2突然不意に出会い
「目が、目がぁぁぁぁぁ」
「グレイ様大袈裟です」
僕の玄関先の渾身のアピールも虚しく、アリアに背中を押されて2週間ぶりの大地を踏みしめる。
良い香りだ。
春風が自室に運ぶ花々の香りより直に嗅ぐ分濃く感じる。地面の土の香りと合わさって心地よい協奏曲を奏でているようだ。
「菜の花の方に行ってみましょうよ」
アリアの提案に従い、玄関から外に向かって右側の花畑に向かった。
ヒイラギに似た常緑樹で区画化された庭園は軽く迷路と化しているのだが、アリアは迷うことなく進んでいく。
「うちの庭、凄く広いよね」
「それはそうでしょう。なんといっても公爵家のお庭ですからね!」
「手入れとか大変そうだ」
「それは大変ですよ。お庭は権威の象徴のようなものですから、手は抜けません。サイモン様は専門の庭師をたくさん雇っていらっしゃいます」
世間話に興じていると、お目当ての菜の花畑が見えてきた。
「わぁ、綺麗だね」
「遍く咲いていますね。幻想的です!」
外出は嫌いでも、美しいものは美しい。
自室の窓辺から見下ろす庭園とはまた違った景色がそこには広がっていた。
つい興奮して、菜の花を1本摘み、鼻に近づけて嗅いでしまった。
――は、は、はくしょん!!!
「あらら。花粉でくしゃみをしてしまったようですね」
「あー。まだ鼻がムズムズするよ」
「一度に大量に吸い込んでしまうと危ないですよ。花粉症には気をつけましょうね」
――そうだ、花粉症だ!!
「アリア、もしかしたら僕は花粉症なのかもしれない。目まで痒くなってきたよ」
「まぁ、それは大変です!!」
「これは家の中に戻った方が良いね。急いで花粉を洗い流さないと」
「ご安心ください。魔法で治癒しますね」
「えっ」
アリアは徐ろに僕の顔の前に手をかざす。
半透明の光がアリアの手から発せられた。
「これ何?どうするつもり??」
「これは治癒魔法の一種です。魔力が直接流し込まれると免疫力が高まると言われています。軽度の症状であれば緩和できるはずです!!」
「違う、そうじゃなくて……。あぁぁぁぁ!!目が、目がぁぁぁぁぁ!!!」
「グレイ様大丈夫ですか?!まさか、既に花粉症が重症化していたのですか??一回直に花粉を吸い込んだだけで……。なんという虚弱体質」
「さりげなく毒吐かないで!!違う違う。アリアは勘違いしているんだよ」
「勘違いですか?」
僕の必至の主張にアリアは首を傾げる。
「花粉症は、花粉に対して過敏に免疫力が働くことで起こるんだよ。だから、魔力を流し込んで免疫力を高めることは逆効果なんだ!!」
「そうなんですか?知りませんでした。流石グレイ様です。勉強になりました」
「ちょっとは反省してよ。本当に花粉症になっちゃったかもしれないじゃないか」
「あれ?ということはさっきの花粉症なのかもしれないというグレイ様の発言は嘘ということですか??」
「あ、しまった……」
ついボロがでてしまった。アリアの目がどんどんつり上がっていく……。
「魔力による免疫力の上昇は一時的なものですからご安心ください。それより嘘をつくとはいけないと思いますが」
笑顔が引きつってるぞ!!
アリアの手から魔力が溢れ始める。グレイの第六感は危険を感知した。
「と、とりあえず、目の花粉を洗い流してくるよ」
急いで家に向かって走り始めるが時既に遅し。頭上から大量の水が落ちてきた。
「無駄な足掻きはよしてください!『水の滝』」
「負けてたまるか!『魔法障壁』」
よし、防いだ。
咄嗟の魔法障壁が発動し、グレイは間一髪びしょ濡れを回避した。
しかし、その刹那、グレイとは別の甲高い悲鳴が上がった。
「キャー!!」
「だ、誰??」
悲鳴の上がった方を振り向くと、そこには庭を区画化する常緑樹の下から這い出ようとしたのか一人のびしょ濡れの少女が横たわっていた。
この時僕は初めて、同年代の女の子に出会った。