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「グゥヲォォォーーン!」
キングの上げる遠吠えに反応してコボルト達の目付きが変わる。さっきまで恐慌を起こしていたのにその目は憎しみに染まったように真っ赤にギラついていた。
「ガルルッ」
「なんだ! なんだ!」
「何で逃げ戻ってくんだよ!」
回れ右して走ってくる三四郎に叫んだ。その間にすれ違った三四郎は顔の前で手を合わせながら謝っていった。
「本当にあの野郎はーー!」
怒りに任せてコボルトの集団に突っ込んで行こうとする蝶々を捕まえた。
「何すんのよ!」
「よく見ろ! 数が増えてる」
「は?」
指揮官コボルトの前に現れるコボルト達が押し合いながら迫ってくる。そいつらも目を赤くして口の端から涎を垂らしている。
「狂犬病?」
狂ったように唸りながら来るコボルト達を見て呟く。そしてそのコボルト達に火の玉が着弾する。吹き荒れる爆風の余波が土煙を上げて僕の方まで来た。土煙が治まると散乱したコボルトの死体とその後方から更に増えたコボルトの大群が見える。
「阿立姉弟の所に戻るぞ」
「うん」
走り出した後方に火の玉が追加され爆風に背を押されて走り抜けた。
「うう、もう……飲めない」
「姉ちゃんよく頑張りました」
お腹を押さえて顔色を悪くしている兎瑠夢を介抱している敏典。僕らが逃げ戻る間にファイヤーボールを撃ちまくって牽制するためにマナポーションを飲みまくったらしい。お疲れ様でした。三四郎はコボルトキングの側で体制を立て直して陣を組むコボルト達を見張っている。
「結局元の数に戻ったのかな?」
「そして……また、イチャイチャしていやがる」
「望遠鏡取り上げるぞ」
望遠鏡を覗き込んで歯軋りしている三四郎にそう告げるが目を離そうとしない。……見張りは任せるか。嫉妬パワーを溜めるがよい。
「どうすんのよ。あれ攻略できるの?」
「とのちゃん、わかる?」
「とのちゃん言うなし」
敏典が兎瑠夢の介抱をやめて辞書らしい物を出した。
「コボルトキング、コボルトクイーン」
辞書がひとりでに開きパラパラ捲れていく。そして1つのページで止まった。
「……キングがコボルトの闘争本能を刺激して死を恐れない狂戦士にしてクイーンが一定の数を下回った場合にコボルトを産み出していく。ちなみに数が足りない場合、それに届くまで無限に産み出すとあります」
敏典が持っている辞書は錬金術とプログラム言語で作り出したたった1つの辞書。自動書記で迷宮の情報を書き出して蓄えていく。外見は趣味だ。
「殺すのは不味いので睡眠薬と麻痺薬を散布します。ガスマスクを……」
「薬を作るのにどれくらいかかる?」
「え? ゴーレムに積んでますよ」
「とのちゃん、ここは『こんなこともあろうかと!』と言って出すのが基本だ」
「三四郎は黙れ。何を教えてるんだお前は」
「お約束というやつだ!」
「この状況で余裕だな!」
そう言ってコボルトの方を見るが陣を敷いたまま動かない。持久戦をする気だろう。
「とのちゃん、準備を頼む。三四郎は待機で。蝶々と僕は守護者をどうにかする」
「がんばれー」
三四郎に言われるのがなんか嫌だ! 最後には頼むからな! それじゃ、敏典の準備ができるまでしばらく休憩だ。