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ボクたちの使命

神は創造の主。

あらゆる理の根源を創りだす。零から一を生み出す、無限の者。


天使は循環と調律の使者。

神の創りし一を、育み世界を作る。一を十に廻していくもの。


堕天使は破壊の使者。

神の創りし一を、天使の育みし十を、破壊し零に還す者。世を呪いし、穢れの天使。


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創世四千八百億三千七百三十六年


「三千七百六十四世界、現時点イレギュラー無し………完成です」

その日、天界では割れんばかりの歓声が起こった。



完全なる理想の世界の製作。

遥か昔、退屈な日々に飽々していた神が、退屈しのぎに下界に降りた。

神はその降り立った世界で、ある下界の読み物に、出会った。

神はそれを大変気に入り、思った。


こんな世界を造ってみたい、と。


神は失望していた。自分の造る世界はいつだって『夢』が溢れている。否、溢れてしまっている。

自分が造る世界は、いつだって同じ、変わらない。自分の思い通りに成らない。

自分も下界の者達のように、夢のつまった世界を造ってみたい。


自分の望んだ世界を創ってみたい。




それから、約四千八百億年後。神の望んだ世界は完成した。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

世界の誕生の地、『天界』

この世で最も美しい、と称されていた楽園が地獄と比喩されるようになったのは、『理想の世界製作』が始まってからだった。

天界で下界の管理をしていた天使たちは、神の望みを叶えるため、『理想の世界製作』を開始した。しかし、それは困難を極めすぎていた。

神の望んだ世界は、下界のとある読み物通りに創らなければいけなかった。

そう、神は『物語の世界』を創ろうとしたのだ。


筋書き通りに世界を創る。

不可能を可能にするのに、永い時と、数多の命を使った。

そして、今日完成した。



「完成したのか……」

お祭り騒ぎになっている天界。

その光景を見て、とある堕天使は様々な思いを込めて笑った。

豊満な完璧な肉体は、あらゆる雄が一度は想い描いたであろう理想を体現させたよう。挑発的な真っ赤なルージュの唇は、優しげな顔立ちを妖艶に染め上げる。儚いはずの空色の瞳は不自然なほど彼女を強気に魅せ、腰まで伸びた金色の髪は神聖さを感じさせる。その妖艶な堕天使は足と胸を大きく露出させた黒いドレスを身に纏い、完璧な造形の顔を赤い仮面で隠していた。その格好は妖艶さよりも、茶目っ気を感じさせるものだった。

永かった、心のなかで呟いた言葉は何に対してだったのだろう。おそらく、たくさんの意味を込めた。

神妙な想いを悟られないように、笑みを張り付けた。心と表を裏返しの状態にするのはなれてしまった。世界の製作の為にも、そして、自分の為にも必要なことだったからだ。


否、必要なことだからだ。

まだ、全ては終わっていない。自分の仕組んだシナリオはこれから回っていくのだ。それを、悟られるわけにはいかない。


堕天使はいつも通り張り付けたような、わざとらしい笑みを浮かべ、近くにいた知り合いに話しかけた。

「カイルちゃ~ん、嬉しそうだね~」

自分に背を向けていた天使は、弾かれたように振り返った。そして、嫌なやつに会ってしまった、とでも言いそうな顔をした。

「ディアンナ…さん、いつの間に来たんだよ…」

「ずぅ~と君の背後にいたんだけどね~」

うんざり顔の後輩の天使に、ディアンナは嘘をつく。本当はこっそりと近づいただけだ。

何気ない小さな必要の無さそうな嘘でも、積み重ねて行けば『色眼鏡』や『先入観』などで、得たいの知れない自分を創ってくれる。この天界での自分のキャラは底の見えない道化師だ。あらゆる、ものを欺き騙して行く。そうでなくてはいけないのだ。

「カイルちゃんは素直に喜べないんだね~」

「ーーっ!…あんたには関係ないだろ!」

からかうように言葉を並べ笑うと、カイルは赤くなって顔を背けた。

天使らしくない乱暴な言葉だ、とディアンナは呆れた。普通、天使は、目上のものに対して敬語、な生真面目すぎる者が多い。どうして彼だけが堕天使のように野蛮になってしまったのかというと、過去に色々会ったとしか言えない。


