「魔神」を拾ったら、なぜか懐かれてトップ配信者に!? 最強の美少女魔神と、巨大すぎるワンコ(フェンリル)と送る、バズりまくりの同棲ライフ!
「魔神」を拾ったら、なぜか懐かれてトップ配信者に!? 最強の美少女魔神と、巨大すぎるワンコ(フェンリル)と送る、バズりまくりの同棲ライフ!(1)
――ガチャ
(玄関が開く音)
「あ、カイト。おかえりなさい、遅かったね」
「今ご飯、温め直すね」
「あぁ? 飯? いらねーよ、叙々苑行ってきたから、腹いっぱいだっつの」
「え……でも、電話したじゃん。帰ったら食べるって」
「しつけーな! だいたいお前の飯、貧乏くせえんだよ」
ガシャーン!!
「……おいソラ。片付けとけよ」
……………
………
……
…
.
◇
【未踏破区域・最深部】
――ドサッ!!
「……う、う……生きてる?」
奇跡的に腐葉土の山がクッションになったのか、全身が痛いけれどスマホは無事で、顔を上げるとそこは広大な地下空洞で、天井には青白い光苔が輝いていた。
――と、その時だった。
グルルルル……
「ひっ……!」
目の前に銀色の壁があり、見上げるとそれはバスより巨大なモフモフの狼で、金色の瞳がゴミを見るような目で私を見下ろしており、腰が抜けて声も出ないまま、私は終わったと悟った。
「……おい、フェン! うるさいぞ」
鈴を転がしたような声がして、狼の足元の瓦礫の玉座に一人の少女が座っており、透き通るような水色の髪と血のような紅い瞳に、ボロボロの黒いドレスを着ていて、人間じゃない肌の白さと角が生えていた。
「……お前、、、いい匂いがするな」
「えっ、こ、このボディソープ?」
「そうでない。そのポケットの中だ」
少女が指差したのは私のポケットで、中に入っているのはさっきコンビニで買った半額の焼きそばパンだった。
「こ、これ……ですか?」
「ヨコセ」
――シュバッ
残像が見える速度で奪い取られ、その角の少女はビニールの袋ごと食べた。
「……っ!?」
モグモグ。ゴックン。
(*´ч`*)
「美味い……!! なんだこれは。魔界の珍味より濃厚でジャンキーな味だ……」
「あ、あの〜 それは炭水化物と……」
「エネルギーの塊か!」
少女は私の目の前まで顔を寄せてきて、甘い匂いがした。
「人間。お前、名は?」
「……ソラ、です」
「そうか、私はティアグラ。これはフェン」
ティアグラは私の手にあるスマホを覗き込んだ。
「で、ソラ、その光る板はなんだ? さっきから動いているが」
「え?」
画面は暗転しておらず、カメラは生きていて、バッチリ映していたのは絶世の美少女魔神と伝説級の巨大狼だった。
【コメント欄】
: え
: ファッ!?
: なに今の
: 犬でかすぎんだろwww
: CG?
: いや今の動きCGじゃ無理だろ
: 捕食シーンくる?
: 詳しく
: この美少女だれ?????
