1.尾上道夫
とりあえず投稿。いまだに結末は考えていないので内容もタイトルもこれからがらりと変わるかもしれません。
まったりと確実に書いていきたいものです。
恐ろしい出来事とは何だろう。
死去か、超科学的なことか、それとも誰かを失うことか。本当のところはどれもこれもどうでもいいことなのだ。
我々、ひいては生物全てが恐れているのは自身の一切体験したことの無い、いわば完全な未知そのものではないのか。
――――柳嶋敦<未知は未来か>
狭い町だな。尾上道夫が八木峰町に抱いた感想はただそれだけだった。もともと生家のあった場所とはいえども、二十年たてばずいぶんと変わるものだ。見る影もなくなれば大した感想も湧かない。
思わず彼は空を見上げた。思い出に残る、かつての八木峰町の姿を探しての行動だったが無駄な行動に他ならなかった。
「あーあ、無駄足だったかなぁ」
投げやりに呟き、首を元の角度に戻す。どんなに見上げても視界に入る高層ビルが鬱陶しかった。かといって角度を戻したところでどうにかなるものでもない。
早くも尾上の心中には後悔が渦巻き始めていた。そうなると一気に手に持ったメモが恨めしく思えてくる。
「もとはと言えばこれのせいで、なあ」
メモには几帳面そうな字が列をなし、八木峰町の住所を示していた。尾上の字ではない。しかし彼はその字に見覚えはあった。
「柳嶋先生……」
筆跡の主たる恩師を小声で呼んでみたが、当然恩師が出てくることはなかった。
なぜ今になって恩師たる柳嶋敦が尾上に接触を図ってきたのかは彼には分からない。ただ一昨日、尾上の住む家にこのメモが投函されていた。
「どうすれば――」
「お困りかい、兄ちゃん。金くれるなら解決してやらんこともないぜ」
いつの間にかすぐ隣まで薄汚いホームレスが近づいてきていた。地面から生えてきたかのように突然の出来事だった。
「うわあっ!!」
「なんだい。そんなに驚くことねえじゃないの」
「あんたこそ、何だ! いきなり話しかけてくるんじゃない!!」
「俺は普通のホームレスさ。兄ちゃんみたいな困ってる奴から駄賃を徴収して日々生きてるのさ」
「だからと言ってだな……」
「じゃあ別にかまわんぜ? 兄ちゃんが困るだけだから」
にやにや笑いをホームレスは崩さないまま言いきった。はっきりとした物言いに尾上はつい頭に血が上る。
「信用できない奴に金を渡す馬鹿がいるか!!」
尾上はとにかく大声で喚き散らした。あたりの通行人が不審そうに彼に視線を向ける。彼が怒鳴り終え、我に返ったときには既にホームレスの姿はどこにもなかった。煙のような消え方だった。
通行人の不審そうな視線の理由を悟った尾上は吐き捨てるように言った。
「全く……。先生といいさっきの奴といい、ここは変人の集まる場所なのか?」
それでも虫の居所がおさまらない彼はもう一度、空を見上げてみた。相変わらず、高層ビルに侵食された狭い空は曇ったままだった。