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夏と僕  作者: 三笠言成
3/6

ルール04~05

いよいよ話が始まってまいりました。

04


本格的にここは異世界なんだなあと思いました。

 という小学生並みの感想しか出てこなかった。

 ……次にそらさんはどうしてこう平然といられるのかという疑問がわきあがったけれどそう言えば彼女は異世界慣れしているんだった。

「旅人ならあの国へ向かう前にあの国のルールを知っておいた方がええかのう…」

「ルール?というか、国!?」

 よく見たらそらさんも背中に冷や汗をかいていた。

 これ、彼女も異人種と話すこと初じゃないのか、と僕は思った。

「あそこ、国だったんですか。」

「そうじゃよ、王国じゃ。」

「王国……」

「出会ったよしみじゃ、軽くあの王国のルールを教えてやろう。」

「本当ですか!ありがとうございます。」

 ……文面だけ見たらとても親切なおじさん、というかブタさんだけれど顔がすごいニヤついているぞ豚。お前美人とおしゃべりしたいという下心しかないだろ。

「まず、あそこにははっきりとした身分があっての。」

 そのブタによれば、王、王族、貴族。そしてそのはるか下に兵士、農家、商人、その他、子供。という順列で身分が定められているそうだ。

「最後に旅人じゃ。」

「私たちは階級最下位なんですね。」

「そして大切なことじゃが。」

 ごくり、とそらさんがつばを飲み込む音が聞こえた。

「あの世界は、『人の想像が現実に起こる世界』じゃ。」


 ……聞き間違いかな。夢のような世界に聞こえたんだけれど。


「想像が、現実に?」

「そうじゃ。まあそれは実際に見たほうが早い。とはいえここはその国じゃないのでのう……」

「あ、いえいえ、助かりました、ありがとうございます!」

「ほっほっほ、礼には及ばんよ。」

 そういって豚は去っていった。

「ああ、最後にもう一つ。」

 豚は戻ってきた。

「あの国では本当に身分を尊重しておる。最下位であることは肝に銘じておいたほうが良い」

 そして次こそ本当に去っていった。


「ききき、緊張したああああああああああ」

 そらさんの絶叫が響いた。

「……慣れてないんですか。」

「慣れるわけ、ないじゃない!……まったく、少年も次は会話に参加してね。」

 僕は肩をすくめた。


05


 異世界で出会った異人種、二足歩行のブタによれば、あの王国は妄想が具現化する世界らしく、まだ実物を見ていないが故とても妄想することなどできないけれど、額面通りに受け取っていいのならそれは夢の世界だろう。

 それと、念を押すように何度も言っていたのが身分制度についてだった。僕とそらさんは旅人にカテゴライズされると思われるので、最下位であるといえるだろう。その階級がどう生活に影響するのか気になるところである。目上の人に逆らったら死をもって償え、とか言われるのであろうか。

「さて、あの門をくぐったらいよいよ『妄想が具現化する王国』らしいけど、準備は大丈夫?」

「はい、大丈夫です。」

 というか準備することなど何一つない。持ち物と言えば、およそ実用性がなさそうな雑貨を詰めた鞄だけであるし、心構えしようにも何かに驚くなどと言った感受性豊かな心は崖の上に忘れてきた。

