プロローグ
カースト制(職業世代襲名制)が支配する国、イストレ。
貴族の子供は代々貴族を、兵士の子供は兵士を、羊飼いの子供は羊飼いを。
そして、奴隷の子供は代々奴隷を。
人々は、己が生まれた瞬間に、定められた運命を背負って生きていく。
それが、カーストという制度。
イストレという国に唯一ある風習だ。
そんなイストレの外れに一軒の酒場がある。
その店の名物は、荒くれ者同士の喧嘩、カードのギャンブル、下品な会話。
いかにも場末の酒場といった店内には、職にあぶれた航海士、飲んだくれの傭兵が集まり、ジョッキに入った薄いラムを浴びるように飲んでいる。
酒場は、ガランという名のオヤジが経営しているが、こちらも客種と変わらずひどい。
客同士が喧嘩すれば止めるどころか一緒に騒ぎ出し、気に入らない客を平気で殴りつける。この店主にしてこの店ありといったところだろうか。
そんな店の中で、唯一『まとも』、と言っていい人物がいる。
ガランが十年以上前に市場で購入した一人の奴隷少年だ。
それからの間、酒場の従業員として朝から晩までタダ働きさせられている。
もちろん、少年に対して給料が支払われるということはない。
与えられるのは最低限の食料と、最低限の寝床だけ。
なぜなら、彼の職業は奴隷だから。
奴隷の親の元に生まれた、生まれつきの奴隷だからである。
しかし、少年はそのことに対して何も反応を示さない。
むしろ、生きているだけで幸せだ、とすら思っている。
そんな少年は、一人の少女と出会う。
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