個性豊かな隣人達 4
夕食を作るために台所へ向かおうとすると、チャイムが鳴った。どうやら人が来たようだ。
「あ、少し待って下さーい!」
俺はエプロンを取り外し、玄関へと向かい扉を開ける。
「えへへ。こんばんはー」
そこには茶髪の、目がクリクリとした可愛い女の子が立って居た。短過ぎに見えるミニスカートからは細い脚がチラチラと見えている。
この子は......薫の部屋で最初に出てきた子か。そういえば、今晩薫が会わせると言っていたっけ。
「もしかして、薫の妹さん?」
「違いますよー。薫ですっ」
「......ん? 兄弟で名前が同じなのか?」
「そうじゃないです。僕が薫なんです」
ん?おかしい。薫は男の子のはずだ。
「......実は、僕。男の娘なんです」
何の問題も無いようにさらっと薫(妹)は言う。
はい?薫が男の子で、その妹は男の子で、妹なのに男の子......? 意味分からん。
「ふふっ! もしかして、意味分かってません? 先輩」
「分からない」
「そうですか......それじゃ、こういうことですよ!」
すると突然その子は俺に正面から飛びかかる。ちょうど首に腕を回すようにだ。
細い彼女の腕が首に絡まる感覚と、何だか甘い匂いがした。
「え! 何!?」
「えへへへー」
「と、年頃の娘がそんな破廉恥なことしてはいかん!!」
「先輩ー。それおじさん臭いですー」
そ、そんなことはどうでもいいんだ! なに初対面の男に対して抱きつてんだこいつは!
「ほら。僕に触って下さいよぉ」
「な、何ぃ!?」
さ、触れ。だと!?!?
「ほら。早く早くー」
ど、どうすればいいんだ。
いや、待てよ。この状況はもしかすると何かのドッキリなのかもしれない。先ほどは俺のことを変態呼ばわりする人間まで居たんだ。変態かどうかテストのつもりでこの子を仕掛けてきた可能性もあるっ!
「もうっ。恥ずかしがり屋さんですねー。先輩は」
目の前にぶら下げられた肉に齧り付くかどうか葛藤していると、その子は強引に俺の腕を掴み、
「うおっ!!」
俺の手を、無理やり胸に押し付けさせた。
「ふおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そこには、小柄ながらもしっかりとした女の子特有の二房の稜線が...........無い。
「あ、あれぇ?」
思わず情けない声が出てしまった。そこに在ったのは、ただの肋骨の触感だったのだ。
胸がないにしても、脂肪皆無というのはおかしい。
「分かってくれましたか? 先輩」
「ま、まさか!?]
この子......いや、こいつ! 薫(本人)か!?
「そうですよ。薫(本人)です」
俺の表情から察した薫は顔を赤らめつつ上目遣いでこちらを見る。相変わらず腕は固定したままだ。
「おまえ、オカマだったのか......」
「むぅ。正しくは、男の人が好きな男の娘です!」
心外なことでも言われたかのように頬をふくらませる薫。さっきまでは可愛いと思えたかもしれないが、こいつが薫だとわかった今では何とも思えない。
「い、一緒じゃないのか?」
「違いますよ! オカマって、響きが悪いじゃないですか! 僕は完璧な女装ができるので男の娘なんです!!」
「し、知らねえよ......」
「はぁ。先輩が会いたいっていうから気合入れたのに......」
「止めろぉ!これ以上顔を近づけるなぁ!!」
首に回した手を緩めて、今度は息が触れ合うまで顔を近づける薫。体を後ろにそらしてかわそうとするが、腕が固定されているので必然的に薫も動くので距離が縮まらない。
「くっ! それで、何をしに来たんだ」
「先輩との距離を縮めに......」
更に頬を紅潮させながら顔を近づける。------この目は!こいつ、真剣だ!
そして、気づく。燕さんが言っていた。『気に入られた』とはこういう意味だったというのか......!?
「僕、先輩を見た時。『この人だ!』と初めて思えたんです!」
正面から俺を見つめ、艶かしい唇を歪ませて話す薫。俺の背中からは冷や汗が吹き出ている。
頼むからやめてくれ!
「だから.....だから!僕と付きあっ--------」
言わせる前に俺は薫を逆に部屋の仲間で引きずり、
「断ぁーーーる!!!!」
見事な一本背負でベットの上に思い切り叩きつけた。
「ふぎゃあ!!」
「あ、すまん。つい本気で......」
いくらベッドの上とは言えど、もしかしたら痛かったかもしれない。一応謝る。
「............」
しかし、うつ伏せのまま返事がない。......もしかして、気絶した?
「おい! 大丈夫か!?」
俺は慌てて肩を掴んで薫を仰向けにひっくり返した......が、
「ふふふ。先輩......むりやりベッドインさせるなんて、強引なんですね」
「...........」
「どうしたんですか? 別に、先輩なら構いませんよ? 好きにし放題です」
「...........」
「先輩......キて」
傍にあった枕を恥ずかしそうに顔の前にかざし、目だけが覗く格好でこちらを見る薫。
それを見て、ついに俺の何かが切れた気がした。
ゆっくりと薫の近くへと移動し......
「せ、先輩......優しく......し------」
「帰れやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
もう、衝撃とか気にせずに薫を廊下へと放り投げ、勢い良く扉を閉めた。
「ちょっと! 先輩! 酷いですよ!」
「五月蝿い! 俺は男に興味はない!!」
薫は扉越しに叫ぶ。しかし俺はもう扉を開けるつもりはない。
「......しょうがないですね。でも僕は諦めませんよ......いつか、先輩を籠絡してみせます!!!」
それを最後に階段を勢い良く降りていく足音が聞こえた。
同時に俺は、二度と薫に油断しない事を心に誓った。
一ノ瀬 祐季視点の人物紹介
羽風 凛......美人(正確に難あり)
早乙女 薫....変態呼ばわりされるならこっちじゃないか?
近藤 燕.....見た目幼い割に一番まともな住人
葉山 響子...要するにビッチなのか......?






