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僕の恋する権利はない  作者:  神田 大翔
2/10

個性豊かな隣人達 2



「これで粗方荷物は運び終わりましたね」

「......いい感じにできた」


 その通りただの空間だった八帖のワンルームは生活感溢れる新鮮なものと成っていた。

 白いカーテンに淡く青いカーペットがよく似合い、勉強机や本棚などの家具が壁際に配置されてる。

 八帖という狭さにしては家具は多めだと思われたが、そこまで狭さは感じない。これもレイアウトを考えてくれた燕さんのお陰だ。


「近藤さん。手伝って頂いてありがとうございました」

「......大丈夫」

「ま、片付けも終わったし。ちょっと休憩しましょうか」


 気が付くとすっかり西日が差す時間となっていた。南側に面している窓からはオレンジに染まる都会の街が映っている。いい物件を見つけたものだ。


「......いや。直ぐに挨拶に行く」

「え? 疲れてないですか?」

「............」

 燕さんは無言で首を振る。俺は疲れたんだけど......まぁいいか。

「そうですね。できるだけ早めに訪問した方が相手にも迷惑じゃないですし」


 というわけで俺たちはその部屋を出て、一階の早乙女さおとめ 薫さんという女の子の部屋へ行くことにした。

 俺の隣の部屋にも人が居るらしいのだが、留守だったのでこっちを優先することにしたのだ。


「早乙女さんって、どんな人何ですか?」

 

 階段を下りながら燕さんの顔を見た。


「......かわいい女の子。ちょっと変わってるけど......」

「変わってる人ですか......」

 昼会った響子さんの顔が思い浮かんだ。うーん......あの人はどうなんだろう。

「......響子よりはマシ」


 俺が思い悩んでいると、考えを察したのか燕さんが言葉を重ねた。


「......まぁ。あれくらいは全然許容範囲内です」

「......良かった......」


 直ぐにその部屋に到着した。一階の一番西側。部屋番号は1-1だ。

 遠慮なく燕さんはインターホンを押した。


「はーい」


 ベルが鳴ると直ぐに返事が聞こえた。少し低めの柔らかい声だ。


「はい? 何でしょう?」


 顔を出したのは髪を軽く茶色に染めた。クリクリした目が可愛いらしい女の----


     バタンッ


「............」

 目があった瞬間扉を閉められた。


「......え。俺なんかしましたっけ??」

「......祐季。おめでとう」

「質問の答えになってないんですけど......」

「......気に入られたんだと思う」

「あれで!?」


「---こんにちは。どうしたんですか?」


 時間を空けて今度は優しそうな顔した柔らかそうな茶髪を持った男の子がドアから現れた。しかし男にしては全体的にラインが細い。背も小さめで目がクリッとしていて......なんというか、小動物的な可愛さを感じさせる男の子だ。

 あれ?さっきの子は?


「まぁいいか。.....はじめまして。今日二階の2-3に越してきた一ノ瀬 祐季です。挨拶に伺いに来たのですが......」

「あー。何だか騒がしいなと思ったら、新しい人でしたか。もしかして、高校生ですか?」  

「はい。よろしくお願いします」

「む。何年生で?」


 少々不機嫌そうになったその男の子は、ズイっと顔を近づけて質問してきた。男とは思えないきめ細かな肌が目の前一杯になる。

 ちょっと近過ぎやしないかい......?と、思い軽く体を後ろに逸らした。


「えっと、二年生です」

「あ!じゃあ僕は一年生なので後輩ですっ! 敬語なんてやめて下さいよ!」

「そ、そうか?......分かった」


 その男の子は満足そうに、胸に手をあてた。


「僕は早乙女 薫です。近所の名田高校ってところに通ってます」

「名田......あの超進学男子校?」

「ふふっ。 大げさですよぉ」


 名田なだ高校といえば......確か全国偏差値が八〇を軽く超す超エリート高校じゃないか。

 俺が通う高校は風影ふうえい高校は、名田には到底及ばない。確か偏差値だって二〇以上差が有るんじゃ...?

 それくらい別次元の高校なのだ。------ってあれ?薫......って女の子なのでは?


(......言い忘れてた......薫は男のだった)

 

 疑問に思っていると、クイクイと袖を引っ張ってきた燕さんが俺に耳打ちをしてくれた。

 やっぱり男の子だったか。ってことはさっきのは言い間違いということだろうか。


(......変わってるっていうのはこのこと)


 ど、どのこと?男の子って変わってんの?じゃあ俺も変わっていると?

