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傷だらけのドワーフを追って今まで来た道から外れた方に来てしまった。スマホのマップに自動で描き加えられるからいいだろうが、何処へ行こうというのか?
ドワーフが進む先は今までの坑道とは違っていた。新しく掘り進められた坑道で上に向かっている。そうしてドワーフはある場所で止まった。
「どうしてここに迷宮の入り口があるの?」
目の前には金属で作られた迷宮の扉があった。だがこの迷宮にはそんな登録は一切無かったはず。迷宮に入り口が複数あるものもある。その場合、内部の調査、入り口の土地の所有者、迷宮のもたらす利益の権利等幾つもの問題を解決するために長い時間がかかる。その為に徹底的に調査され国への登録を義務付けられている。登録をしていないままの場合、脱税と見なされて過去10年に遡り出たであろう利益の分の税金を請求される。
「元社長って知ってたんじゃないか?」
「わからないわ。その前にこの入り口が何処に繋がってるのかわからないと……」
扉に近づいて細部を調べ始めた飛鳥さんとその側に立つとのちゃん。とはいっても内部からは登録した所しか開けることは出来ない。何か見つけるのも難しいだろう。
そして……。
「傷だらけのドワーフが鉱石を運んで来たと」
「そうなんです。お父様」
ここは高層ビルの一室。街が一望できる高所のオフィスだ。そこの高級感半端ない革製のソファーに座っている。その横には深夏さんが優雅に出された紅茶を飲んでいる。
反対側に座る飛鳥さんが僕の真向かいに座る父親の剣火士虎朗に迷宮での事を説明している。……僕は要らないよな?
「こっちとしても鬱陶しいので身辺調査を依頼していたんだが……」
目の前の机の上に数種類の探偵社のロゴの入ったA4サイズの封筒が投げ置かれた。深夏さんがちらっとその探偵社名を見て、
「剣火士叔父さん、余りいい探偵社じゃないですよ」
「これは目眩ましだ。ちゃんとしたのは内部の者に調べさせた」
そう言って茶封筒をその上に置く。何の変哲もないその封筒の中には探偵社の調べたものよりも数段上の情報が記載されていた。
「彼も中々偉い人達といい関係を築いているようだ」
そこには黒い噂のある会社の役員や◇◎組系列の人など多岐に渡って綴られている。
「何処もある鉄工業の株を買い占めている」
一時期倒産も考えられていた会社だがいつの間にか売り上げが上がり息を吹き返している。
「迷宮に無理させて消してしまったと噂がたったんだが、持ち直したって言っている。何処からか鉱石がそこに行っているんじゃないかと政府の方でも調べている最中だった」
その会社も剣火士重工があの迷宮を手に入れてから調子が良くない。生産額が日に日に落ちている。
「どちらにしても迷宮のもう1つの出口が何処なのか分からなけれ動きようがない。後はこちらでやっておくからこの件にはもう関わらないように」
「お父様、迷宮に入るのは……あのドワーフさん達が心配なんです」
鋭い目で見られて萎縮しながらそう絞り出した飛鳥さんにため息をついて、
「あそこは今のところ内部調査も今度の件が終わるまで中断させている」
迷宮の内部を調べさせる社員にどんな危険が及ぶかわからないために社長としての判断だ。その言葉にドワーフが今もどんな扱いをされているか心配する飛鳥さんが悲しげな顔になる。
「だが、今の状況を知る者に調査をさせるのも……いいだろう。ただし、もう1つの迷宮の入り口には近づかないように!」
「お父様!」
ぱっと顔を綻ばせ、父親の胸に顔を埋める飛鳥さん。その父親は蕩けた顔でその頭を撫でている。
「深夏さん……親バカ?」
深夏さんが小さくうなずいた。そうか、深夏さん所と違う親バカか……。