運命の日 ~人間の約束~
スタートダッシュをかけようとダッシュで更新しました。
最初の五話くらいは毎日一話ペースであげたいと思います。
目覚める。
まだ外は暗く、寒い。
ムクっと起き上がり伸びをする。
そしてにやけてしまう。
何度来ても誕生日は嬉しいものだ。
少しずつ大人になっていく気がする。
もちろん大人になっていくのだが。
今日は八つの誕生日だ。
去年の七つの誕生日は、父が任務で出かけていたのであまり盛大に祝うことができなかったが、今年は違う。
父は今日のために任務を変わってもらい一日休みを取ってくれた。
それだけでも嬉しいのに、今日は昼から父さんが稽古をつけてくれるのだ。
父さんは強い。
家族だから贔屓しているのではなく、本当に強いのだ。
父さんの所属する守護騎士団は、国内の騎士団中でも頭二つは飛び抜けて強い。
その守護騎士団の団長補佐なのだ。
ちなみに団長補佐とは、団長、副団長に次ぐ階級で、一万をゆうに超える国内の騎士達の中でも三番目かそれに近い実力の持ち主なのだ。
そんな父さんに稽古をつけてもらう。
こんなに嬉しいことはない。
まだひっそりとしている家の中を静かに歩きながらそんなことを考えていると、父が起きてきた。
「おはよう、キリ。今日はやけに早いな?」
「おはよう、父さん。父さんに稽古をつけてもらえるのが嬉しくて
早く起きちゃったんだよ。ふふっ」
「言っておくが、一切手は抜かんぞ?
部下に稽古をつけるつもりでいくからな?」
「もちろん。全力で頑張りますとも」
「ははは!その意気でこい。
とりあえず朝ごはんだ。お母さんもすぐに起きてくるだろう」
「じゃあ、顔を洗ってくるね」
父さんは家では優しい。というより子供っぽい。
だけど仕事の話や戦いの話になると真剣な表情になる。
そんな父さんを俺はとても尊敬してる。
顔を洗う。
今は冬だ。つまり寒い。それもとてつもなくだ。
顔が凍りそうになりながら部屋に入ると、母が起きていた。
「おはよう、キリ。…顔真っ赤ね。」
「顔が凍っちゃうよ。すっごく寒い!」
「はいはい、暖炉のとこに行きなさい。
…お父さん。息子に場所を分けるぐらいしなさい」
「キリ、もう少し待ってくれ。お父さんも寒いんだよ」
「俺の方が寒いでしょ!半分半分だよ!」
「だから待てって「ジョエル?」怒らないでシェリー、すぐ変わるから」
こんな感じで母さんの尻に敷かれてる状態だ。
普段の父さんは正直威厳なんて物は無い。
けどそんな所も好きなのだ。
朝ごはんを食べ終わってすぐ、父さんと母さんがプレゼントをくれた。
母さんは中級魔法書を、父さんは剣をくれた。
正直こんな物をくれると思ってなかったので、驚いていると
「いいか?キリ。よく聞きなさい。
お前は今日で八つになった。これからはある程度自分の身を守れるようにならないといけない。これまで母さんに魔法を教えてもらって、初級の攻撃魔法と回復魔法は使えるようになったんだよな?」
「うん。毎日練習してたから結構上達してるよ!」
「前からマハークさんに教わってる剣はどうだ?」
「道場で一番強いよ!」
「よし。じゃあ今日からお父さんがお前の師匠になって剣を教える。お母さんはこれからも魔法を教えてくれる。ただ、一つ。約束することがある」
こんな話をするのは初めてだ。
妙に興奮しながら、約束を聞く。
「魔法と剣は誰かを傷つけるためのものじゃない。あくまで自分と自分の大切な人を守るためのものだ。だから、お前から誰かを傷つけることはしてはいけない」
「俺は魔法と剣を誰かを傷つけるために使ってはいけない」
「うん。これだけは必ず守って欲しい。大切な人や物を危険から守る時にだけ使う。あとは人助けとかだ。暴力は怒りと恨みしか残さない」
「わかった。絶対に約束を守る」
俺は父さんの言葉を胸に刻み、守り通すと己に誓った。
運命の日の始まりだった。