(視聴者数:50 ↗)
「あ……」
コメントが流れている。
「これか? これが面白いのか?」
ティアグラはニヤリと笑い、私の肩を抱き寄せた。
「よくわからんが、これでお前が喜ぶなら。協力してやる」
カメラに向かって、魔神はピースサインを作った。(*^^)v
「我らを崇めよ。人間ども」
◇
「おいソラ、もっとないか? さっきの『エネルギー』だ」
「あ、えっと、もうないです。地上に戻れば、もっと美味しいものがありますけど……」
「……地上? 外、か……そうか。『もっと美味いもの』が、あるのか」
ティアグラの全身からドクンと空気が歪むほどの魔力が膨れ上がり、彼女はただ右手を掲げた。
――パチン( ・д・)⊂彡☆))Д´)ウッ…
指を鳴らす音が響いた瞬間、ドゴオオオオオオオという轟音と共に閃光が走り、目を開けると岩盤も封印魔法陣もすべてが消滅して、ぽっかりと青空が見えていた。
「ふう、久しぶりのシャバの空気だ。行くぞ、ソラ・案内しろ」
「は、はいいいッ!! ……あ、でも待ってください、フェンが!」
バスより巨大な狼はどう考えても地上で運用できず自衛隊が出動するレベルの騒ぎになるのは確実だったけれど、ティアグラは面倒くさそうに「チッ」と舌打ちをした。
「おいフェン、縮め」
――ボンッ!.。oO
白煙が上がると、そこにはモフモフの真っ白な大型犬、サモエドのような姿になったフェンが「ワンッ!」と愛らしく鳴いていた。(ミ ´•ㅅ•`ミ)
「質量保存の法則を無視した高等魔法だ。感謝しろよ、駄犬。……よし、行くぞ」
ティアグラが私の腰を抱くとふわりと体が浮き、私たちは光の矢となって地上へと飛び出した。
◇
【ソラの自宅・1DK】
「狭いな。」
築40年、家賃3万5千円の万年床と配信機材だけの部屋にボロボロのドレス姿の美少女と巨大なモフモフが鎮座しており、部屋の占有率は限界を迎えていた。
「す、すみません……底辺なもので。」
「まぁ、良い。寛がせてもらおう。何か楽にできる着替えは無いか」
私はクローゼット代わりの段ボールから比較的マシな黒のパーカーとショートパンツを取り出して渡そうとしたけれど、ティアグラは躊躇なくその場でドレスを脱ぎ捨てた。
「ひゃああああっ!? ちょ、ちょっと待ってください!!」
「ん? 何を慌てている。同性だろう。……それともソラ、お前、私の体に興奮したか?」
「し、してませんッ!! とにかく着てください!」
顔を真っ赤にしてパーカーを押し付けると、ティアグラは「うぶな奴だ」と笑いながら袖を通し、ダボッとしたパーカーから伸びる白くて細い足は魔性の魅力を放っていた。
「で、ソラ。約束の『美味いもの』はまだか?」
「あ、はい。今ウーバー頼みます……」
(今月の食費……さよなら)
スマホを操作する。と、通知が止まらないことに気づく
《SNS通知:99+》
《チャンネル登録者数:2000人突破》
《DMが届いています》
「すごい……バズってる……」
まだ夢じゃない。さっきのアーカイブ、切り抜き動画が拡散されている。
【速報】底辺配信にガチの魔神降臨w
【神回】この美少女は何者か!?
【特定班】場所は始まりの洞窟最深部か?
「ほう。人間どもが騒いでいるな。」
背後からティアグラがぬっと顔を出し、アゴを私の肩に乗せてきて、その重みと体温に私は震える手で画面を見つめた。
「ティアグラさんのおかげです。ありがとうございます」
「礼には及ばん。お前は私に飯を食わせる。私はお前の『数字』を稼ぐ。……共犯関係、というやつだろ?」
「共犯……」
「そうだ。私は退屈を殺したい。お前は現状を変えたい。利害は一致している」
ティアグラが私の手を取り、指を絡ませる。いわゆる、――恋人繋ぎをしてくる。
「契約成立だ、ソラ。お前は私の世話係だ。せいぜい私を楽しませろよ?」
――ピンポーン
「来たか! メシ! 私の糧!」
パッと手を離して玄関へダッシュする魔王と犬の後ろ姿を見ながら、私と最強の居候たちとの奇妙な同棲生活が始まった。
◇
翌朝、目が覚めると、私はティアグラの抱き枕にされていた。
「ん……ソラか。腹が減った」
と起きてきた彼女に私はトーストと目玉焼きを出した。「なんだこの薄っぺらいパンは」と文句を言いつつも完食。とりあえずは満足して頂いた様だった。
ふと、スマホを見ると私のチャンネルは登録者数は3500人を突破しており「この美少女だれ?」「合成?」というコメントで溢れかえっていた。
「ティアグラさん、今日、この後もう一回、配信していいですか?この『熱』があるうちに、説明配信をしたいんです」
「説明? 私が最強の魔神だと言えばいいのか?」
「だめです。だめです。そこは、『海外から来た凄腕のコスプレイヤー』という設定でお願いします」
「偽物を演じろと言うのか。この私が」
「ツノも尻尾も精巧な作り物ってことで……ダメですか?」
「ふん……だが、面白い。人間どもを欺きながら、堂々と真実の力を振るうわけか。最高の余興だ」
解釈がポジティブで助かったと思いつつも配信を開始!
