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僕の恋する権利はない  作者:  神田 大翔
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 毒舌少女 羽風 凛 6



 勤さんを見送ってから俺は自分の部屋に戻り、自分の部屋に入ろうとすると、

「あれ? 開いてる?」


 何故か俺の部屋の扉が半開きだった、泥棒でも入ったのかと思い、慌てて玄関に入る。


「せんぱぁーい! さぁ一緒に作りましょう! 」

「......何故当然のように薫がここに居る」


 そこにはすっかり女装をして、服の上からエプロンを羽織っている薫が居た。

 ただの男が選んではこうはならないだろうと言うほど可愛い格好をしている。

 俺は特に何も思わないけど......。


「え? 先輩と一緒に作りたいって言ったら燕さん、快くマスターキーを貸してくれましたよ!」

「つ、燕さん......」

 さすがにマスターキーを貸すのはどうなんだろう。


「さあ作りましょう!」

「まぁ、待ってくれ。食材類をちゃんと冷蔵庫に閉まってからな」

「何言ってるんですか! 早く!」


 と、言いつつ薫はエプロンも服も何もかも脱ぎ出す。

 薫は女装をしていたし、男とは思えない綺麗な肌をしているので、何だかイケない物を見ている気分にさせられるが、


「はーい。服は着ましょうねー」


 大して動じることもなく俺は服を着せる。

 

「あ、ちょっと! 先輩冷たいです!」

「さっさと作らなきゃな......鍋な......」

「む、無視しないでくださいよ! 先輩は公衆の面前で服を脱ぎ出す痴女が好きなんでしょう!?」


 心から驚いた、とでも言うように薫は言った。


「な、何だと!」

 そこまで偏った趣味は無い!

「......って凛さんが言ってたのに!!」

「あ、あいつの仕業か......!」

 どこまで俺を貶めるつもりなんだあいつは!


「......ぐっ。まぁそんなことより鍋作るぞ! 鍋!」

「せ、先輩! 先輩はそんなに鍋を食べたいんですか! 僕じゃなくて!」

「は? 当たり前のことを言うなよ」

「ひ、酷い!」


 よよよ。と泣き崩れる薫をスルーしつつ、俺はコンロへと向かう。

 とりあえず冷蔵庫に食材を入れたら、野菜を切り始めるか......。


「......はぁ。いつになったら先輩は振り向いてくれるんでしょうか」


 俺が手を洗い野菜を切り始めると、薫が復活した。嘘泣きだってことは分かっていたので、この早すぎる立ち直りに驚くことはない。


「さあ。俺が就職に失敗しかけたらお前のヒモにでもなるかもな」

 もちろん冗談だけど。

「ほ、本当ですか!? ってことは先輩が専業主夫で僕は......!!」

「あ、冗談だからな?」

「そして、毎晩毎晩......あぁ! 僕は! 僕は!どうされてしまうんでしょうね!?」

「冗談......」

「その話が本当ならこうしては居られない! 今直ぐにでも先輩が就職に失敗するように工作しなきゃ!」

「ちょ! 嘘だって! ってか工作って何するつもりだ!」

 そのままだと勝手に俺の退学届を書き出しそうな勢いじゃないか!


「えー。冗談なんですかー?」


 薫は心底残念そうに頬をふくらませた。

 そしてしぶしぶといった様子で俺が切ろうとしている他の野菜を洗い始めてくれた。


「はぁ。最初からそうしてくれればいいものを。どうしてお前はいつも何かしらの芸を仕込んでくるんだ......」

「............いいじゃないですか。先輩だってまんざらじゃなさそうだし」

「......そう見えるか......?」


 俺は眉をピクピク動かしながら薫を睨む。

 お前のせいでいっつも無駄な体力を消耗しているだけなのに......。



「やっほー祐季くーん! お腹空きすぎて早めに来ちゃったよー!」

「あ、響子さん。 早いですね」


 気が付くと玄関には響子さんが居た。手には何やら大きな紙袋が握られていている。服装もゆったりとしたパーカーにレギンスと部屋着のようで、大学に行くときのような派手さは微塵もない。

 しかしこれくらい気を抜いてくれたほうがこちらとしても楽だ。


「はい。これお土産よ!」

「おぉ。ありがとうございます」


 響子さんは手に持っていたその紙袋を俺に渡すと、ズカズカと俺の部屋に入って来た。

 遠慮無く部屋に上がってくるのも二度目なので特に何も思わない。


「あ、あれ? このお土産重いですね?」

 男の俺が持ってもかなり重い。

「あー。実はそれ、お酒」

「え!」


 慌てて俺は紙袋の中身を見る。

 なんとそこにはセットになったビールや焼酎。それに加えてウイスキーなるものまで入っていた。

 どれだけ飲むんだよ......。


「か、完全に自分専用でしょ。これ」

「安心して。祐季くん達の為にノンアルコールのお酒もあるわよ!」

「............」

 結局、子供には飲みにくいもんばっかじゃねーか。


「あれー? まだ出来てないの?」

「あ、そうなんですよー。先輩が中々作ろうとしてくれなくて」


 と言ってお腹の当たりを薫は抑える。 

 落ち着け俺。スルーだ、スルー。


「あらー、そうなの祐季くん? 薫ちゃんが可哀想じゃない」

「...........せっかくスルーしようとしてたのに!」

「せ、先輩! 響子さんの言う通りですよ!」

「やめろ! ひっつくな! 火傷するだろうが!」

「ちぇー」

「あぁもう。 全然進まねぇー」


 俺はまとわりついてきた薫を引っぺがすと、落ち着きを取り戻し着々と下準備を進めていく。


「......祐季くん。料理上手じゃないのー」

「あ、実は料理って俺の趣味なんですよ」

「へー。料理が出来る男性はモテるわよー」


 響子さんは早速ビールのプルタブを開けながら俺の手の動きを見た。

 確かに料理は得意だ。

 何せよ、こういうことをして生活力を親に証明しなければ一人暮らしは出来ない。と言われていたしな。

 家事はかなり得意だ。


「一層僕の主夫への道が近づきましたね! 先輩!」

「うるさい」

 それとこれとは話が別だ!

「............私も手伝おうか?」


 ポツリと響子さんが言った。


「いえ。俺一人でも大丈夫ですよ!」

「うーん。でも男の子が料理をして、女がそれを酒のんで待ってる。......って、構図としては何だか違和感あるのよね......私は」

「僕はそんな事無いと思いますよ! なにせ先輩は僕の主夫ですから!」

「......うーん。じゃあ手伝ってもらいましょうかね?」

 俺は薫を無視しつつ言った。

「分かった! じゃあ肉団子!作るわ!」

「あ、僕も作ります!」


 響子さんは勢い良く立ち上がると、台所に立ち下準備していた鶏肉を丸め始めた。ついでに薫にもそちらをやってもらう。

 ここの住民は料理が苦手らしいが、ミンチ状になった肉を丸めることくらいは出来るだろう。


「じゃ、お願いします」

「勿論よ!」

「はい! 先輩の肉団子でも、鳥の肉団子でも、何でも転がします!」


 やる気の感じる良い返事だ。

 これならば大した失敗も無いだろう。

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