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アルとの出会い

そのまま隣の人物を見るために、顔を向ける。


そこには私にとっては懐かしい黒い髪と黒い眼をした、目つきの悪い男が立っていた。

身長差のためかなり見上げる感じになる。

少しよれて薄汚れたシャツに、泥汚れのついたズボンをはいている。労働帰りなのかなと、ふと思う。

長い前髪であまり顔は分からないが、かなり整っている顔なのは間違いない。

この国イケメン率高いなあ。眼福。眼福。


それにしても、こんなお兄さんが少女チックなファンタジーを読むなんて、意外と中身おねえだったりして。それはそれで、萌えポイントかも。


頭の中で不謹慎な想像をしていた途中で、男が口を開いた。


「この本、読みたいのか?」


男が無表情で、言う。


「あ、はい」


「お前、最近頻繁にここに来ているな。いつも魔術の本を読んでいたろう」


お互い本から手を離さないまま、会話は続く。


「魔術の能力について興味がありまして。お兄さんはこの本、妹さんにでも頼まれたんですか?」


「何の能力だ?」


私の質問を無視して、聞いてきた。


「時を止める能力です」


「・・・・!!」


突然緊張が走った。一瞬その黒い目が驚きで開かれたが、すぐ取り直して冷静な声で言い放った。


「そんなものは存在しない。時間は干渉不可能だ。夢物語は別だがな」


男の嘲るような含んだ言い方に、ムッときたのを何とか抑えながら言った。


「それはもう、ここの本を読みつくして十分知っています。でも、もし存在するとすれば魔力や神力とは違うところにあるのでしょうか?」


「見たことでもあるような、言い方だな。まるで存在すると確信しているように聞こえる。」


誘導尋問のような彼の口調に、思わず言葉を飲み込む。

でも彼の服装もさながら、そのそっけない乱暴な話し方に、すぐに警戒を解いた。



この人が神官と関わりがあるとは、まったくもって思わない。子供をからかってるだけなんだ。


「見たことは無いよ。だけどもしそんなことができたら、何をしようかなと興味があっただけなんだ。その本は譲るよ。僕はまた今度読むから」


本から指を引いて、彼にその本を譲る動作をしてその場を離れた。





そろそろお昼の時間だ。用意してきたパンを小脇に抱えて、飲食可能な中庭エリアに移動する。

紫と黄色の、見たことも無い形をした花が咲き乱れる中、奥にあるすわり心地のよさそうなベンチに腰をおろす。

すると突然さっきの彼が現れ、私の隣にすかさず座った。


「何かまだ用ですか?僕いまから昼ごはんを食べようとしているんだけど」

いぶかしんだ目でお兄さんを見つめる。


「アルだ。お前の名は?」


私の冷え切った目線などものともせずに、乱暴に名前を聞いてきた。


「・・・」


何が目的かわからないので、とにかくだんまりを決め込む。

そんな私をよそにアルと名乗った彼は話を続けた。


「時が止められるなら、お前はなにをしたい?」


「・・・・特に何も・・・」



時が止められることが分かってから、私がその力を使ってやってきたことといえば、身元調査の書類に細工をしたりと、ほんの些細なことばかりだ。

今ではほとんど使う理由が無いので、何週間もつかってない。


大体、時を止める能力でできることといえば、ほとんどが犯罪まがいの、窃盗か殺人だ。

生活魔法が使える魔力のほうがよかったと何度思ったことか。


「何も?だと。時を止められれば、一国を落とすことも簡単だ。王様になりたいと思わないのか?魔石でも金でも何でも好きなだけ手に入る」


「いらない。権利には責任がついてくる。僕には国の頂点に立って、人々を幸せに導くような能力はない。それに人のものを盗んでまで贅沢したいとは、思わないんだ。そこに僕の幸せは無い。お兄さんなら、何をしたい?」


逆に質問を返した。ほかの人の意見に興味があった。


「お兄さんじゃなくてアルだ。そうだな、魔獣退治にはすごく有効だろう」


「ぷぷ。それって、やってる本人にとってはすっごく地味な作業だと思うよ。だって時間が止まったままの世界で、一人で孤独に魔獣を探しては狩っていくんだよ。だれも見ていてくれないし、広大な森の中で迷っても誰も助けてくれない。僕だったら一日で嫌になると思う」


頭の中で想像したら、笑いがこみ上げてきた。

アルも同じだったらしく無表情な顔の口角が微妙に上がった。



笑ったーー!!



なんだか人にはなつかない珍しい猛獣を、手なずけたような高揚感にひたる。


「アル。僕、クラマっていうんだ。騎士訓練場で雑用係をやってる。アルはどんな仕事をしているの?」


「オレは、馬の世話係だ」


それからお昼のパンを分け合って食べた。アルはいらないと固辞していたが、そこを無理やり食べさせる。


アルは一言で言うと、とっても面白い人だった。

無表情の中にも微妙に感情が出ていて、それを見たいがために、必死になって話題を探した。


「ここの人たちは魔石に頼りすぎだよね。もし魔石が枯渇したらどう生活するつもりなんだろう。たくさんの有識者が魔石の使いすぎに警告を出してるのに、みんな目先の便利さに目がくらんでる。もう少し魔石や魔力に頼らないですむような暮らしを、考えてみればいいんだ」


「それは面白い着眼点だな。普通のやつは、魔石がどうやってできるのかを調べて、それを人工的に増やす方法が無いかと考えてる。お前の考え方は変わっているが、面白い」


「あーすごいね。アルがいうとなんか褒められた気が全然しないよ」


ぷうっ。と頬を膨らます。


そんなどうでもいい話をしていると帰らなければいけない時間になったので、もっと話していたかったのだが、別れた。



その後アルとは、たまに図書館で顔を合わせたときに一緒にお弁当を食べ、話をする仲になった。

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