堕天使や天使たちにとって、じゃじゃ馬のように働く地獄のような場所であった天界が、笑顔溢れる楽園に戻ったのを生きているうちに見れるとは思わなかった。

みんながみんな、仲がいい奴らも悪い奴ら肩を並べて喜んでいる。なんて感動的な光景だろうか。ディアンナは柄にもなく涙が出そうになった。

しかし、そんな感動は長く続かなかった。



「なにかご用ですか~?我が女神様、」

ディアンナは、何故か神様に呼び出された。

なにか自分はしたのだろうか?、と心当たりを探るが、残念なことに心当たりが有りすぎて分からない。とりあえず、キャラを崩さないように、道化師っぽく、胡散臭い笑みを浮かべ品のある礼をした。

目の前にいる神様はとても険しい顔をしていた。

「下界で…イレギュラーが起きた。」

呼吸が止まった。なんとか、張り付けていた笑みは崩さないようにした。しかし、三秒は硬直した。

必死に頭を動かし、神様の言った言葉を噛み砕く。


イレギュラー

それは、『理想の世界製作』で筋書き通りに世界を創るとき、その世界には要らない出来事、バグのようなものが起きることを言う。そして、それが起きた瞬間、世界製作失敗となる。


つまり、『理想の世界』でイレギュラーと判断されるほどのトラブルが起こった。

「…何が起こったのです?」

ディアンナは、理性を総動員させ、混乱状態を無理やり押さえ込んだ。しかし、声は若干震えてしまった。

「…私の焦がれた世界はあの時点で完成した。だから、それ以降イレギュラーが起きようとも世界を破壊して創り直すことはしないよ。」

創り直さない、その言葉に身体中を安堵が突き抜けた。

「ではイレギュラーとはまさか……」

「お前の仕組んでいたシナリオの方だ。完全に崩壊したよ。」

身体中が冷たくなったような気がした。

「元の状態にするには、一度世界を破壊し、創り直さなければいけないだろう。しかし、私の望んだ世界は完成した。壊すわけにはいかない。」

神様の声がディアンナには入って来なかった。もう、張り付けた笑みは、剥がれ落ちてしまっていて、情けない表情がむき出しになっていた。

「下界に行け、ディア」

ディアンナはうつむいていた、顔を上げた。神様は何を言っているのだろうか。

「…何故です?」

「シナリオを創り直せ、今ならまだ間に合う。」

本当に神様は何を言っているのだろうか。その世界でイレギュラーが起こってしまえば、やり直しが効かなく、シナリオを通りには成らないのだ。

「イレギュラーが起こってしまえば、シナリオ通りの筋書きに展開を戻す方向には、もう修正できない。しかし、お前の仕組んだシナリオの結果(・・)にはどうにか導けると想う。だから、今すぐ下界に行き新しい筋書きを創り下界の者たちを動かせ。そして、ヒロインに恋愛をさせろ。」

なるほど、新しい展開に導けば、まだ可能性はあるらしい。ディアンナの瞳に光が戻った。

「ただし、お前が下界に降りること、下界でしでかすこと、全て内密に行え。完成した理想の世界を、一羽の堕天使が掻き回そうとしているのだ。同族の者はともかく、天使は黙ってはいないぞ。」

天使は神様至上主義だ。絶対的な忠誠を神に捧げる彼らに、こんなことがバレたら自分は滅されるだろう。しかし、ディアンナはもう怖くなかった。

「ご安心を、我が女神よ。」

もう、いつもの道化師を取り戻していた。

「シナリオを仕組んだ時点、で掻き回すつもりでしたから覚悟はできております。」

「いつも思っていたが、気持ちの切り替えが不気味すぎるぞ、人格が変わってるんじゃないか?」

「ハハハハ、ボクはいつもこんな感じなので」

笑みを張り付け、喰えない顔で笑う。

「それに、天界の天使たちを敵にまわそうとも、希望があるかぎりボクは諦めませんよ。」

何処から取り出したのか、いつの間にか右手にあったシルクハットを被り、品よくお辞儀をした。そして、神に対して背を向け歩きだした。

「一羽で行くのか?」

「秘密りに動くなら、一羽のほうが都合がいいでしょう。…ああ、そうだ、下界についての情報を封鎖か偽装しといてくださると嬉しいです。バレたら、天使たちに殺されてしまう。」

「さっき、覚悟できていると言っていなかったか?」

「できれば、敵にまわさないほうが良いじゃないですか。それに、」

ボクがしでかすことを天使たちに知られるのは、神様たちだって都合が悪いでしょ?、と堕天使は歩みを止めて神様に向かって不敵な笑みを浮かべた。



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