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僕の恋する権利はない  作者:  神田 大翔
7/10

 毒舌少女 羽風 凛 3

「ゆ・う・き・く~ん!!!!!!」


 始業式から5日が経った日曜日の放課後。アパートまで戻って来て部屋の鍵を外した俺を待っていたのは、大家である燕さんと、俺にいきなり飛び掛ってきた大学生----響子さんである。


「......何で俺の部屋に居るんですか......」

「え! ちょっと~。抱きつかれた男子にしては反応薄くなぁい?」


 何を意識する様子もなく、響子さんは俺に二房のメロンを押し付けてくる。でも、何かもう......慣れた。


「そりゃあ、毎日出会い頭にそんな事されたら誰だって慣れますよ......」

 最初は驚いてばっかりだったけど、回数が二桁に入った位のところで嫌でも耐性がついたんだよ!

「う~ん。やっぱり最初の初心うぶな祐季くんのままでいて欲しかったわ~」

「無茶言わないで下さい」

 

 当然のように絡みついてくる響子さんをうんざりしながら剥ぎとった俺は、燕さんに対して向き直った。


「それで? マスターキーで俺の部屋に入ってきてまで伝えたいことでもあるんですか?」

「...........」

 

 俺の勉強椅子の上で脚を揺らしながら、燕さんは頷く。


「......実は、祐季の歓迎会を未だしてなかった」

「歓迎会?」

「......うん」

「そうよ!歓迎会! 私達のアパートは若い人ばっかり集まるから気を使うこともないし......ってことで、誰かの入居ごとに歓迎会をしてるの!」

 

 凝りもせず響子さんは後ろから抱きついてくる。最早これは彼女にとって挨拶以上のコミニュケーションとなっているのだろう。 


「おぉー。それは嬉しいですね!」

 そんなものが在ったのか。

 そういえばここにいる人の中には大人はいない。ならばそういうのも在ってもおかしくは無いのか.....。

「確かに大人が居ないなら気を使うこともないですもんね!」


「......祐季......」

 どうしました燕さん。何かおかしな事言いましたっけ?


 不満を露わにしながら俺を見上げる燕さんをたいして気にすることも無く俺は話を続けた。

「もう何日にするとか決まってないんですか?」

「......今夜」

 

 何もなかったかのような俺の質問に、ますます不機嫌な様子の燕さんが答えてくれた。


「それは早いですね......あ、いえ! 他の人が迷惑じゃないなら俺は良いですよ!」

「大丈夫!皆の了承は得てるから後は祐季君だけだったのよ!」

「.........だから今夜......祐季の部屋で」


 燕さんは人差し指の指先を下に向けて言った。


「分かりました! 今夜俺の部屋で...........って俺の部屋に五人も押しかけるんですか!?」

 8帖部屋で、家具も多いからスペース全然無いのに......。


 周りを見渡すと、ベッドやら机やらクローゼットやらでかなりのスペースを消費してしまっている事が一目でわかる。


「......駄目......?」

 

 少し不安そうにこちらを見てくる燕さん。

 ぐっ! そんな顔をされたら......。

 ...........でもなぁ。


「------僕も先輩の部屋に賛成です!!」

「って薫!? お前今どこから出てきた!?」

 俺のベッドの中から出てきてなかったか!?

「先輩の匂いを堪能するためにベッドに潜り込んでいました!」

「......そうか。お前はこの数日で完全な変態だと分かった......」

「えへっ!」

 薫は拳を自分の頭に軽くぶつけ舌を出した。

 これも慣れたもんだと思っていたものだがイラッとする。

 それほどやることが変態お極みなのだ。

  


「......はぁ。燕さん。他の空き部屋とかじゃダメなんですか?」

「......ごめんなさい。商品だから、汚すわけにはいかない」

「............」

 うーん。それならしょうがないのか......。未成年ばかりだし、全員が一人暮らしだということで資金繰りにも考えるとなると......。やっぱり俺の部屋がいいのかなぁ。


「......分かりました。じゃあ俺の部屋でしましょうか」

「......良かった」

「さっすが祐季くーん! 気前がいいわね!」

「じゃ、手短にどうするか決めましょうか......」


 俺達は手短に時間だけを決め、そのまま解散した。

 夜の八時から。全員が集まり次第開始ということらしい。

 ちなみに俺が祝われる側ということは全く考慮に入れられていない。歓迎会のほとんどを占める食事の準備はなぜか俺の役目になっていた。

 どうやらここの住人は料理スキルが著しく低いらしく、恐ろしくまずいと彼ら自身が言っていた。

 じゃあどうして歓迎会で手料理を振る舞う流れが出来上がってんっだよ......。

 まぁどうせ最初から俺を頼るつもりだったんだろうけど。





 ------というわけで俺は他の住民から集めたお金を使って近隣のスーパーで買い物をしている。

 ちなみに羽風も一緒だ。彼女曰く、「一ノ瀬君がとんでもないゲテモノを化合しないような材料を選ぶように監視する」のだと。

 そこまで信用無いのかね。


「あそこの卵。安いわね......」

 羽風は相変わらず感情の起伏が少ない面持ちで俺の横を歩いている。時々安い食材を見つけては買い物カゴにそれを入れている。

「......羽風さんやい」

「何かしら?」

「今日は鍋だぞ......?」

 明らかにそのチョコレートは禁忌材料じゃないかと思われますが......。


「......そう言われてみればこれは違うかもしれないわね」


 落ち着いた表情で元の陳列棚にチョコレートを戻す羽風。


 それはネタではなかったのか?表情が変わらないので今一捉えづらい......。


「じゃあまず、絹ごし豆腐とこんにゃくと......」

「......? 一ノ瀬くん。今日は何を作るつもりなの?」

「ん? ああ。定番のモツ鍋だよ」

「モツ......?」

「なんだ?モツ鍋食ったこと無いのか?」

 ここらの地域の人間なら一口でも口にしていても当然の鍋じゃないのか?

 

「......えぇ。普段鍋は作らないし、今までの歓迎会は誰も料理できなかったから」

「あれ? じゃあ何作ってたんだ?」

 料理できないのにどうするんだよ。

「............ヤミ鍋よ」

「そ、それは過激なものをまた......」


 他愛もない話をしながら俺と羽風は買い物を進める。

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