【コメント欄】
: きたあああああ
: 待機
: 座席確保
: 昨日のあれマジ?
: はよ映せ
: 釣りだったら許さん
(視聴者数:2,000 ↗)
「えっと、昨日の配信、お騒がせしました。m(_ _)m 昨日のあれは『キャラ設定』で! 本当は……ほら、ティアグラさん、自己紹介お願いします!」
「……待たせたな、下等生物ども」
「ち、違います! こすぷれいやー、です!」
「ふん。私はティアグラ。……海外から来た、こすぷれいやー? だ」
【コメント欄】
: ファッ!?
: ガチで美少女じゃん
: 声もいい
: 「下等生物」助かる
: キャラ作り込んでるなww
: そのツノ本物?
: 質感エグい
(視聴者数:3500 ↗)
棒読みすぎて終わったと思ったけれど、意に反してコメント欄は大盛り上がり。ティアグラがカメラに顔を寄せて「この世界のすべては私の庭になる」と圧倒的な「圧」で宣言すると、画面が赤や黄色のスーパーチャットで埋め尽くされた。
「えっ……ご、5万!? 私の月収……」
「なんだ、このカラフルな帯は?」
「お金です。ティアグラさんの『演技』が凄いって、褒めてくれてるんです」
「ほう? 人間にしては殊勝な心がけだな」
ティアグラは満足げに頷くと私の肩をグイッと引き寄せ、頬と頬がくっつく距離でカメラに向かって独占宣言をした。
「だが勘違いするなよ。ソラは私のもの(オーナー)だ。貢ぐのは許可するが、触れるのは許さん」
(え? さっきの話じゃ、私がオーナーって話だったかと…… ま、どっちでもイイけど……)
◇
一瞬で数万円が積み上がり、私たちはそのあぶく銭を握りしめて駅前のショッピングモールへ向かった。
◼️タイトル:相方の衣装みんなで決めたい
「はーい、ソラです! 今日はティアグラさんの『戦闘服(地上用)』を選びに来てます。でも、私じゃセンスなくて……」
カメラを試着室に向けて!
「みんなに決めてほしいんです! アンケとります!」
〜アンケート機能を使用します 〜
/*説明しよう!アンケート機能とは、コミュレベル25という『生主なまぬしの壁』を超えた選ばれし者のみに許された、憧れの神器じんぎなのだ!*/
《Q. ティアグラに着てほしい衣装は?》
① ゴスロリ(黒系)
② セーラー服(清楚系)
③ 彼シャツ(ぶかぶかパーカー)
【コメント欄】
: ①一択だろ
: 魔王ならゴスロリ
: いやギャップ萌えで②
: ③は至高
: 全部買え
: 全部買え
: 全部買え
《投票終了》
【結果発表】
① ゴスロリ: 65% (WIN!)
② セーラー: 20%
③ 彼シャツ: 15%
「……圧倒的ですね。わかります。①でいきます!」
「なんだこのヒラヒラした拘束具は。動きにくいぞ」
「似合います! 最強です!」
「そうか? まあ、ソラがそう言うなら着てやる。……満足か? 愚民ども」
ドォォォォ―――(゜д゜)―――ン!
【コメント欄】
: うおおおおおおお
: ありがとうございます!!
