうタイプには、ひたすら低姿勢で対応するのが一番なんだよねえ。
「アイシス。わたくしの名前はアイシスよ。アイシス様って呼びなさい」
うひょー。これって何プレイですか?!!SMプレイですか!!鞭とろうそくプリーズ!!
と心の中で叫んでみる。
「あなた私の下僕になりなさい!」
下僕宣言キタよ!!!本気でそういうイっちゃった趣味なのか!そうなのか!?
あまりの突然の展開に、頭が飽和状態を起こしかけていた私は、次の言葉が見つからず固まっていたら、アイシス様が突然、至近距離に近づいてきた。
私の鼻先3センチ先に、彼女の唇がある。ショタコンかつ女王様系な人なんだろうか。
意外と冷静に考えていた私は、アイシス様の次の台詞に、身を凍らせた。
「あなた。男のふりをしているけど女の子でしょう。わたくしがごまかされるとでも思ったの?どういった理由で男装しているのかは分からないけど、ばらされたくなければ私の言うことを聞きなさい」
体中の血が下がっていくのが分かる。・・・バレタ・・・。
そりゃそうだよね。医療のエキスパートが、さらし程度で性別をごまかしきれるわけないよね。
「わたくしの生涯唯一無二の目的。それは玉の輿!」
女王様がドヤ顔で言い切りました。
「だからどんな手段を使ってでも騎士団直属の医療班の一員になったというのに、騎士様にはなかなか接触できないし。それに騎士様って殆どが既婚者か婚約者もちで、ユーリス様はその中でも数少ないフリーの騎士様なの。
わたくしの恋路を応援してくれるなら、黙っていてあげてもいいわよ。あなた騎士様達に好かれてるようだし、仕事柄一番接触する機会が多いでしょう?」
と、さらっとおっしゃった。
ん?ってことは、私にユーリス様との間を取り持って欲しいって事ですか?
そんなことで、泣く泣く貯金を持って遠い町にとんずら作戦、を決行しなくてもいいの?
私は歓喜に打ち震えた。こうなりゃユーリス様には悪いけど、全力でユーリス様を包装紙で包みリボンでラッピングして、アイシス様に捧げましょう。
ええ、私の夢が最優先事項です。そのための犠牲は惜しみません。
異世界に勝手に召喚されて、ポイ捨てされたんだから、そのくらいのことは許されるはずです。はい・・そうです。
「アイリス様!!僕はあなたの下僕です。必ずやユーリス様をあなたのとりこにして見せますので、どうかこのことはご内密に。未来永劫、墓場までお持ちください。」
堂々たる鬼畜宣言であった。
私の今の持ち札。 チート能力。 少年の容姿。 住む家と仕事。 下僕の地位。