 門の前に人はいなかった。不法入国やり放題である。治安は大丈夫なのか、と僕は心配になった。

「いや、門の向こうにもう一つ門があるよ。」

 なんと二重構造。

「なんででしょう?」

「きっとあれだよ。王国の中なら妄想が具現化するんでしょ。だから、国の外で対処するよりも国内で入国審査なりなんなりをした方が安心だということじゃないかなー。」

 なるほど、と僕は頷いた。

 真実はだいたいそらさんの想像通りで、門を一つくぐったところには簡易だが入国審査所みたいなものがあり、二人の門番が立っていた。

 二足歩行…というか、人型の犬である。青い警備員の服を着ていた。

「すいません、旅をしているものなのですが…」

 先ほど豚老人をみているためか、ずかずかとためらうことなくそらさんは話しかけに行く。

「旅のものか。名前はなんだ。何日滞在する予定だ。それだけここに書いてくれたらいい。」

 そういって犬は紙を差し出してきた。

「え、入国審査ってそれだけでいいんですか? もっと、持ち物検査とか。」

「もしかしてこの国を訪れるのは初めてか。いや、というよりこの国の噂すらも聞いたことがないのか。」

「ええと、妄想が現実になる国で、身分がはっきりしている、としか。」

「それだけで十分であろう。考えてもみろ。この国でなにか兵器を使い、テロ行為を起こそうとしたところで、そんなものいくらでも防ぐことができる。爆発をおこしたところで、爆弾が無いということにしてしまえばいいのだからな。それに、旅人は序列最下位だ。この国に入った者は誰でも現実を変えることができるが、しかし序列がより高位の貴族や兵士、それどころか農民や子供よりも身分が低いお前たちが、兵器などを使わずに、現実をかえてなんらかの犯罪行為をはたらこうとしたところで、この国の誰かに事象を上塗りされるだけだからな。わかったらさっさとその紙をよこせ。」

 早口でそうまくしたてられ、右から左に馬耳東風、ほとんど頭に入ってこなかったけれど、入国さえすめば、僕でも妄想を具現化することができる、ということはわかった。

 ……ぐへへ。

 そらさんが、滞在期間一週間と書き込み僕たちは夢の世界へと足を踏み入れた。


「さて。無事侵入できたわけだけれど、私たちは今から一週間でやらなければならないことが一つあります。」

「なんですかあらたまって。僕としては早く実験してみたいんですけど。」

「まあまあ、待ってよ。大切なことだからさ。」

 正直一番大切なことは妄想の具現化だと思―

「私たちはここに滞在する一週間で、元の世界にかえる方法を探さなければいけません。」

 わない。そっちの方が大切だった。

「え、もしかして無事に戻れる保証がないまま僕をこんな世界に連れてきたんですか?」

「いやいやいや。君、勝手についてきただけだよ…」

 それはそうだけど。

「大丈夫、今までいくつかの異世界に行ったことがあるけど、全部無事に帰れたから!」

「……信じますよ。」

「じゃ、さっきから気になっているであろう実験を、始めましょう!」

「ええ!」

 僕とそらさんはわくわくしていた。とても。

「じゃあ、まず僕から。うーん、じゃあ今暑くてのどが渇いてきたから。」

 僕は頭の中で、水を想像する。

 水、水。僕は今手に水を持っている……

 考えること数分。

「……何も起きないね」

「……ですね。」

「なにか呪文みたいなのを唱えないといけないんじゃないかな。だってそうしないと、頭の中で考えるだけでそれが毎回現実に反映していたら大変だよ?もう授業中にテロリスト入ってくることができないよ。」