: 踏んでください
: スクショした
: スパチャ投げるわ
: ¥10,000
: ¥50,000
(視聴者数:5000 ↗)
一瞬で、服代が回収された。
◇
【武器屋・ハンターズギルド併設店】
次は、私だ。ショーケースを見る。
『ミスリルの短剣』:¥ 250,000
『隠密のクローク』:¥ 150,000
今までの私なら、一生手が届かなかった装備。でも、今は……一括払い⭐︎
「ほう。少しはマシな装備になったな」
「はい。……もう、荷物持ちじゃないですから」
新しい装備を羽織ると体が軽く、Fランクの逃げるだけの私じゃなくて最強の相方がいる。今ならどこへだって行ける気がした。
――と、その時だった。
《Kaito〔スターダスト〕からメッセージ》
▽ Kaito〔スターダスト〕新着
コラボ、してやんよ。
明日の10時、
中級ダンジョン「黄昏の廃坑」な。
拒否権ねーからw
◇
「どうした……ソラ。顔色が悪いぞ」
――――スッ
横から、白い手が伸びてきてスマホが奪われた。ティアグラが画面を覗きこみ、メッセージを見た瞬間、――金色の双眸が、細まった。
「ふん。『命令』か。この私(の所有物)に対して」
「行くぞ、ソラ。支度をしろ」
「え……? 行くって、コラボにですか? だ、だめです! あの人たちは……」
「ソラ。お前は誰の所有物だ?」
(えっ…契約ではティアグラさんが、私の所有ぶつ……だったはずだけど……この際、細かいことはいっか)
「わたしはティアグラ、さんの……」
「そうだ。私のものに手を出そうとする愚か者がいるなら、躾が必要だろう? 顔を見に行こうか。その『カイト』とやらが、どれほどの絶望に耐えられるのか」
……ゾクリとした。カイトへの恐怖じゃない。この魔人の「本気」に対する、畏怖と――期待。私は震える手で、メッセージを返した。
分かりました。行きます。[送信]
◇
【中級ダンジョン「黄昏の廃坑」・入り口】
「ようソラ。遅えよ」
集合場所にはすでに人だかりができていて、Sランクパーティ『スターダスト』の最新鋭の魔導アーマーや取り巻きのファンたち、そして専属スタッフのカメラクルーがおり、私とは住む世界が違う圧倒的なオーラに足がすくんだ。
「胸を張れ。お前の後ろには、私がいる」
白いゴスロリドレスを着たティアグラが優雅に歩き出し、周囲の視線が一斉に集まる中、カイトの腕に絡みついているピンク髪の少女ルナが駆け寄ってきた。
「あ〜っ! ソラせ・ん・ぱ・い! お久しぶりでぇ〜す。すごぉい、新しい装備ですかぁ? ……あ、でもそれ、『型落ちのセール品』ですよね? ドンキで見ましたぁwww」
クスクスと笑う悪意のジャブに言葉が詰まり、ルナの視線がティアグラに移る。
「で、こっちが噂の『魔王ちゃん』? へぇ〜、『近くで見るとメイク濃いですねぇ』。あ、そのツノ触っていいですかぁ?」
「……気安く触るな」
「ひっ……!?」
空気が凍りつき、ティアグラの一睨みだけでルナの顔が引きつって後ずさり、カイトが慌てて「おいおい、挨拶代わりに脅しかよ?」と割り込んできた。
「時間だ。配信始めるぞ。今日の企画は『新旧メンバー交流戦』だ」
「ソラ、お前は前衛な。タンク役やれ」
「えっ……? 私、隠密スキルしか……」
「あ? Fランクが口答えすんなよ。俺らが後ろから魔法で援護してやるから。……感謝しろよ? Sランクの俺らと組めるんだからな」
ニヤニヤと笑う取り巻きたち。
拒否権はない。これは「コラボ」ではなく「公開処刑」だ。
――念話
(ソラ。今は従っておけ。……舞台は、深いほうが面白い)頭の中に、声が響いた。
(絶望の準備はいいか? 人間ども)そう聞こえた気がした
《配信を開始します》
◼️タイトル:【コラボ】スターダスト×ソラチャンネル! 新旧メンバーで攻略!「黄昏の廃坑」・第1層
カメラのランプが赤く点灯する。
最悪で、最高の「復讐劇」の幕が上がる。
◇
【コメント欄】
: ソラちゃん緊張してるw
: そりゃSランクと並べばな
: ルナちゃん今日も可愛い!
: カイト様ー!
: 装備の格差えぐい
: 後ろのゴスロリ誰?
: ティア様だ! ティア様を映せ!
(視聴者数:12,011 ↗↗)
「きゃー、暗いー! 怖ぁい!」
「大丈夫だルナ、俺がついてる」
先頭を歩かされる私の背後でカイトたちがイチャイチャしながら歩き、殿をティアグラとフェンが歩いていた。
「あっ、ごめーん!」
――ドガッ
背中に衝撃。ルナが「躓いたフリ」をして、杖で私を突き飛ばした。
背中に衝撃が走り、たたらを踏む。目の前には、――深い竪穴。
「落ちる!」
――その刹那、「ガシッ」と首根っこを掴まれた。
「……足元がお留守だぞ、ソラ」
宙吊りのソラを片手で軽々と私を引き上げるティアグラ。
「おい。今の、ワザとだな?」
「え〜? 違いますよぉ! 足が滑っちゃってぇ。ソラ先輩がトロいから……」
反省の色ゼロ。むしろ、カメラに「ドジっ子」アピールをしている。
《来場者数が15,000人を突破しました》
《ランキング入り:『ダンジョン攻略』カテゴリで4位にランクインしました》
《注目の番組としてトップページに掲載されまし
【コメント欄】
: ルナちゃん大丈夫?
