重鎮会議
アルフリードは現在執務室の奥にある小部屋で、騎士団総長のクラウス・ルイス・ダイクレール、宰相のリュースイ・ダン・ボロヌイエールと、王太子付き補佐官のルーク・ジャン・ドレーラル に囲まれて重大な案件について話し合っていた。
この部屋は強力な魔力が施されていて、完全に孤立した空間になっている。
なので国の進退にかかわるような重大な案件などは、この部屋で秘密裏に話し合いが行われる。
ウェースプ王国ほどの大きさになると、国も一枚岩ではない。
騎士団と宰相を後ろ盾にもつ第一王子のアルフリード派と、魔術省と大神官を後ろ盾にもつ第二王子のエルドレッド派に大きく二分していた。
しかし魔力、武力、知力ともに莫大な能力をもつアルフリード派が常に優勢であった。
議題はもちろん、時が止まったことだ。
宰相が一番に口火を切った。
「情報部からあがってきた報告では、諸外国にもおかしな動きはありませんでしたし、国内でも聖女召喚に関してしか妙な噂は聞き及んでいません。魔石の大量輸送や大量消費なども把握していませんし、時を止めるなどといった技など、長くこの国で宰相をしております私めでも、聞いたことがございません」
この大国を支え続けて30年以上。
国の最高峰の情報部の頂点に立ち、切れ者と名高い宰相に言わしめても、時を止めるなどという荒唐無稽な力は、存在し得ないという結論だった。
「うん。だが実際私はこの身で体感したんだ。しかもまだそれはまだ突然やってくる」
「また起こったのでしょうか?」
ルーク補佐官が心配そうに尋ねる。
「アルフリード様。もし何者かが何らかの意図を持って時を止めているというならば、その者の目的は何なのでしょうか?」
「クラウス。それだ。目的がさっぱり分からん。今朝などは一刻ほども時が止まっていたが、何も起こらなかった。それどころか動いているものなど誰もいなかった。それに王都中を探索魔法にかけてみたが、魔力は感知できなかった」
アルフリードは、苛立ちを隠そうともせず言い放った。
時が突然止まる。
しかもいつ動き始めるか予測すらつかない。
もしかしたら永遠に動き出さないかもしれないという恐怖は、強固な肉体と精神を持った彼にさえも恐怖を与えるには十分すぎるほどだった。
「聖女の力という可能性は、ないのでしょうか?」
宰相が神妙な面持ちでいう。
「リュースイ様、その線は薄そうです。もし聖女の力だというならば、第二王子はかならず殿下の命を狙ってくることでしょう」
ルークが宰相に答える。
「時を止める・・・・ですか。もしそんなことができる者が存在するとしましたら、世界はその者に絶対支配されるでしょう。時を止めている間に、王の首を落としたり金や魔石を盗んだりすることはいとも簡単でありましょうから。
しかし現在、何の痕跡も無く殺害されたり、金品が盗まれたという事件は起こっておりません。その力を持つ者は、一体何を考えているのでしょうか?」
宰相が、皆が思っている一番の疑問点を語った。
そうなのだ、時を止める能力はチート能力のなかでも群を向いてチートなのだ。
最強の軍人だろうが時が止まれば、その辺の赤子と何のかわりも無い。簡単にその首を落とせる。
世界中の富を集めることだって、簡単に成せてしまうのだ。
「一体何者なのだ。何が目的なんだ」
国一番の頭脳と情報を持つ4人が一堂に会しても、真実にはたどり着けなかった。
聖女に間違われて、異世界に召喚され捨てられた少女が能力の持ち主で、その目的は異世界での普通の暮らし。
なんてことは、誰も想像だにしなかったに違いない。