「その妄想は確かに僕もよくしましたけど、きっと大丈夫ですよ。これからも学校に宇宙人を呼び出せます。」

「なんで?」

「さっきの豚老人が、そのことについて言及しなかったからです。もし発動条件があるのなら、言うと思います。」

「あって数秒の異世界人をどうしてそこまで信用できるの」

 それはあいつがそらさんの躰を舐めるように変態的な目で視姦していたからです。そういう煩悩で動く男は信用していいです。とは言わなかった。

「もしかすると、僕の想像した内容が悪かったのかも……いくら現実が変えられるとはいっても、無から有を作り出すことはできないのか……?」

「ねえ、私もちょっとやってみていい?」

「あ、はい。」

 そらさんがイメージを練っている間も僕は目を閉じ考える。

 水を想像しても水を創造はできなくて。そこまで考えたところで


地面が消失した。


「……って、ええ!ちょ」

 違う、地面が消えたのではなくて僕が浮いていた。

「浮いてる!僕今飛んでいる!?」

 なぜ。と思いそらさんの方を見ると、彼女の体が赤く光っていた。

「そらさん? 体が光っていますよ、というか僕が飛んでいるのはあなたのせいですよね!降ろしてください!」

「あはは、ごめんね。」

少女のような満面の笑みを浮かべている彼女の体の発光が終わり、僕の足もとに地面が戻ってきた。

 普通に怖かった。重力のありがたさを噛み締める。

「今私ね、君の体が浮かぶのを想像したんだ。そしたら体が赤く光ってきて、浮いた。」

「浮いたってそんな簡単に…」

 ここで僕に一つの考えが浮かんできた。

「無から有は作り出せないけど、現象は引き起こせる……のかな。」

「どういうこと?」

「僕はさっき水を作り出そうとしました。でもそれは叶わなかった。次にそらさんが『僕が浮く』という現象を想像したらその通りになりました。だからきっと、僕がここにホットケーキを出そうとしても何も出ませんが、そらさんを転ばそうとしたらできる、ということだと思います。」

「転ばされるのは困るけど、ちょっとわかったかも。あ、それじゃあ赤く発光した理由はどうしてだと思う?」

 これに関しては少し考えがまとまっていた。

「もしかすると、体が光るのは能力を発動する前兆じゃないでしょうか……? それなら、自分の妄想が現実に干渉しそうになったら取り消すことができます。思考を止めればいいんですから」

「ふんふん、なるほどね。じゃあ自分の体が赤く光ってきたら、思考を中断すればいいの。」

「そういうことじゃないですかね……あ」

「どうしたの?」

「あの、僕も一回やってみていいですか。」

「うん、いいよ。」

 さて読者諸賢お楽しみの時間である。


 僕は頭のなかで強く思い浮かべる。

そらさんのワンピースがはらりとおちる情景を。

服の構造上、落ちることはありえないので、この際仕方がない。肩のところ、千切れてください。

強く、強くイメージする。

脱げろ、脱げろ、脱げろ…

「おお、体が赤く光っているよ、やっぱり現実に起きるときは使用者の体が光る……う」

ここで不自然に言葉をとぎらせた彼女。しかし僕の頭にその理由を考える余裕はない。ひたすら想像する。

脱げろ、脱げろ、脱げろ、千切れろ、千切れろ

赤い光がいっそう強まった。まるで僕のイメージ力が二人分に達したかのように先ほどのそらさんの倍ほど辺りが輝きだした。赤く。

そして。


―そらさんのワンピースが

――はらりと

おち………………ない!

「なんでだ!イメージは完ぺきだったはず!」

「………やっぱり、相殺はできるようね。それは正反対のことを考えたからかな。もしかしてさっきの豚さんが言っていた身分制度って、ここに影響するのかも。」

 なにやらぶつぶつと呟いているが、僕は当分ショックから立ち直れそうにない。何がいけなかったのだろうか。

「ま、それは置いておいて。」

小さく嘆息する彼女。

目つきが突然鋭くなった。

「君さ。いま、私の服脱がそうとしたでしょ」

 な……

「いや、いやいや、まさか…まさかそんなバカみたいなこと考えませんよ」

「じゃあどうして『服が脱げない』っていう想像をしたら、君の発動しようとしたものと相殺されたのかな…ねえ、なんでかな?」

 相殺システムがあったとは。

「二人分光ったように感じたのは僕のイメージが強いからじゃなくて本当に二人がイメージしていたのね。」

「……ま、こんな夢のような力を手にした男子高校生なら仕方がない。許してあげるよ。」

「え!本当ですか!」

 僕は再びイメージを練り始める。

「さっきのことは不問にするだけで行為をすることについては許してないよ!」

 あわてて僕の思考を相殺するそらさん。

「あれ?ちょっと待ってください。今、僕とそらさんはまったくの正反対のことを考えたから相殺されましたよね。」

「うん。」

「例えば僕が、そらさんの妄想自体を上書きしようとしたら…つまり、『そらさんの妄想が具現化しない』ということを妄想したらどうなるんでしょう。」

「やってみましょう。」


 結果、僕の制服が脱がされていた。


「あくまで予想なんだけどね、きっとここで豚さんが言った身分がかかわってくるんじゃない?」

 身分制度。王、王族貴族が上位にいて、旅人は最下位という例のあれか。

「じゃあ、僕とそらさんは同じ身分だから、正反対のことを考えないとだめなのであって、王は僕たちの妄想を簡単に上書きしてしまうし、逆に僕たちは王のイメージしたことには逆らえない、ということですかね?」

