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ゴブリンを飲み込み、トカゲはチロチロ舌を出しながらこっちを見た。僕はハンドガンを構えながら逃げ道がないか探っていた。トカゲの食事中に確認したが、後方の入ってきた扉は入った時点で閉じてしまい開かなくなっていた。
「異常事態をあっちは見ているだろうから、時間稼ぎをしていればいいか?」
『緊急コードを発信してあちらも受け取っているのでそのうち来ます』
「そうか」
トカゲはその巨体をもて余しているのかそれほど早くない歩みでこちらに近づいてくる。その顔に向かって魔力弾を撃ち込んでみる。
「ダメだな。通じない」
だが、トカゲに不快感を与えることには成功したようだ。その歩みが少しだけ早まった。それでも執拗に魔力弾を撃ち込む。
「ギジャァァァ」
大口を開けて迫るトカゲから逃げて反対の壁まで走る。そこでまたトカゲに魔力弾を撃ち込み続ける。
トカゲは向きを変えるのが遅く、ゆっくりと向きを変えてまたこっちに来る。そしてこっちに来る途中で足元から上がる火花が足を傷つける。
「あんまり……ぜんぜん効いていないな」
少し焦げた足で平気そうに歩くトカゲを見て呟いた。壁まで走る時にいくつかの癇癪玉大の炸裂玉を落としていたが、通じなかった事の確認ができた。威力としてはゴブリンの片足を吹っ飛ばす威力がある。それを踏んで歩いてくる姿を見て呆れ返る。
倒すことは早々に諦めて逃げに徹する。生きていれば何とかなる。親父の口癖が思い浮かんだ。
「……くそ親父」
悪態を吐いて、今度は逃げ回りながらトカゲの身体中に魔力弾を撃ち込んでいく。ほぼどこも変わらない。
「属性弾、火」
『魔力を切り替えます』
ハンドガンの魔石が熱を持つ。そして吸いとった魔力を弾に変える。
「これはどうだ?」
銃口から赤い光を帯びた弾丸が打ち出され、トカゲに当たると炎に変わり弾ける。だがそれにはトカゲは反応せずに向かってくる。僕は水、土、風と属性弾を変えて撃ち込んでいく。
『どれも反応なし。っていうか威力が単純に足りないわ』
やっぱりか。既製品のハンドガンじゃ魔力量の多い魔物には通じないと授業でも言っていた。
「なら、威力を上げるか」
ハンドガンをスクラップに送る気があるならとその教師が言っていた裏技を実行する。
「ララン、回収した魔力を直接繋げろ」
『ちょっと!そんなことしても……』
「早くしろ!」
スマホからハンドガンに見えないパイプが結ばれた。だがハンドガンは一定量の魔力を流せないようにプロテクトされている。
そのプロテクトから僕の魔力を吸い出す。プロテクトが沈黙する一瞬でハンドガンが発光するほどのエネルギーが溜め込まれる。握っている手が熱い!
熱さに耐えてトカゲに銃口を向ける。異常を感じてトカゲが体をよじり銃口から逃れようとする。
「遅い!」
引き金を引くと銃口から弾になりきれないエネルギーがレーザーのように打ち出される。それはトカゲの首筋から入り、体を通りすぎて横腹から抜ける。
「ギジャッ!ギジャァァァーー」
悲鳴を上げて身をよじるトカゲの側から離れハンドガンを見る。銃口がクラッカーを使用した後のように広がっている。内部の方もイカれているらしく魔力の吸い上げもない。
赤い血を流してのたうち回り襲ってくる様子のないトカゲを見ていると、
「静樹ちゃん無事!」
扉が開き、深夏と銃を持った複数の男達が入ってくる。
『助かったわ! ダーリン』
ダーリン言うな! 気が抜けて座り込みそうになる僕の目の前でトカゲは蜂の巣にされて絶命した。