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狂王ボルクは今までの事が嘘のように傷だらけだった。正継さんの持つ迷宮産の刀、京鎖礫刀の切れ味が凄まじいせいだ。だが、それでも深い傷はない。どんだけ固いんだよ!
「もういいか? 《縛り付けろ》」
動き回り息が少し上がっている正継さんが刀を地面に突き刺して叫んだ。突き刺した場所から大小様々な鎖が飛び出して狂王ボルクの傷口に繋がっていく。狂王ボルクは捕らえられた獣になった。突き刺した京鎖礫刀を抜いてもその鎖は消えることがない。
「今だ! 殺れ!」
その声と共に再度敷いた包囲陣から一斉に銃と矢が襲いかかる。それに遅れて武器持ちも殺到する。僕もそれに加わり後方から後ろ足を斬りつける。薄く傷つける事しかできないが何度も斬りつけると傷が大きく広がり、
「……血が出てない」
異常な事に傷口から血の一滴も流れずに中の肉が少し見えるだけだ。不気味に思いその場から離れる。
『何してんのよ!』
いや、何って……。そう思いながら刀を振る。また長くなってないか?
『もっと犬ッコロから血を吸いとるのよ! まだ私は満足してないんだから!』
やっぱり吸ってたんかい!
『もっと吸わせて私を完成させなさいよ! 凄いんだから』
凄いって何が?……巨乳とか?
『そんなこと考えてていいの?』
刀から冷たい視線ならぬ侮蔑するような感情が流れてくる。だがそれよりもその場から離れるのが先決だった。鎖を引きちぎった狂王ボルクが腕を振ってきた。目の前に爪が迫る。
「大丈夫!?」
爪との間に走り込んで薙刀で受け止めた深夏さんが聞いてくる。その間に再び飛んできた鎖が腕を繋いで動きを封じる。
「まったく、ダメよ。油断しちゃ」
『エロエロ河童だからいけないのよ!』
私、凄いのよ! とか言われたら男の子なら想像するよな。……なっ!
「深夏さん、すいません」
心の中で本音を言い、対外的に当たり前の謝罪をする。深夏さんも狂王ボルクの攻撃に加わっていただけあって、装備が傷ついている。
「お兄ちゃんが押さえてるから、頑張って倒しましょう」
そう言って僕をおいて他の人達と共に狂王ボルクに向かっていった。
『早くしろ! エロエロ河童! あの女に取られる!』
何いってんだ? あの人は血を吸わんぞ。
『死んだら美味しくないのだ! 早くしろ!』
僕はやる気の抜けた状態のまま立ち上がる。囲んであって入る隙がないな。
『仕方ない。中途半端だが力を使うか』
その声を聞いた直後、刀を持つ手から流れ込んできた力が身体中を駆け巡った。熱く身体中が高揚感に包まれる。誰がやる気スイッチ押せっていった!
『血を吸うと言うことは操れるという事。精神が高揚する成分と能力強化してるからね』
……あの、精神の高揚って依存性ないよな? でも……。
「あの犬ッコロは簡単に殺れそうだ」
高揚感に引きずられ跳躍した。囲む人達の頭上をあり得ない跳躍力で飛び越え、狂王ボルクの背中に一太刀浴びせる。
「グヲォッ!」
背中に思いの外深く入った刀傷からは血が溢れることなく開いたままになっている。さっきまでの浅い傷と違いこの傷の痛みで狂王ボルクは暴れる力が強くなった。
『もっと、もっと血を……』
「もっと血を寄越せーー!」
頭に響く声に意識が引きずられる。防御を考えず、刀を振り回して斬りつけていく。
「あいつに続けーー!」
誰かの声に興奮した皆が殺到する。開いた傷口に次々と武器を撃ち込んで広げていく。様子を横目に攻めている僕は熱に浮かされたようなどこか遠い感覚で勝手に動く体を見ている。
狂王ボルクが満身創痍になりながら牙を剥き噛みついてくる。その顎の下をくぐり抜け喉元へ!
『とどめだ!』
「これで最後!」
狂王ボルクの首を半ばまで切り裂き斜めに傾く。それと同時に命を失った体が倒れ落ちた。
『これで私は完成したわ』
僕の手の中で薄紅色に染まる刀身が光を反射した。それがこの場で最後に見たものだった。