「たぶんそうだね。」

「……」

 もしこの国で僕たちの滞在期間中にトラブルがあって、それに巻き込まれてしまったら、相当不利な立場でやっていかなければならないということか。

「あ、ちなみに私が今まで訪れてきた世界で、トラブルにあわなかったことは一度もないから。」

 きりっと言い放つ彼女。

 それは真ですか……

「とりあえずこの国のこと、少しはわかりましたね。」

「そうだね、じゃあ今晩泊まる宿でも探しに行きますか。」

 そう言って歩き出す彼女。

 ここで僕は一つの当然の疑問にぶつかった。

「あれ?すごい今更なんですけど、どうしてこの王国の人たち、異世界人なのに日本語をしゃべっているんですか?」

 あまりに日本語が自然だったから明らかに不自然だったのに見落としていた。

「ああ、彼らは日本語を話していないよ。」

 ん?

「私、家庭の事情でよく異世界に遊びに行くって言ったっけ?」

「あ、はい。聞きました。」

「私の家系に伝わる謎の能力の一つに、異世界言語も聞き取れる、というものがあるの。君は私の近くにいるからその恩恵をうけているってわけ。たぶんね。」

 この、ちょくちょくSFチックになるのはなんなのか。

「あれ?もしかして僕、そらさんの近くにいないとこの国の人の言葉わからないんですか?」

「ん?あ。うん。そだね。大丈夫安心して、この国で私、君とはぐれるつもりないから。」

「あ、ありがとうございます。」

「だから同じ部屋で寝ることになるけど、変なことしないでねー」

「安心してください、僕は漫画とかでよく見る安っぽいラッキースケベ、反吐が出るほど嫌いなんです。」

「それ男子高校生としてどうなのよ……」

「……あの、同室で寝たいという気持ちはあるんですけど、単純に『この国の言葉が分かる僕』を想像したら、一人でも生活できるんじゃ……」

 この画期的なアイディアを彼女はあっさり一刀両断した。

「それは無理だよ、さっき君を飛ばしたときにわかったことだけど、体が光っている間しか効果はないみたいだから。」

「ああ、なるほどです。」

「それにきっと、赤い発光は想像することの大きさによって強さが変わる―強い、突拍子もないことを反映さそうとすればするほど、光り方が強まるからさ。さっき服を脱がせた時よりも、君を飛ばしたときのほうが強く光ったじゃない。だから『この国の言葉が分かる』なんてしたらきっと自分でもまぶしいくらい光っちゃうよ。」

「光り方が変わるルールなんてあったんですね。」

 そうこうしているうちに、町のような集落のような場所についた。

 ちなみに国の外からも見えた大きなお城はまだ遠くにある。

 意外とここは大きい国だった。

 町に足を踏み入れる。

「ここはダームスタチウムという町です」

 足を踏み入れると、町民と思われる女性がこう言ってきた。人間だった。

「すいません、ここに宿泊施設はありますか?」

「そうですね……あそこに教会が見えますか?そこの左にありますよ。」

「ありがとうございます。」

 その女性は「ここは~」以外の言葉もしゃべれるらしく、親切にも宿の位置まで教えてくれた。

ダームスタチウムって、元素であったような。

 安定同位体がないとかなんとか聞いたことがある気がする。

 あれ?同位体?同素体?

「ところで、お腹すかない?」

 昼ご飯を食べていない僕にむかって答えの決まっている愚問を投げかけてくる彼女。

「すいています。」

「じゃあ、どこか食べに行こうか。」

「……宿と聞いたときにも思ったんですけど、お金持っているんですか?」

「お金は大丈夫。いっぱいあるよ。」

 見ると本当にいっぱい持っていた。


「へえ、珍しい旅人だと思ってつけていたが、結構金持っているなあ。お嬢ちゃん、悪いことは言わねえ。その金、寄越しな。」

 ここで僕たちは、普通に悪いことを言っている男に声をかけられた。


 異世界に迷い込んだ僕が最初に体験したトラブルは、わかりやすいカツアゲだった。


ありがとうございました


次回もすぐだと思われます。

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