: 危なかったな
: ソラしっかりしろよ
: 今のわざとじゃね?
: え、突き飛ばしてなかった?
: 角度的に見えん
(視聴者数:16,342 ↗↗)
「……ふん」
ティアグラが指を鳴らす。
――パチン⚡️
――バチッ⚡️
「きゃっ!? 痛っ! なに!?」
ルナの足元で小さな静電気が弾けた。
「おっと、すまん。『演出』の設定をミスった」
真顔で嘘をつく魔王様。ルナが涙目で睨んでくるが、ティアグラは鼻で笑って無視した。
◇
【第5層・広間】
行き止まりの広場。妙に静かだ。
「よーし、ここらで派手な魔法見せちゃうか! ソラ、お前その中央に立ってて」
「え? ここでですか?」
「いいから立てよ。『囮』役、頼むわ」
カイトがニヤリと笑った。その手には、紫色の煙を上げる瓶。『魔物誘引香』
――パリンッ⚡️
私の足元で瓶が割れ、甘ったるい匂いが充満する。
――と、その時だった。
――ズズズズズズズズ……ッ
《クエスト更新:緊急任務》
[難易度:A (推奨Lv.60〜)]
《⚠ WARNING : MASS OUTBREAK》
[BOSS] オークジェネラル ... 1
[MOB] オーク ........... 33
[MOB] ゴブリン ......... 33
[MOB] スケルトン ....... 33
[ Total Threat: A (Fatal) ]
《来場者数が16,000人を突破しました》
《ランキング入り:『ダンジョン攻略』カテゴリで3位にランクインしました》
【コメント欄】
: え、数多くね?
: 計100!?
: これ演出?
: 湧きすぎだろ
: 事故?
: カイトさん魔法はよ
(視聴者数:16,342 ↗ ↗)
「ははっ! やべー、手元狂ったわ! ソラ、頑張って耐えろよ? 俺らが詠唱終わるまでな!」
嘘だ。助ける気なんてない。カメラには「必死に詠唱するフリ」をして、私たちがなぶり殺しにされるのを撮る気だ。
「きゃー先輩がんばってぇ! あ、カメラのアングルこっちのがいいかなぁ?」
絶望。四方八方、モンスターの壁。終わった。そう思った私の隣で、黒いドレスの少女が優雅にあくびをした。
「……なんだ。たかが『100匹』か?」
「ソラ。許可をくれ。……少し、掃除してもいいか?」
ティアグラが、その紅い瞳を楽しげに歪めた。
――ズシンッ!!
空気が爆ぜるような重低音。群れの奥から、巨大な戦斧を担いだ豚人族が一歩踏み出した。ただの足音じゃない。「死」の宣告だ。
「――ッ!? あ、あれ……ジェネラルか!?」
後方で、カイトの余裕が消し飛ぶ。「ただの嫌がらせ(100匹)」のつもりが、"全滅確定のボス戦"になっていることに、ようやく気づいたらしい。
「ふ、ふざけんな……! こんなの聞いてねえぞ! おいルナ、防御魔法……」
カイトが杖を構える手が震えている。
――と、その時だった。
《まもなく、ダンジョンクルーズが来ます》
「このタイミングでクルーズぅ」
カイトの顔色が蒼白になる。まずい。この状況(ボス戦)で晒しものはマズイ。
「おいルナ! 緊急離脱だ! クルーズが来る前にズラかるぞ!」
「えっ? でも配信……」
「映らなきゃバレねえよ! 通信トラブルってことにすんだよ!」
カイトが懐から水晶を取り出す。転移結晶。カイトが、私を見た。冷たい、ゴミを見るような目で。
「ソラ。お前、役に立つ時が来たな。そのまま死んで、時間稼げよ。――あばよ、負け犬」
――パリンッ
結晶が砕ける音。カイト、ルナ、取り巻きたちが光に包まれる。
「あはは! 先輩、バイバ〜イ!」
ε=ε=ε=ε=┏(゜ロ゜;)┛
――シュンッ
消えた。Sランクパーティ『スターダスト』、撤退。私と、ティアグラだけを残して。
そして……
《ダンジョンクルーズが到着しました》
《来場者数が17,000人を突破しました》
【コメント欄】
: クルーズから
: なんじゃこりゃあああ
: え、今カイトいなかった?
