第1話 プロローグ
大人の切ない恋愛小説の始まりです。どうぞお楽しみください。
小雨の降る1月のある日。駅のロータリーに水色のジャガーが見えた。(もしかしてあの車?)ちょっとドキドキしながら、近づいてくるジャガーを見つめた。(そうだ、やっぱりそう・・)写真で見るよりも、もっと落ち着いた水色に見えた。雨のせいかもしれない。
頭の中が真っ白になりながら、助手席のドアを開けると、運転席の彼はさわやかな笑顔でこう言った。
「はじめまして。」
紀子は、シートに腰を下ろしながら、恥ずかしさで声が出なかった。
「緊張してる?」(勿論よ・・)
「お茶でも飲もうか。」
そう言うと、とある小さな喫茶店の駐車場に車を停めた。
「ここのケーキはとてもおいしいんだよ。」
そう言いながら、お店のドアを開けると、カウンターの席に座った。
「いらっしゃーい、なかちゃん」
「おひさしぶり。」
「本当、今までどうしてたの?・・・それより珍しいね、彼女と一緒?」
「まあねー」
紀子はただ恥ずかしかった。初めて会ったのに、『彼女』だって言われた。初めて会って、まだ会話すらしてないのに。せめてカウンターじゃなくて、テーブルに座ってほしいと思った紀子は、彼のジャケットの袖を引っ張った。
「え・なに?」
紀子は黙って窓際の席を指差した。
「あっちがいいの?しょうがないなー。マスター、席移動してもいいかな。」
「どうぞ。」
窓際の席に座ると、さわやかな笑顔の彼は、名刺を差し出した。『仲島一也』確かに本名だった。紀子はその名刺をじっと見つめた。
「これで信じてくれるでしょ?」運ばれてきたお絞りで手を拭きながら、仲島はそう言った。(別に、何も疑っているわけじゃないのに。ただ・・・)名刺を見ながら紀子は思った。(離婚さえしなかったらよかったのよ。)
注文したケーキとコーヒーが運ばれてくると、やっと紀子は口を開いた。
「ね、仲島さん、どうして離婚しちゃったの?」
「まあ、いろいろあってね。」
「そう・・なの・・・」
そう言うと、紀子はコーヒーをブラックのまま、一口啜った。(やっぱり会わなければ良かった・・・)紀子はとても気が重かった。
出会いの掲示板で知り合った紀子と仲島。半年もメール交換をした末に、やっと実際に会うことになった。果たして、これからの二人は・・・?