 疑問の表情を見せる俺に燕さんは、「ね?変わってるでしょ?」とでも言いたげだ。

 意味が分からないんですが......。


「あ、僕のことは薫って呼んでくださいね?」

 そう言うと、薫くんは人差し指をピンっと立てる。その指は細くて白く、何というか男のゴツさの欠片もない。


「か、薫くん......薫くんって---」

「ブー! ダメですっ!薫です!!」

「ちょ、唇に指つけるなっ!」

「名前で呼んでくれないなら......」

 お、悪寒が!

 何故目を閉じる!?


「分かった! 薫!」

「はい。オッケーです」


 薫はなぜか少し残念な顔して俺の唇の人差し指を話した。


「......はぁ。薫は本当に男なんだよな?」

「? そうですが?」

「ならいいんだけど......さっき女の子が居なかったか? そっちも紹介してくれると嬉しいんだけど」

「お、女の子ですか!? 」

 

 やんわりとした態度が一変して、慌ただしくなる。両手を頬に添え、顔を赤くしてこちらをチラリと見た。


「......先輩。先輩が見た女の子。可愛かったですか?」

「ん? あー。結構可愛かったな」


 嘘ではない。一瞬しか見ることが出来なかったが、それでも美人かどうかはひと目で分かるものだ。何というか......肩までの茶髪とクリクリした小動物的な可愛さがあったように思えた。......そういえば薫に似ていた。兄弟だろうか。


「ほ、本当ですか!?」

「何で薫が嬉しそうなんだ?」

「えー? そんなことないですよー」

 目尻がおもしろいほど下がってるんだけどな......。


「えっと......具体的にどんな所が可愛かったりします?」

「? ......なんでそんなことを言わなきゃ......」

 あ。もしかして薫って奴の妹だったりするのだろうか。もしそうなのだったら、自分の妹を褒められるのが好きだということもあり得るな。


「......えっ...と。クリっとした可愛らしい目に、肩まで垂らした茶髪がとっても似合ってたかな」

「............そうですかぁ」


 俺が記憶から姿を引っ張りだして、可愛いとこを言ってやると。これまで無いくらいまでに嬉しそうに、体をくねらせる薫。相当嬉しかったのか顔まで真っ赤に染めている。

 って、なぜお前がそこまで嬉しがる......?


「そ、そんなに嬉しいか......?」

「はいっ! そりゃあもう!」

「じゃ、そろそろあの子も紹介してくれ」

「......そんなに紹介して欲しいですか?」


 なぜか唇に人差し指を当てて上目遣いで見上げてくる薫。

 今気付いたが少し行動が女っぽすぎやしないか......?


「......ま、まぁ。そりゃ、挨拶に来たんだから」

「挨拶に来たから? 純粋に会いたいんじゃなくて......?」

「え、いや。嫌ならいいけど」

「そうじゃないです。 僕は、その子に会いたいですか?......って聞いてるんです!」

「え、いや別に......」

 何を言ってんだこいつは。そんなことは特に関係がないだろ......。


「そ、そんな!?」

「そんなにショックなことじゃないだろ......」

「......そうですよね。まぁ。今直ぐ会いたいってほどには可愛くないですよね......」

「話し聞いてます?」

「......分かりました。なら、先輩が振り向くほど可愛く......」

「何の話だよ......おーい」


 薫は俺が手を振っているのには目もくれず独り言を続ける。------っと思ったらいきなり顔を上げ、


「先輩!」

「うおっ!? は、はいっ!」

 びっくりした......無視したり、いきなり叫んだり忙しいやつだな。


「今日の晩。......って言っても数時間後ですけど。改めて部屋へ伺ってもよろしいですか!?」

「ん? まぁいいけど? 何で?」

「先輩が可愛いって言っていたに会わせてあげますっ!!」

「そ、そうか......? 分かった」

「はい! それじゃあ今直ぐ用意しますね!!」

「あ、ちょっ待て! まだ挨拶の品渡してっ---」 

 

  -----バタンッ!


「............」

「......悪い人ではないから優しくしてあげて」

 呆然とする俺に向かって、燕さんが静かに呟いた。

 

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