: 光って消えたぞ
: 逃げた?
: ソラちゃん置いてった?
: 見捨てた
: これ放送事故だろ
(視聴者数:17,008 ↗ ↗ ↗)
クルーズの視聴者がなだれ込んでくる。映し出されたのは、取り残された二人と、迫りくるボスの殺意。
――ブモォォォォォォォ!!
オークジェネラルが咆哮を上げる。獲物が減って、怒りの矛先はすべて私たちへ。100匹の殺意が、一点に集中する。
「あ、あ……」
腰が抜ける。死ぬ。今度こそ、本当に。震える私の肩に、手が置かれた。
「……賢明な判断だ」
え?
彼女は、逃げたカイトたちがいた空間を見つめ、つまらなそうに鼻を鳴らした。
「あのまま居座っていたら、ゴミごと消し飛ばすところだった。分別だけはあるようだな」
「て、ティアグラさん! 何言ってるんですか! ジェネラルですよ!?」
「お前の元飼い主に見せてやろう。奴らが尻尾を巻いて逃げ出した『絶望』が、私にとっては『準備運動』ですらないことを」
〜引き続きこの放送を視聴しますか? 〜
① [延長]
② [次へ]
【コメント欄】
: これ絶対ヤバいやつだろ
: wktk
: 延長よろ
: 延長
: 延長
: 逃げるな
: 見届けたい
(視聴者数:20,500 ↗ ↗ ↗)
《アンケート結果:
1.延長(100%)2. 次へ(0%》
《クルーズが延長しました》
《ダンジョン・クルーズが座礁グラウンドしました》
《イベント終了まで停泊します》
《来場者数が20,000人を突破しました》
ティアグラが右手を掲げる。その指先に、黒い稲妻がバチバチと収束していく。
「跪け」
――パチン( ・д・)⊂彡☆))Д´)ウッ…
指を鳴らす音。世界で一番、軽い音が響いた。
刹那。
――ズンッ!!!!!!!
爆発音ではない。空気が、空間ごと「プレス」された音。重力魔法『グラビティ・プレス』。悲鳴はなかった。あげる暇もなかった。ジェネラルも、オークも、ゴブリンも、スケルトンも、100匹の軍勢すべてが、一瞬で地面にめり込み――黒い粒子となって弾け飛んだ。
――シーン
静寂。更地になった広間。残っているのは、山のようなドロップアイテム(魔石)だけ。
《THREAT LEVEL: 0 (SAFE)》
《QUEST CLEARED: 緊急任務 達成》
「……は?」
私は呆然と、何もない空間を見つめた。現実感がない。
【コメント欄】
: は?
: え?
: 何が起きた?
: バグ?
: 回線落ち?
: いやジェネラル消えたぞ
: 一瞬でミンチになったように見えたが
(視聴者数:21,000 ↗ ↗ )
「ふん、少しはマシな運動になったか」
ティアグラが優雅に髪を払う⭐︎彡
⭐︎ 彡
⭐︎ 彡
⭐︎ 彡
無傷。服に埃ひとつついていない。やばい。これ、どう説明する? 魔神なんで指パッチンで殺しました――なんて言ったら、世界中が大パニックだ。
「あ、あはは……! そ、そうなんです! 今の、見ました!?」
私は引きつった笑顔でカメラに飛びついた。「うちの技術スタッフが作った、『最新ARエフェクト』です! 派手な演出でしたね〜! びっくりさせちゃってすみません!」
【コメント欄】
: え、演出?
: マジで?
: 今のARかよ
: リアルすぎだろwww
: 技術力高すぎて草
: カイト逃げたのダサすぎね?
