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僕の恋する権利はない  作者:  神田 大翔
8/10

 毒舌少女 羽風 凛 4

「なぁ......」

「何かしら?」

 必要な食材を大体購入し終え、帰路に着いている所で俺は単純な質問を思いついた。


「どうして羽風は一人暮らしなんだ? 女の子だし、薫みたいに超進学校に行ってるわけでもないのに」

 これは単純な疑問だ。

 高校生の一人暮らしには治安上の危険もなかなか多い。それでも親と離れて生活する理由が何となく気になったのだ。


「............そうね。確かに気になるかもしれないわね」


 羽風はこちらを見ることさえしないで言った。

 しかし俺には、彼女は少し困っていた様な気がする。

 全くの無表情なので分かるわけないが......。


「あ、でも。嫌なら言わなくてもいいんだぞ!」

「いえ、そんなに難しいことじゃないの......単純よ。前住んでいた地域で問題が起こったの」

「............問題?」


 俺がその問題について更に追求しようとすると、彼女はこちらを向いた。今度は無表情でなく、あからさまに困惑しているのがわかった。


「......あんまり人に言える様な物ではないわね」

「そうか、まぁ。俺も同じ様なものだけどな......」

「あら? あなたは親が転勤するからって聞いたのだけれど?」

「色々あるんだよ」


 確かにそれは嘘ではない。しかしただそれだけが理由なのだったなら、わざわざ引っ越しなんてしなくとも前の学校近くの部屋を探せばよかったのだ。

 編入試験を受けてまで違う学校へ転入してきたのには理由があってのことである。もちろん人には言えない理由なのだが......。


「......分かったわ。 どうせ妹に手を出そうとして勘当でもされたんでしょう?」

「............最近気付いたんだけど、お前も薫たちに劣らずの変人だよな」


 既に日も傾き、西日が差している。歩いている住宅街の舗装道路はオレンジ色に染まっていて、何だか引っ越し当日を思い出しす。

 あ、引っ越し当日の出来事といえば。


「まぁ。これ以上は聞かないけどさ。 俺が引っ越して来て初めて羽風に会った時言ってたよな」

「何かしら」

「前住んでた人は執拗に部屋に訪れてたり、合鍵作ろうとしてたとか......、 あれって羽風がアパートに来る前の話だよな?」

 話の流れからして、俺が現在住んでいる部屋に前住んでいた人間がそのようなことをしていたような話ではあったが、

それはつじつまが合わない。


「......どうしてそう思うの?」

「簡単だろ。燕さんに聞いたけど、羽風の隣の部屋に限らず二階の全ての部屋は羽風と俺以外人が入ったこと無いらしいし」


 だったらそもそもそんな事を出来る人間は居ないはずだ。


「もしかして、それも一人暮らしに関係あんのか?」

「............」


 羽風は黙りこんでしまった。もしかして触れてほしくないところに触れてしまったのか。


「......そうね。関係ないことは確かにないわ。 でも、一ノ瀬君には微塵にも関係がない事よ」

「......そうですか」

「本当に人のプライバシーに触れることが大好きなのね この変態」

「えぇ! そこまで言う!?」


 立ち止まって俺をあからさまに睨みつけてそう言う羽風。

 彼女は一呼吸置くと、また元の表情で歩き出す。

 

「まぁ。いずれ話す機会があったら言ってもいいかもしれないわね」

「......そこまで言いにくいことなんだったら、無理しなくても言わなくていいって」

「......そうね。一ノ瀬くんに自分の秘密のようなものを語ろうなんて、微塵にも思えないもの」

「............軽く。傷ついた」

 

 平然と彼女は言った。

 そりゃあ信用なんて無いに等しいかもしれないけどさ......。


「豆腐みたいなメンタルの持ち主なのね全く。そんなに弱腰だからいつまで経っても持てる友達も持てないないのよ」

「......羽風に言われるのは心外だな」

「あら? 私は作れないから仕方がないけれど、一ノ瀬くんはもう作れてもおかしくないと思うわよ」

「? どういうことだ?」

 

 俺の交友関係は始業式の件で壊滅的なはずではなかったか?

 正直二年生のうちは諦めようと思っていたが.......。


「気づいていないのね。 一ノ瀬くんはもうそんなに怖がられていないってこと」

「......本当に?」

「ええ。元々社交性はある方で、始業式以来目立ったこともしていないし、そろそろクラスの人達も警戒心を解き始めているじゃない」


 羽風は淡々と言った。相変わらずの無表情だ。


「......つまり、もう少ししたら友達の一人も出来るかもしれないってことか?」

「そうね。一人でも出来たら、後はゴキブリのように増えるんじゃないかしら」

 ゴ、ゴキブリて......。


「そうしたら。もう私と昼を共にする必要もないわね」

「......はい?」


 どうしてそうなる。始業式からなんとなく昼はあそこで取るようになっているが、あれは関係ないだろう。


「まさか羽風。お前自分が迷惑だとでも思ってんの?」

「......? 何? あんな所で昼食だなんて、迷惑以外の何物でも無いと思うのだけれど......」


 羽風は至って真面目なことを言うような表情で俺を見た。


「......何言ってんだよ。別にそんな事思ってねーよ」

「............そう?」


 俺は間を置かずに否定したが、羽風は何か不安げな顔をしている。

 本当に自分が迷惑と思っているのだろうか。

 まぁ羽風のことだ。この毒舌が本気でそう思っているということはありえない。

 解釈するに、俺と一緒に昼食を食べるのが嫌でこんなことを言っているおかもしれない。

 そんな事、直接言ってくれたら俺が体育館裏以外に行くようにするのに。 ......トイレとか。


「どうしたの? いきなり泣きそうにならないでちょうだい。 処理に困るわ」

「だ、だって羽風がはっきりと嫌って言わないから......!」

「? 何の話かしら?」

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