第2話 出会い
出会い系サイトで知り合った紀子と一也。約半年のメール交換の末、やっと、実際に会うことに。
初めての出会いは、確か半年前の暑い夏だった。メールフレンド募集の掲示板で、紀子のほうからメールを送った。
『はじめまして。音楽が好きです。よかったらメールください。のりこ』
傷心していた彼女は、優しい誰かにメールで癒されたいと思った。恋人と別れて約3ヶ月。やっと少し元気が出てきた頃のこと。彼を忘れたい一心から、出会い系サイトを利用しようと思ったのだった。たくさんいる男性の中から、何度も何度も吟味して、42歳、既婚者の彼を選んだ。そう、今、目の前にいる『仲島一也』という男性を、紀子は選んだのだった。
3日後、返事が返ってきた。『始めまして。メールありがとう。とっても驚きました。よかったら、僕の新車のジャガーで一緒にドライブでもしませんか? 一也』
「・・・ねえ、のりちゃん、どうしたの?」
「あ、ゴメンナサイ、ボーっとしちゃって」
出逢った頃の事をいろいろ考えていたら、ボーっとしてしまったのだった。あれからもう半年。ずっとメールのやり取りをしてきた二人。でも、実際に会うのは今日が初めてだった。
「のりちゃん、何にする?ここはパスタもおいしいんだよな。」
そういいながら、メニューを見ている一也を前に、紀子はまだ、信じられないような気分だった。確かにメールではのりちゃん、と呼ばれていた。何の違和感もなかった。でも、実際に呼ばれてみると、とても気恥ずかしかった。一也の声。電話でしか聞いたことのなかった声。意外と背が高かった。体格もよかった。さすがスポーツマンだと言っていた通りだった。メニューを見るよりも、どうしても、目の前の一也をじっと見てしまう紀子だった。
「初めて会った気がしないね。」
「そうね、どうしてかな。」
「きっと。ずっとメールで話していたからだよ。」
「そうかもね。」
一也は、嬉しそうだった。紀子は、というと、ちょっと複雑な気分だった。でも、そんな紀子の様子に、彼は全く気づいてないようだった。
一也は、ペペロンチーノのランチセットを二つと、パンの盛り合わせを一つ注文した。ペペロンチーノは紀子の好みのパスタだった。一也は合わせてくれたのかもしれない。
「確か、メールで言ってたよね、ペペロンチーノが好きだって。」
「よく覚えてるわね。」
「そりゃあ そうさ。僕はそういう人間なんだ。」
「そうなの、ありがとう。」
そんな会話を交わしているうちに、一也の携帯がなった。
「ちょっとごめんね。」
そう言って、電話をするために席をはずす彼を見て、紀子は好印象を持った。(マナー、ちゃんとしてるんだな。)
一人テーブルに残された紀子は、いろいろなことをあれこれ考えていた。一也とのこれからのこと。一体どうなっていくのだろう。いえ、どうしていこうと思っているのだろう。どうしたいと思っているのだろう。一也と紀子。それぞれがもう大人であり、それぞれが約40年近く生きてきた人生は、今までに一度も重なり合ったことがないのだ。たった今、初めて重なり合おうとしている。そう、たった今、この時間・・・。
程なくランチのパスタが運ばれてきた。そしてほぼ同時に、電話を終えた一也が微笑みながら戻ってきた。彼はある輸入車販売の店長をしていた。
「やあ、ごめんごめん、お客さんからの電話だったよ。」
相変わらず、さわやかな笑顔の彼に、紀子は正直、魅力を感じていた。(私、この人を好きかもしれない・・・)自分の思いとは裏腹に、少しずつ、一也に心を惹かれていく紀子だった。
実際に会った一也に、紀子は少しずつ心を惹かれ始める。しかし・・・