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僕の恋する権利はない  作者:  神田 大翔
1/10

個性豊かな隣人達 1

「ここが俺の部屋............」


 決して新しくは無く、さらに広いわけでも無いその八帖部屋を見渡して、俺は胸を踊らせる。

 そう。今日から念願の一人暮らしなのである。

 どれほどこの日を待ち望んだことか。


「......荷物は全部下に届いてる」

「あ、はい! 案内ありがとうございました!」


 部屋をキョロキョロと見回していると、腰の当たりから小さな声が聞こえた。

 その声に慌てて例を言う。


 声の主は、このアパートの大家である近藤こんどう つばめさん。

 彼女は背もずいぶんと低く、容姿こそ小学生ばりの幼い子供のようだが、これでもこの歳二七歳のいい年した大人である。 

 しかし、眠たそうな大きな目、それによく似合うショートボブの髪型など、全体的にとても可愛らしいと思う。

 名前の『燕』も、容姿と余りにもピッタリ合っている。


「......手伝う」

「あ、いえ。気を使わなくても大丈夫ですよ。あの量だったら一人で出来ますし......」

「......やること無いから。......それにこの後同じアパートの人達の挨拶回りも一緒にする」

「そうですか? うーん、じゃ、お願いします」

「......分かった」


 近藤さんの言う通りまずは家具類を運び切らなければならない。なので俺達は荷物の重ねてある一階まで降り、それが入ったダンボールを部屋まで移動させることにする。


「......一ノ瀬君」

「はい?」


 一人暮らし用冷蔵庫を運んでいると、高校の教材類を少し重そうに運ぶ近藤さんが話しかけてきた。


「......下の名前、何?」

「あぁ。そう言えば言ってませんでしたっけ? 祐季ゆうきです」

「......祐季......じゃあこれからは『祐季』って呼ぶ」

「え?本当ですか」

「......ここの人は全員下の名前同士で読んでるから。親しみをこめて......」 


 なるほど。親しみを込めての意味か、それはいいかもしれない。じゃあ、俺も......


「それじゃあ俺も、『燕』って呼びますよ」

 

 と、俺はにっこりと微笑みつつ言ったのだが、


「.......................」

 …………そ、そこまで露骨に嫌な顔しなくても


「............じゃ、『燕さん』」

「......まぁ、それなら......」



  一息置いてから燕さんが改めてこちらを見た。

「......どうして祐季は一人暮らし?」

「あー。親が海外に転勤することにいなったんですけど。高校にもなって今更海外は......ってことで俺だけここに残ることになったんです」

「......でも、確か妹が居た」

「妹は置いては行けないって親が言い張ったからしぶしぶ付いて行ったようで......。相当嫌がってましたけどね」

「......そう」

「まぁいつか家族が様子見にでも来ると思うんで、その時にでもまた紹介しますよ」

「......楽しみにしておく」


 部屋に入り冷蔵庫を置くと、二人は更に荷物を運ぶために一階へ階段を降りた。

 ちなみにこのアパートはそこまで大きくはない。一つの階に五部屋。それが二階ある。

 階の移動はどうしても階段になるものの、広くないのでそこまで重労働では無い。

 そして一階に足を踏み入れた時------


「お! 燕ちゃーん! 遂に男ゲットしたの!? やっぱ隅に置けないわねぇ~」

「む。......響子」


 燕さんはムッとして声を出した。

 重ねられたダンボールの荷物の近くには見知らない女性が居た。大学生位だろうか。髪をポニーテールにし一つにまとめている。高身長でスタイルもよく、性格も明るく活発そうな顔立ちだ。

 かなりの美人で、そのこと以外は燕さんと対極の人間に見えなくもない。

 

「......響子。彼氏じゃない」

「え、違うの? 遂に先を越されたのかと思ったのに」

「.....新しい入居者。しかも高校生」

「高校生ね......って、またアパート住民の平均年齢下がる!」


 大学生らしいその人は頭に手を当てて大げさに悲しそうな表情になる。


「......そう。りんかおると同じ」

「凛と薫............ん?このアパートって高校生が他にも居るんですか?」

 そういえばここの住民は一人も聞かされていなかった。だが話の内容では高校生が居るのだろう。

「......女の子が二人」

「本当ですか!? 」


 女の子が二人......。これは嬉しい知らせだ。後の挨拶回りで楽しみにしておこう。


「まぁ。そんなことで私は葉山はやま響子きょうこよ。私のことは響子でいいわ。これからよろしくね!」


 近くに寄って来た響子さんがニカッと笑ってそう言った。

 良かった。優しそうな人で......



「あ、はい。一ノ瀬祐季です。よろしくお願いします」

「......そう言えば響子。今日の講義はもう遅刻。」

「え!? 嘘!! やばっ!!」

 

 慌てて腕時計を見る響子さん。少しドジなところも有るようだ。思わず口元が緩む。


「あーー!もう!昨日夜遅くまで出かけてたから起きるのが遅くなっちゃったのよね~」

「......また夜更かし」


 燕さんは呆れたような口ぶりで言う。「また」ということは何回もこんなことが有るのだろう。


「いや~。飲み過ぎた飲み過ぎた。つい手が動いちゃうのよ~」

「あはは。二日酔いですかー」

 昨日は遅くまで飲みに行っていたのだろうか。

「ん? 別に?」

「え?」

「遅くまで............あっ!此処から先は高校生には早いかぁ......」

 まるでタブーを犯していしまったように、しまった。という顔を響子さんは作った。

 え?お酒の話だよね??

「あ、なるほど。そりゃ未成年には早いですもんね」

「そうよ~。男の子でもあれは大切にしなきゃ」

 その通りだろう。アルコールは体に毒だもんな。


ってことはアレっていうのは......


「----うん。童貞」

「----あぁ。肝臓......って、えぇ!?」

 ど、道程? まさか、童貞!?


「あれ?肝臓って? まぁいっか。それじゃあ行って来まーす」


 そう言うと響子さんは軽快な足取りでアパートを離れていった。


「......彼女は天性の男たらし。純粋な青春を歩みたかったら、響子とは距離を置くべき」

「そ、そうですか......」


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