: 演出だとしても、最後まで演じきれよw
: ソラちゃん一人(+AR)で勝てたじゃん
: スターダスト(笑)
: ジェネラルにビビって逃亡
: 置き去りにした事実は消えないぞ
信じた。いや、「魔法で一瞬で消滅させた」よりは、「超技術のAR」の方が、現代人にはまだ信じられる嘘。2万人の目撃者は、確かに見たのだ。魔神の圧倒的な「美」と。Sランクの無様な「逃走」を。
[配信終了]
《チャンネル登録者数:10,000人突破》
一晩で、大台。震える数字。私の「底辺」生活が今、完全に終わった。
◇
【回想・カイトの部屋(深夜)】
底冷えするフローリングの冷たさが、薄いカーペット越しに伝わってくる。
「おいソラ。お前はあっちの床で寝てろ」
「俺のベッドに入ってくんなよ」
「狭くなるから」
「……うん。わかったょ」
「おやすみ、カイト」
硬いょ……
寒いょ……
でも……
私にはここしか居場所がないから……
……………
………
……
…
.
◇
【現在・ソラの部屋(朝)】
「……ん、ぅ……」
目が覚める。背中が――痛くない? いや、重い。けれど、ものすごく温かい。
「……むにゃ。動くな、抱き枕」
狭い万年床の上で、ティアグラが私に手足を絡めて熟睡していた。ツノは隠してる方が好きかな。無防備で、可愛らしくて。
(あっち行ってろって、言われないんだ……)
じんわりと胸が温かくなる。と、ティアグラがぱちりと目を開けた。
「……おはよう、ソラ。しかし、この寝床はどうにかならんのか? 床板の硬さが直に伝わってくるぞ! 拷問か?」
不満げに腰をさする魔王様。確かに、煎餅布団一枚じゃ限界がある。
「そうですね……あ、そうだ。ティアグラさん、今日、買い物に行きましょうか。私、買いたいものがあるんです」
◇
【高級家具店・ベッドコーナー】
「ほう。人間にしては、なかなか良い趣味をしているな」
ティアグラが一直線に向かったのは、店内で一番高いエリア。『王室御用達』のポップが飾られた、超高級キングサイズベッド。お値段、―― 200万円。
「えっ……!? て、ティアグラさん! こっちのセール品なら5万で……」
「却下だ。おいソラ、ここに乗ってみろ」
――ボンッ
ティアグラに腕を引かれ、私はベッドに倒れ込んだ。雲だ。体が優しく沈み込んで、包まれるような弾力。今まで私が寝ていた万年床とは、次元が違う。
ティアグラが隣に寝転がり、私の腰に手を回す。店員さんが顔を赤らめて見ている。
「あ、あの、ティアグラさん! お店ですから! ( ˶ ̇ ̵ ̇˶ )」
「ふん、知ったことか。ソラ。お前は昨日、寒そうに身を縮めていただろう。私が管理する以上、所有物の健康管理も義務だからな」
(何それ。優しすぎる。てか、いつから私が管理される側になったの?。まいっか。)
「……買います。これ、ください!」
◇
【同日夕方・ソラの部屋】
――ピンポーン
「あ、来ました! はーい!」
「あー、すみませんお客様、ちょっと……無理っすね。これ、入りませんね。どうみてもこの――狭い部屋には入らないっすよ」
「え……ええええええ!?」
【コメント欄】
: wwwwwwwww
: 【悲報】入らない
: クッソワロタ
: サイズ確認しろよwww
: 1DKにキングは無理だろw
: 無計画www
(視聴者数:8,000人 ↗)
「ど、どうしよう……! ティアグラさん、入りません!」
「……なんだと? 私の安眠が阻まれると言うのか? この薄汚い扉ごときに」
ティアグラがゆらりと立ち上がる。右手に、黒い稲妻がバチバチ⚡️と音を立てる。
「なら、壊せばいいだろう。空間ごと拡張してやる」
「だ、ダメです!! ここ賃貸! 敷金! 違約金! 私の信用情報が死にます!!」
必死でティアグラの腕にしがみつく。配送業者は「一旦持ち帰ります」と言って逃げるように去っていった。残されたのは、片付けられて何もない部屋と、煎餅布団だけ。
「終わった……ベッド代200万……」
がっくりと膝をつく私。コメント欄は大爆笑の嵐。
「……ふん。全くだらしない家だ。王の寝具ひとつ受け入れられんとは。おいソラ。こんなウサギ小屋、引き払ってしまえ」
「え? でも、急に引っ越しなんて……物件探しとか審査とか……」
「審査? いらん。土地ならあるだろう。誰にも邪魔されず、どんな大きな家具でも置ける広大な土地が」
ティアグラが指差したのは、テーブルの上に置いてあったダンジョンの地図。その奥深く、誰も立ち入れない『未踏破区域』。
「え……まさか、ダンジョンに住むんですか!?」
「当然だ。私が、最高の城を作ってやる」
「は、はい!?」
「決定だ。荷造りをするぞ、ソラ」
◇
【ソラの部屋(引っ越し作業中)】
部屋中、段ボールの山。
「……ソラ、腹が減った」
「あ、はい! すぐ何か買ってきますね」
「買う? なぜだ」
「そこにキッチンがあるだろう」
「私は、お前の作った『オムライス』が食べたいのだ」
「え……わ、私の手料理なんかでいいのですか?」
不意にフラッシュバックする記憶。
ガシャーン!!
