誕生日~ルード・ディアナ・エリザ~
姿をみたのはおよそ1週間ぶりだった。
ラトルワ帝国にある。1番といっても過言ではない豪勢な部屋。
「誕生日?」
「そう。誕生日。」
「誰の?」
「私の。」
「なんで言わないの?」
「いーじゃない。ルードには関係ない。」
そう。私の誕生日なんて、これっぽっちも興味ないでしょうよ。
いかにも、めんどくさい。という感じで、ドカっと豪勢な椅子に座る態度のでかい男。
「関係なくはないと思うけれど。エリザ。飲み物持ってきて。」
傍にいた侍女に命令するこの男は、ラトルワ帝国の第一皇子だ。
「関係ないもの。どーせまたルヴィウスとアリスおっかけてたんでしょ?」
ほら。無言。それは肯定。知ってる。
自分は、この男の弟であるルヴィウスとその婚約者のアリスに比べたら、
どうでもいい存在だって。
「エリザもまた連れまわしたそうね?」
「悪いか?」
悪い。と言ったところで。この男は改善しない。だから言っても無駄。
諦めてる。どうせ。ラトルワにきた時から、諦めてる。
「あなたの勝手ね。だから、昨日、私が誕生日だって言ったからって」
「行かなかった。」
「へぇ。」
「知ってたら絶対にアレギレアにはいなかった。」
どの口がそんなことを言うのだろう。
「そんな戯言、私が喜ぶとでも?」
「喜ぶだろ?」
エメラルドの瞳が少し細められる。その表情は、誰をも魅了する。
その瞳は私だけに向けられる。
「うぬぼれんな。」
一瞬。流されそうになる自分にも叱咤する。
この男の言葉はつくりものだ。
グイッ。
視線を外した途端、やつの腕の中にいた。
「好きなものは?」
負けちゃだめ。負けちゃだめ。
近づいてくる視線をそらすが、久しぶりのぬくもりに、泣きそうになる。
「何が欲しい?」
私の誕生日すら。私の好きなものすら知らない。
それで、私はあなたの婚約者だと誰が信じるのかしら。
欲しい物なんてない。
欲しいモノは、
いくら欲しいと言ったところで自分が手にできるものじゃないから。
「いっいらないわよ。何もっ!」
「いらないの?」
ふわっと前髪を撫でられる。そのまま手が顔にくだる。
「いらない。」
かるく唇が重なる。
「そう。残念。」
「お茶をお持ち致しました。」
一瞬で、現実に戻る。エリザのいる前で、この男に触れていたくない。
変なプライドだった。
ルードから離れると、明らかに不機嫌な顔になる。
「ありがとエリザ。一緒に飲もう?」
「え。。。でも。。。」
自分の思い通りにいかないことには、腹を立てる。
世の中は、すべて自分の思い通りだと思っているバカ。
半分以上、それは本当なのだけれど、この思考は否定したい。
「失礼いたしますわ。」
「あっディアナ様!」
「ほっとけばいいよ。エリザ。」
バタン。
大きな音をわざとたてて外に出る。
ばかみたい。そう。ばかみたい。
一言でも良かった。
ルードにおめでとうと言って欲しかった。
自分の名前を呼んで欲しかった。
悔しい。
私は、エリザにすら勝てない。
それでも、たまに貰えるぬくもりに。
自分はとらわれている。
ラトルワ帝国、第一皇子ルードヴィヒ(21)の婚約者ディアナ(18)、エリザ(15)