第6話 恋
実際に会い、お互いに惹かれあう紀子と一也。
「店長、どうしたんですか?」
「え?」
「なんかいいことあったみたいですね」
「まあね」
会社に戻ると、たくさんの仕事が待ち受けていた。それらを一つ一つこなしながら、ふと一也は紀子のことを考えていた。思っていた通りのやさしい女性だったし、一緒にいて疲れない人だと思った。それに、突然腕に抱きついてきたりするところが、とてもかわいい女性だと思った。
一息ついたところで、メールしようと携帯を手にした一也は、先に紀子からメールが届いているのに気づいた。『今日はありがとう。とても楽しかったです。お仕事がんばってくださいね(^^)〜☆』一也はとても嬉しかった。そして返信を送った。『こちらこそありがとう。のりちゃんがとても素敵な女性で感激しました。これからもよろしくね(^^)☆彡』
その夜、紀子はなかなか寝付けなかった。ずっと、今日初めて会った、仲島一也という男性のことを考えていた。
(一目惚れっていうのかな、こういうの)
紀子はフーっと深いため息をついた。ベッドに横になりながらも、完全に頭の中は覚醒していた。
冷蔵庫から缶ビールを取ってきて、ベッドに座った。ラリーの『スリープウォーク』がかかっている。さっき、棚から探し出してかけたのだ。時計はもう11時を回っていた。
(もう寝なくちゃ)
そう思いながら、携帯をふと見ると、いつのまにかメールが来ていた。一也からだった。
『のりちゃん、起きてる?今、松井がホームラン打ったよ。ゴーゴー松井、だね!』そういえば、野球ファンだって言ってた。確か、サッカーも好きだと言っていた。紀子は、そんな子供っぽさのある一也を、とても新鮮に感じた。同時に、なぜか遠い存在にも感じた。
メールの返事に困った。なんて送ったらいいのか考えた末に、『松井のホームラン、すごいね!』とだけ送った。すると、程なく返信が来た。『今日の松井は快調快調〜!好きだよ、のりちゃん(^^)〜☆』ハートマークの絵文字付だった。
(もしかしたら酔ってる?)
お酒が好きだと言っていた。当然、飲んでいる可能性が高い。紀子は、なんて返信しようかまた悩んでいた。こんな夜中にメールが来たのは初めてだった。
一也はご機嫌だった。紀子との新しい出会いが彼を変えた。実際に会ってみて、紀子への思いがまた深くなった。大切にしようと思っていた。決して迷惑をかけたくないとも思ってた。彼女の生活を守りながら、でも、自分と会っているときには、本当に楽しい幸せな時間を過ごさせてあげたいと考えていた。
ほろ酔い気分で、テレビを見ながら、一也はいつの間にか眠ってしまっていた。
そんなことはぜんぜん知らず、ずっと紀子は悩んでいた。
(返信、なんて送ろう・・・)
どんどん頭が冴えていくのを感じた。メールを打っては消し、打っては消し・・・。結局、ありきたりの文章になってしまった。『〜私も仲島さんが好きです』
しかし、いくら待っても一也からの返事はとうとう来なかった。時計の針は、ちょうど1時をさしていた。
(きっと眠っちゃったんだわ)
そう思いながら紀子は、携帯をしまい、飲み干した缶ビールの空き缶を台所に捨てに行った。そして、ベッドに戻ると、また深いため息をついた。
(なんだか、振り回されてるみたい・・・)
そう思いながらも、胸の奥がキュンとした。その瞬間、紀子は、久しぶりに『恋』をしている自分に気づいた。
メールのやり取りも、親密になりつつある二人。でも、同時に、恋の切なさに戸惑い始める紀子だった。