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読んで下さる方に感謝!

 空気が変わった。鋭い冷たい風に全身を切りつけられたような、冷水を頭からぶっかけられたような異様な雰囲気に息苦しくなる。


 天八さんはそんな空気の中で自分達が乗ってきたタクシーの後ろを向いて平気な顔で立っている。


「ふーむ? やはり魔素に耐性のない一般人ではこうなってしまうのか。……やはりこの薬品は失敗だったのかな?」

「おい、迷宮かぶれの錬金術師。まだ生きていやがったか」


 天八さんが見ていた方から小柄な老人が姿を現した。頭からすっぽりとローブを被り顔は見えないが天八さんの言葉としゃがれた声とローブから出ているしわくちゃの手を見てそう判断した。


「天八家の譲ちゃんか。君だけは実験の成功例として日頃から観察させてもらっているよ」

「ストーカーかよクソジジイ。それでこいつも同じような実験に使ったのか?」

「譲ちゃんの時と違って大分弄っているんじゃが……うまくいかん」

「ほー、今も続けているんだな?」


 そう言った瞬間、殺意が迸る。握りしめた拳がギシリと軋む音を発てた。


「お前のせいで仲間がほとんど死んだ。その事は覚えているだろ?」

「あれは失敗だった。魔素溜まりの中で更に魔素を吸収しやすい薬品を散布したために探索団全員がヒューマン・ゴブリンになって喰らい合うとは……譲ちゃんが生き残ったのは奇跡。正気を取り戻して今も生きている。私の目指すものの成功例の1つだ」

「何が成功例だ! これが成功例だといのか!」


 天八さんの腕の筋肉が膨張していく! 腕だけじゃなく体全体が一回り大きくなりその肌の色が朱く染まる。


「おかげでこうならないように酒が手放せねえ!」


 高く飛び上がり、老人の上から叩き潰すように拳を振るう。叩きつけられた拳はアスファルトを破壊して飛び散らす。


「避けるな!」


 老人はタクシーの上に乗っていた。そこに横なぎの拳がとぶ。


「魔素を吸収して力が増してはいるが、そこまででしかないのう」


 すぐ後ろでで声がした。どうやって移動したのかわからないが老人の静かな声に恐怖した。老人の体から出ている妖気のようなもので身動きが出来ない。


「ほうほう。この子も探索者か連れて帰って実験に参加してもらおうかの」


 肩に干からびたような手を置かれた。そこから冷たいものが体内に流れ込んでくるような気がして、恐怖で気が狂いそうになった。


「ーーッと?」


 老人が離れる。背後にある気配が遠ざかりため息をついた。


「服に穴が開いてしもうた。そのハンドガンを忘れとったわ」


 男がヒューマン・ゴブリンになった時に落としていたハンドガンを拾っておいたのが良かった。気力を振り絞り、手首だけを返して老人の気配に向けて引き金を引いた。どこに当たったかわからないが窮地を脱した。そのせいで糸が切れた人形のように体が崩れ落ちる。


「よくやった!」


 タクシーから跳んできた天八さんの声にホッとする。


「そのままじっとしてろよ!」


 その声に顔を向けるとタクシーを振り上げてぶん投げる天八さんの姿が見えた。声にならない悲鳴を上げて頭を抱えて踞る。頭の上を高速で巨大な質量が通りすぎるのを感じて身を更に縮めた。車が壁に衝突したような音がして恐る恐る顔を上げると半解したタクシーの残骸が見えた。あの不気味な爺さん潰れちゃった?


「ちっ! 逃げられたか」


 あんな不気味な爺さんそう簡単には死なないらしい。


「次会ったら顔を蹴り潰して腹をかっさばいて内蔵引きずり出して心臓を燃やしてやる」


 爺さん、逃げてーー! 


「しかし、お前もよく動けたな。クソジジイの気に当てられて普通は泡拭いて失禁してるぞ。あのクソジジイ生きのいいのが好きだから、目を付けられたと思った方がいいぞ」


 え? そうなん? 爺さん天八さんに殺されたくなければ僕にも近づかないことだ。どうせなら迷宮の奥底で引き込もってほしい。現実逃避だよクソ! 明日からもっと気合い入れて強くならなきゃいけないな。


「酒、酒。度数高いの持ってこい!」


 天八さんが何処かに電話している。いつの間にかいなくなってた部下なんだろう。って言うかあの爺さん引きずり出すための囮に使われたっぽい?


「今日のギャラはちびっこに振り込んどくから分けて貰っとけよ」


 ちびっこ社長に売られてたらしい。よし、帰ったらあのよく延びる頬の新記録を作ってやろう!




「それで足取りはつかめたか?」

「途中で『体』を捨てていて逃げられました」

「あー、やっぱりそうだったか。用心深いからなジジイは」

「『体』は回収して解析班に回しました。やはりホムンクルスでしょうか」

「材料は人間の死体と魔物だ。魔物の方を調べれば何処に潜んでいるか解るはずだ」

「そっちの線で調べます。……わざと最後にばらしましたね」

「あのちゃらんぽらんな親の下で育ったんだ。それぐらい悟ってたるだろ」

「言いたいことはわかりますが……でも流石ですね『体』に穴開けてましたよ、あのハンドガンで」

「才能はあるし努力も惜しまない逸材だ。部下にほしいな」

「西崎さんに嫌われますよ」

「……それは困る。将来、結婚して子供20人位作って老後を暮らす予定なんだ」

「相手の了承も何も無いのが悔やまれますが……」

「あの才能を伸ばす力になりたいけどな~。あの娘の息子だし」

「それならこんなのはどうでしょう? うまくいけば西崎さんとも近づけますよ」

「教えろ」

「それはですね…………」




「今月からこの学校に現役探索者が教鞭を取ってくださることになった。皆さん彼女から探索者にとって必要なスキルを学びとって下さい」

「天八虎斗乃だ。体育会系だからビシバシいくからな!」


 ええ~。何で貴女がそこにいるんですか?

 

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