表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/23

- 21

 全くの偶然か、それとも彼女の計算の内だったのかは分からないが、

 裏口の前には衛兵が乗ってきたであろう馬が放置されていた。

 しかし、僕は乗馬の技術がないので一頭の上に二人がまたがり走り出す。

 まだ騒ぎが広がらない夜のうちにヒッソリと国を抜け、

 日が上る頃には見たこともない平原で彼女と肩を並べて朝日を見ていた。

 そんなことしている時間があるのか、と聞かれれば無いのだが、

 束の間の休息を楽しめるぐらいの心の余裕が僕にあった。

 不思議と冷静だったのだ。

「それで、どこへ逃げるの?」

「……どこがいい?」

「そうだな。もう料理が作れればどこでもいいかな」

「奴隷なのに?」

「うん。奴隷でも」

「……そうね」

「でも、まだ良く分からないんだ」

「何が?」

「全部。僕のこと、今のこと。そして、君のこと。まだ分からない」

「……」

「一体、君は誰なんだい?」

「私も……ただの奴隷。少し環境が違ってただけ」

「そっか。似たもの同士だったのか」

「でも、もうアナタは奴隷じゃない」

「えっ?」

 彼女は、僕に店長のカーストカードとサラシに包まれた包丁を渡してきた。

 カードには、『男性・料理人』の表記。

 そして、サラシをはずしてみると、実に綺麗な銀色の刃が朝日を反射した。

「砥いでおいた。アナタは料理人。今日から」

「……これっていいのかな?」

「大丈夫。そうだ、アナタのカード頂戴?」

「これ?」

「うん。ありがと」

「何に使うの?」

「……秘密。ところで、髪を揃えてくれない?」

「髪?」

「髪が不揃いなの。これで揃えて」

 そう言って彼女は、僕にナイフを渡して背中を見せた。

 衛兵にスッパリと斬られた後ろ髪が、片寄ったVの字になったままだ。

「上手くできる保証はないけど、いいの?」

「いいよ」

 僕は、手探りでなんとかナイフを動かす。

 ナイフの切れ味が良かったせいか、思ったより簡単に揃えることができた。

 出来上がり、綺麗なショートヘアの彼女がこちらを向く。

「……ちょっとは見える?」

「何に?」

「……いずれ分かる」

「了解。そろそろ行こうか」

「ええ」

 そんなこんなで僕たちを乗せた馬は、平原を越えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