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そんなこんなで深夜になると、ギャンブルの輪も無くなり、店じまいとなる。
酒臭いテーブルと、床で寝ている客を片付け、店の明かりを消す。
しかし、僕の仕事はまだ終わらない。
「奴隷、明日の朝までにジャガイモの皮500個剥いとけ。じゃあな」
店長は、明日の仕込みを全て僕に任せて自宅へと帰る。
いつものパターンだ。
僕は調理場の椅子に座り、ナイフ片手にジャガイモと格闘を始める。
現在、午前三時。
店長は、毎朝七時頃に店に来るので、四時間で500個のジャガイモを剥くことになる。
とはいえ、もう十年ぐらいやっている手馴れた作業だ。
今では皮を剥くのに、一個十秒もかからないだろう。
しかし、ロクに睡眠もとらず、客と店長に殴られ続けた体は応えていた。
「……ちょっと休憩しようかな」
手からナイフを離し、冷蔵庫を開ける。
営業時間外のみ、冷蔵庫を開けて空腹を満たすことが認められる。
もっとも残っている食材なんてひどいものだが。
「ガチガチに冷えたパンに……パセリの欠片……それと調味料しかない」
後は水道の水だけだ。
まあ、スープぐらいなら作れるだろう。
もっともベースをとる材料なんてないから、調味料を湯で溶いただけの物だけど。
とりあえず、水の入った鍋を火にかけ、ジャガイモをまた剥き始める。
鍋を沸かすバーナーの音と、シャリシャリとしたナイフの音が響く。
しかし、それに混じって微かに、
『ガサッ、ゴソッ、』
というゴソゴソした音が聞こえてくる。調理場にある裏口の扉からだ。
そういえば、裏口には残飯を捨てるゴミ箱が出しっぱなしであることにそこで気づく。
(野良猫が残飯でも漁っているのかもしれない)
以前、ゴミ箱が猫に倒されているのに気づかず、店長に殴られた記憶を思い出した。
なので、僕は、猫を追い払おうと裏口の扉に手をかけた。