あの日、カイトに投げ捨てられた私の手料理。「貧乏くさい」と吐き捨てられた言葉。
「お前が作るものがいいのだ」
ティアグラはじっと私を待っている。でも、怖い。もし食べて、不味いと言われたら。また、お皿を投げられたら。
……ううん。ティアグラさんは、カイトとは違う。
私は震える手を押さえつけ、フライパンを握った。バターの香り。ふわとろの卵。チキンライスの上に黄色い布団を乗せる。仕上げにケチャップで文字を書く。『マ王』。
「……ッ!! 美味い。卵の甘みと、酸味の効いた米が口の中で踊っているぞ!」
パクパクと、すごい勢いでスプーンが進む。
「天才か? お前は宮廷料理長になれるぞ。いや、魔界の食材を使えば、神をも唸らせるかもしれん」
「ほ、本当ですか……? 貧乏臭いとか、思いませんか……?」
「は? 何を言っている。これは至高の黄金比だ…… おいソラ、おかわりはないのか? これなら鍋一杯分はいけるぞ」
空になった皿を突き出される。一粒も残っていない。綺麗に、全部食べてくれた。
「……う、ぐすっ……」
涙が溢れた。止めようとしても、ポロポロとこぼれ落ちる。
「む? なぜ泣く」
「嬉しくて……捨てられなくて、よかった……っ」
私が泣き崩れると、ティアグラは困ったように眉を下げ、やがて優しく私の頭を撫でてくれた。
「……捨てる? 誰がだ」
ティアグラの声の温度が下がる。静かな、けれど絶対的な憤怒。
「こんな至高の糧を粗末にする愚か者がいたら言え。私がその国ごと消し飛ばしてやる」
その過激で、不器用な優しさに。私の胸のつかえが溶けていくようだった。
【コメント欄】
: !?
: 国ごとwww
: さすが魔王様
: スパダリすぎる
: 「捨てられなくてよかった」って重いな……
: 前の男か? 許さん
: 全力でソラちゃんを推すと決めた
◇
【数時間後】
部屋は空っぽになった。私は一度だけ振り返り、ポストに銀色の鍵を入れた。
――コトン
軽い音がした。カイトとの思い出も、惨めだった日々も。全部、この部屋に置いていく。
「行くぞ、ソラ。新居が待っている」
ティアグラが手を差し出す。私はその手を強く握り返した。
「はい!」
体が浮き上がる。眼下には、灰色の街並み。私たちは雲を突き抜け、真っ青な空へと飛び出した。
――段ボールの隙間に挟まったスマホが、空へ飛び立つ二人の後ろ姿と、青空を映し続けていた。
【コメント欄】
: 行っちゃった
: 神回だった
: 末長く爆発しろ
: 切り抜き班仕事しろ
: ありがとう
: 88888888
(第1巻 完)
最後まで読んで頂きありがとうございます。
同一タイトルの連載版もございます。続きの第2章がまもなくスタートします。こちらも宜しくお願い致します。
さらに物語が動いていきますので、ぜひご期待ください!!
また、
【評価★ ★ ★ ★ ★】
【ブックマーク】
【ご意見・ご感想】
などを頂けます様、心より宜しくお願い申し上げます。
—
伊部 拝(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝)ペコリ




